13-3 モフモフドラゴンはダンジョン見廻隊‼
神の世界への扉は光っていてドアノブがあるわけではなく、光の中へ飛び込めば神の世界に入れるということだった。
マトは言う。
「ルチカ、準備はいいか?」
ルチカはニッとして「モチ‼」と応えた。
「じゃあ、入るぞ」
「おう‼」
マトとルチカは光の中へ足を踏み入れた。
光の扉をくぐると眩しく発光する道があって暫く二人は歩いた。
どこからが神の世界なのか戸惑いながら歩くマト。
見たことのない世界というだけでワクワクが止まらないルチカ。
心境は違っても二人は足並み揃えて歩いていた。
すると発光していた道が突然弾けるように散っていき、ただただ真っ白な世界が二人の目の前に現れた。
マトは言う。
「ここが神の世界なのか?」
ルチカは周りを見渡して「なんにもないじゃん・・・」と言った。
真っ白な空間だけがある。
それまであったものが全てなくなったような世界。
そうマトは感じた。
二人には使命がある。
神にりんごを食べてもらわなければならない。
ドラゴンはりんごを渡す神を指定しなかった。
何もない世界だとしても神が一人残っていれば、りんごを与えることが出来る。
マトは諦めず、神を探すことにした。
「ルチカ、ドラゴンに変身して空から見渡すことできるか?」
「うん‼ いいよ‼」
ルチカはポンッとドラゴンに変身して飛び上がった。
疲労困憊のマトは座り込んでルチカが空から世界を見渡す姿を眺めた。
するとルチカが「おおっ‼」と叫んだ。
「何か見つけたか?」
ルチカが下りてきてポンッと人間の姿に戻る。
「神っぽいのいたよ‼」
「マジか‼」とマトは立ち上がり、ルチカに案内されながら歩き始めた。
「なんかねー。神っぽいのもねー、真っ白だったよぉ」
「真っ白?」
「うん。だからねーわかりにくかったけどー動いてたから多分、神‼」
歩き始めて少し経った頃、ルチカが前方を指さして言う。
「ほらほらほらほら‼ あそこあそこ‼ なんかいるぅ‼」
マトはよく目を凝らしてルチカが指さす方を見た。
そこには薄く発光する人間の形をした真っ白な何かがいた。
「ホントだ‼ あれは神かもしれない‼」
「でしょー‼」
興奮したルチカは走って向かおうとするが、マトの足が痛んでいることを思い出して、マトに肩を貸して早歩きで向かうことにした。
「ほいさ‼ ほいさ‼」
一生懸命なルチカの横顔を見てマトは言う。
「ありがとうな、ルチカ」
ルチカは二ッと笑う。
「ルチ達、バディでしょ!」
その言葉にマトは笑みをこぼした。
そして神の近くに二人は辿り着いた。
神の名は『ヴァ―リ』と言った。
ルチカより背は高いがマトよりは小さかった。
遠くから見た通り、人の形をしており、白くて薄く発光している。
ヴァ―リはマトとルチカの存在に気付くと二人を見つめた。
マトはこちらから話しかけるべきか迷った。
だが、ヴァ―リは二人を見つめるだけで何もしてこない。
ルチカは言う。
「ねーねー。マト、どうする?」
マトは意を決する。
「俺が説明する・・・‼」
マトは膝をついて敵意がないことを精一杯示すと、伝わるかわからないが自分達の言葉を使ってこれまでの経緯を話した。
ヴァ―リの反応は殆ど無いに等しかったが、出会った時から目線を逸らそうとしないことから興味をもたれているとマトは判断した。
そしてマトは言う。
「ルチカ、りんごを見せるんだ」
「しょーち‼」
ルチカはポケットからりんごを取り出して袖でりんごを拭いた。
ルチカは言う。
「ほら、食べなよ‼ 味の保証はできないけど、たぶん美味しいと思うよ‼」
ヴァ―リはじっとりんごを眺めた。
するとヴァ―リは手を伸ばしてりんごに指先で触れた。
ルチカは言う。
「んっ‼ あげる‼」
ヴァ―リはルチカを一瞥した後、りんごを掴んで口に運んだ。
ヴァ―リがりんごを齧ったその瞬間、ヴァ―リから光が放たれ、神の世界全体に広がった。
マトとルチカ諸共飲み込んだ光は気付くとなくなっており、二人は神の世界の空中にいた。
「うわっ‼ 飛んでるよ‼ マトォ‼」
「ホントだ‼ な、なんでだ⁉」
急な変化を楽しむルチカは神の世界の姿が変貌したことに気付く。
