11.どうぞ、思うがままに…3日目②
「アラン様……どういうことですか」
リリアージュは瞬きもせず、まっすぐにアランを見据えた。その瞳に、先ほどまでの輝きはない。
「おや? 何か誤解しているみたいだね」
小さく笑い声を上げアランは二人に歩み寄ると、彼女の耳元に顔を寄せた。
「リリア嬢……これはね、ダニエルへの忠告さ」
「えっ……あっ!」
アランはいきなりリリアージュの手を取ると、ホールの中央へと彼女を誘い出す。
「アッ、アラン様……これは」
「ダニエル、いい? 本物の紳士ならば、ご令嬢は黙ってその身を預けてくれる……そこにいて」
無言で大きく頷くダニエルを一瞥し、アランはリリアージュの腰に手を回した。
「あっ……」
漏れ出した彼女の吐息に、少し意地悪く唇を歪めながら、アランはリリアージュの手をしっかりと握った。
刹那、情熱を奏でたニ挺のバイオリン。
「さぁ、楽しいダンスの始まりだよ」
「あっ、ちょっと……!」
リリアージュの体に回した腕にほんの少しの緊張を込め、アランは迷いなく一歩踏み出した。
そのステップは音を正確に引き連れ、ホールを優雅に、そして自由に踏み鳴らしていく。
(どうしてこんなにも体が軽いのかしら。この曲は、とても難しいはずなのに……)
流れるようなアランの足捌きに誘われるように、前を向いたリリアージュの顔には、いつしか笑みが戻っていた。
「リリア嬢。ほら、もっと体を預けて……」
「でも……」
「もしかして私の喜びを奪う気、なのかい?」
「喜び?」
「言っただろう? 君を輝かせることが私の喜びだって」
「まぁ……」
リリアージュが戸惑った一瞬の隙を逃さず、アランはさらに彼女の体に緊張を添える。
「リリア嬢……まだまだこれからだよ」
アランの少し乱れた吐息がリリアージュの耳たぶを掠め、彼女の指先にわずかに震えた。
「ついてこれる?」
「……もちろんですわ」
その言葉を煽るように強く響くバイオリン。
「……少し遊んでも平気?」
「どうぞ、アラン様の思うがままに」
「よし……いくよ」
飛び跳ねるような軽快なステップ。
熱を抑えたスロー、からの素早いターン。
その瞬間、リリアージュのドレスがふわりと膨らみ、彼女は優雅に体を逸らせながら微笑んでみせた。
「お嬢様……」
ホールの隅にいたアンナが、思わず息を呑んだ。
「さぁ……リリア嬢、クライマックスだ」
熱を帯びた旋律に重なり合う足音。
体を寄せた二人の視線が絡んだその瞬間、音楽が止んだ。
それでも、繋がれた手は名残惜しく握られたまま——。
「アラン様……」
「リリア嬢、ありがとう」
「私の方こそ、ありがとうございます……こんなに楽しく踊れたのは、初めてです」
「それなら、よかった……きっと今までは、安心して体を預けるのが難しかったのかもしれないね」
「ちょっと、アラン様!」
「さぁ? 私は何か、言ったかな」
真顔で首を傾げるアランに、リリアージュは思わず声を上げ笑った。
「リリア嬢、足は大丈夫? 少し調子にのって、いらないターンまで……」
「大丈夫です。むしろまたいつ試されるかと、いい緊張感がありましたわ」
「試すだなんて……」
「あら。でも、これは褒め言葉ですのよ?」
「褒め言葉?」
「ええ、だって……」
微笑んだリリアージュが、そっとアランの耳元に顔を寄せる。
「女性の喜びは、男性にドキドキさせられること、ですから……」
「いや、あっ……」
呆気にとられ、言葉を失ったアラン。
次の瞬間、彼の顔がみるみる赤くなり、アランはとっさにリリアージュから顔を背けた。
「アラン様、どうかなさいました?」
「いっ、いや……大丈夫」
そんな二人を、ダニエルとアンナは笑顔で見守っていた。




