きらきらゆきだるまさんとちいさなてぶくろ
はじめまして。
『きらきらゆきだるまさんと ちいさなてぶくろ』を
読んでくださってありがとうございます。
寒い季節になると、
雪の降る音や、外の白さが
なぜかやさしい思い出を連れてきてくれる気がします。
このお話は、
そんな“人のこころのあたたかさ”を大切にしたいな、と
思いながら書きました。
少しでも、だれかの心に
ぽっとあかりが灯るような時間になりますように。
「ママぁ、これなあに?」
外は雪がしんしんと降りつづける十二月三十日。
わたしは娘のつーちゃんといっしょに、大そうじをしていました。
つーちゃんが小さな両手で抱えてきたのは、
小さな小さな赤い手袋。
子ども用より、さらに少し小さい、大切にしまってあった手袋です。
「ママ、この手袋、とってもちっちゃいよ〜! なんで??」
その言葉に、胸の奥がふっとあたたかく、そして少しだけ痛くなりました。
わたしは手袋をそっと受け取り、静かに答えました。
「それはね、ママのおばあちゃんが編んでくれたんだよ」
つーちゃんの目が、まんまるになります。
「ママにも、おばあちゃんがいたの?」
「うん。とっても優しいおばあちゃんだったよ——」
そう言ったとき、
降りつづく雪の音が、胸の奥の遠い記憶をそっと呼び起こしました。
* * *
おばあちゃんは小柄で、手先が本当に不器用で、
でも、だれよりあたたかい人でした。
雪の降る町の、古いお家でひとりで暮らしていました。
わたしが遊びに行くと、おばあちゃんは笑って言います。
「みーちゃん、大きくなったねぇ」
おばあちゃんの家のまわりには、
“きらきらゆき”がふわりと積もります。
きらきらゆきで作ったゆきだるまさんは、とっても元気で、春までずっと立っています。
おばあちゃんは、いつもの優しい顔で言いました。
「みーちゃん、見てごらん。
雪はね、だれかを想っていると、きらきら光るんだよ」
そう言いながら、不器用な手つきで
でこぼこのゆきだるまさんを作ってくれました。
わたしが“あたま”で、おばあちゃんが“からだ”。
毎年二人でつくった“きらきらゆきだるまさん”は、
一冬じゅう、おばあちゃんのそばにいてくれました。
* * *
わたしが少し大きくなった年の冬のことです。
おばあちゃんは風邪をひいてしまっていました。
「みーちゃん、ごめんねぇ……おばあちゃん、今日は外に出られんの」
小さなわたしには、その「ごめんね」の理由が分かりませんでした。
約束を破られたような気がして、胸がつんとして、悔しくて、たまらなくて——
「なんで遊んでくれないの!!
おばあちゃんなんか……きらい!」
泣きながら叫んで、その日はずっとお布団にもぐっていました。
* * *
次の朝。
空はとても晴れて、雪がきらきらしていました。
カーテンを開けると、庭からおばあちゃんの声が聞こえました。
「おーい、みーちゃん。ほら……
きらきらゆきだるまさんが来てくれたよ」
その手には、おばあちゃんがひと晩かけてこしらえた
小さな小さな“きらきらゆきだるまさん”が乗っていました。
いびつで、でこぼこで、でも、誰よりあたたかいゆきだるまさん。
わたしはすぐに機嫌がなおって、
ゆきだるまさんと一緒にお家へ帰りました。
きらきらゆきだるまさんは、まるで魔法みたいに溶けず、
わたしの部屋でずっと笑っていました。
「みーちゃんが連れてきちゃったから、
おばあちゃん、今年はちょっとだけさみしいかもね。
春になったら、また会いに行こうね」
お母さんに、そう言われて、わたしは「うん」とうなずきました。
* * *
その年の大みそか。
外は真っ白な雪景色。
きらきらゆきだるまさんが、すこしだけ傾いていました。
そのとき、お母さんがそばにきて言いました。
「みーちゃん……いまからおばあちゃんのところ、行こうか」
「えー? なんで?」
お母さんは、どこかさびしそうにほほえむだけでした。
* * *
車がついたのは、知らない病院の真っ白な部屋。
おばあちゃんは、いつもの優しい顔で眠っていました。
「おばあちゃんはね……きらきらゆきになったんだよ」
「きらきらゆきに……なっちゃったの?」
そっとおばあちゃんの手を握ると、
その手はとてもとても小さくて、
子どものわたしの手ですら、全部包めてしまうほどでした。
——みーちゃん、大きくなったねぇ。
そう聞こえた気がしました。
* * *
家に帰ると、きらきらゆきだるまさんは溶けていました。
溶けたあとから、小さな白い袋と、お手紙が出てきました。
ぎこちない字で書かれていました。
『みーちゃんの あったかい手が
さむくなりませんように』
袋の中には、
“ちいさなちいさな手袋”が入っていました。
わたしは急いで手袋をつけようとしましたが——入りません。
おばあちゃんは不器用だから、
何年も何年も編んで、やっとできたときには、
わたしの手はもうすっかり大きくなっていたのです。
——みーちゃん、大きくなったねぇ。
その言葉が胸に広がり、
わたしは声も出せずに涙をこぼしました。
* * *
「ママー、ねぇママー?」
つーちゃんの声で、わたしは現在に戻りました。
大そうじの途中で、少し眠ってしまったみたいです。
「あのね、この手袋……つーちゃん、はめてみたい!」
「いいよ。でもね、小さいかもしれないよ」
つーちゃんは赤い手袋に手を入れました。
——すると、
すっぽり、ぴったりはまりました。
「つーちゃんの手にぴったりだぁ!
わぁ……あったかい!」
その瞬間、窓の外の雪がきらりと光ったように見えました。
——みーちゃん、大きくなったねぇ。
そんな声が、どこかから聞こえた気がしました。
わたしはつーちゃんの手を握り、
「よし、いまからゆきだるまさんをつくりに行こうか」
と言いました。
降りつもる雪は、きらきらと、あたたかく光っていました。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
外の雪は、時々ふしぎなくらい
静かで、やさしい光を見せてくれます。
そんな光のなかで、
大切な人のことをふっと思い出すことがあります。
この物語が、
読んでくださった方の心のどこかに
そっと寄り添うものであったらうれしいです。
寒い季節、どうかお体に気をつけて。
あたたかくお過ごしくださいね。