「見て‼ すごいよぉ‼」
マトは神の世界を見下ろす。
何もなかったはずの神の世界に海が出来ていた。
そして大きな波が起こると波が引いた場所には大地が出来た。
大地からは次々と植物の芽が出て来て一気に大地は緑色になっていった。
ルチカは空を飛び回れることに気付き「マトォ‼ 見て廻ろうよ‼」と言った。
マトは「おう‼」と返事してルチカと飛んで行く。
緑色の大地から一本だけ勢いよく伸びている芽があって、それは次第に巨大な木になった。
その周りを二人は飛んでアールヴヘイムに行くと妖精達が暮らしていた。
そのままヴァナヘイムを通ってアースガルズの中へ入った。
そして奥に進むとニヴルヘイムに着いて、二ヴルヘルを見下ろした。
「ここはあまり長居できないな」とマトが言うとルチカが何かを見つけたようで「マトマト‼ あれ見てぇ‼」と言った。
ルチカが示す場所を見ると人の形をした黒い何かが一体、マトとルチカを見上げていた。
ルチカは言う。
「あれパーンかもよ‼」
「パーン⁉」
ルチカは「おーい‼ パーン‼ 元気でなぁ‼」と言って手を振った。
マトは手を振る気にはならなかったが(またな、パーン)とだけ心の中で言った。
マトは言う。
「じゃあ、帰るか」
ルチカは名残惜しい気持ちだったが、パーンを見て自分の世界が急に恋しくなった。
「うん‼ 帰ろう‼」
二人がニヴルヘイムを出てミズガルズに入ると急に光に包まれて気を失った。
二人が目を覚ますとモーイモグラの横に建てられた簡易基地のすぐ近くで寝そべっていた。
二人が起き上がると簡易基地から誰かが出てきた。
「マト氏⁉ ルチカ氏⁉」
それはブリンジャーだった。
ブリンジャーはマトとルチカにハグをすると「無事だったのですね‼」と言った。
ブリンジャーはマトとルチカを見送った後、ハーゲンを背負って騎士団の男と脱出していたのだ。
「先ほど医療チームが到着してハーゲン閣下と騎士団の方を連れて行ってもらったところです」
「ハーゲン閣下は無事なんですね」
「ええ‼ それよりお二人は怪我ないですか?」
「ええ。大きな怪我はありません。大丈夫です」
ブリンジャーは「そうですか。ならよかったです」と言って落ち着いた後「それで、例の件は・・・?」
と言った。
ルチカが言う。
「もちろん‼ 大成功‼」
不安そうなブリンジャーの顔が晴れる。
まだ、元気が残っているルチカはブリンジャーに聖域のダンジョンでの出来事を英雄の武勇伝かのように大げさに語り始めた。
そして準備が整うと、マト、ルチカ、ブリンジャーの三人は見廻隊の馬車の荷台に乗って都市へと帰った。
ハーゲンは大怪我でありながら、王の参謀としてのプライドと責任感から回復しきっていないのにも関わらず、一週間で職務に復帰した。
ガウト・ア―マルの死はダンジョン探索での殉死として扱われた。
見廻隊の隊長の席には投票により、満場一致でブリンジャーが就任することになった。
そして、ブリンジャーは隊長の仕事をする傍ら、イーブ博士として神の世界への一件についてレポートにまとめて公表した。
エルフのエンリは見廻隊に残り、ダンジョンでの死亡率を下げることを目的とした医療専門の見廻隊チームを発足し、自ら見廻隊員としてダンジョンの見廻りに勤しむこととなる。
そして、マトとルチカのバディは見廻隊員としての階級を上げてこれまでよりも難易度の高いダンジョンに派遣される見廻隊となった。
神の世界の件から二週間で現場に復帰した二人はこれまでと同様に毎日早朝に目を覚まして、集会所で任務資料を受け取り、ダンジョンへ向かう日々を送ることになる。
この日もいつも通りダンジョンへの任務が待っていた。
寝惚け眼で集会所にやって来たルチカにマトは言う。
「今日も起きられて偉いな!」
ルチカは眠たそうに目をこする。
「う~ん。今日は睡眠のダンジョンがいい・・・」
惚けたルチカの発言にマトは思わず笑みがこぼれた。
「そんなのねーよ!」
マトは、ルチカの頭を撫でる。
「ほら、行くぞ! 任務だ!」
集会所の扉に歩いて行くマトの後姿を見て、ルチカは言う。
「しょーちした‼」




