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1-5 潜入開始

寮の食堂にルチカを案内し、席に着かせたマトは始めてくるルチカの代りに注文をした。


「ほらボッルルだ。食べていいぞ」


「うひょー。これは美味しそうだぁ!」


ルチカは、パン生地の間に生クリームとジャムを挟んだお菓子をムシャムシャと頬張り始めた。


マトは自分も一つ食べるつもりで五つ頼んだのだが、ルチカの幸福そうな表情を眺めているうちにルチカが五つ全てをたいらげてしまった。


「・・・・・・相当腹減ってたんだな」










口元にクリームをつけたルチカがマトを潤んだ瞳で見つめる。


意図を理解できず、数秒考えているとルチカのお腹が再びグーとなった。


「ルチカ。足りないのか?」


「うん」


遠慮して自ら求められなかったことを察したマトはルチカのことを優しい人間なのだと思った。


「わかった。好きなだけ食べていいぞ!」


「マジ⁉ やったぁ‼」


結局ルチカはボッルルを三十個食べた。


「よく食べるな」


「ドラゴンだからね!」


寮から出た二人は件の洞窟ダンジョンに向かうことにした。


「うお‼ 力がみなぎってくるぞぉ‼」


「よし! 行くぞ!」


二人は急いで囲壁の下を通って都市を出た。






        ◇◇◇






見張りがいる洞窟ダンジョン出入り口に堂々と現れるわけにはいかない二人はダンジョン前の草むらに身を隠した。


見廻隊は若手のマトでは意見もできない。それに王直属の騎士団は見廻隊よりも格が上だ。いくらダンジョン内に関して見廻隊の方が熟知していても、命令には従わなければいけない。


「どうやって入ろうか・・・?」


マトが悩ましげにそう言うとルチカが得意気な顔で応える。


「ふっふっふ。マトさんよ。こんな急を要する時に、ルチがただ空腹を満たすためだけにお菓子を食べていたとでも?」


「何か策があるのか?」


「もちろん。ドラゴンにはいろんな技があるのだよ!」










ルチカはまるで自分が英雄かのような勇ましいポーズをとるとポンッと煙を放出し、ドラゴンの姿に変身した。


その姿を見たマトは不思議に思う。


先ほど洞窟ダンジョンで見た時は全身に毛はなく、皮膚がむき出しになっていた。


大きさはマトよりも少し大きいくらいだった。


しかし、今、目の前にいるドラゴンは全身に毛が生えており、とてもフサフサモフモフしている。


それに大きさも違う。全長六十センチくらいしかない。


マトはすぐに理解した。これが本当の姿なのだ。


まだ成体ではないエンファニシィドラゴンの本来の姿。


空腹を満たすことで取り戻すことができたのだ。










「小さいけれど、ドラゴンとしての威厳があって勇ましい姿だ!(愛くるしさもある‼)」


マトの満足したような表情にルチカは言う。


「見せたいのはこれじゃないよ。いくよ! これがドラゴンの技の一つ‼ ドラゴニックテロス‼」


そういってルチカはクルクルと空中で回転を始めると徐々に球体になっていき、そして更に体毛が膨らみフワフワモフモフした球体が出来上がった。


「なんだこれ⁉」


「さぁ! マト! 毛玉の中に入って! これから『風に飛ばされた毛玉』として何気な~くダンジョン内に入って行くよ‼」


「策ってこれのことか?」


「モチッ!」


ルチカは自信満々にそう応えるがマトは不安で一杯だった。










(いやぁ~。これはありなのか? いけるか? 見廻隊の中でも腕の立つ人が集められているんだけどなぁ)


それでも見廻隊や騎士団の凄さを知ってしまっているマトには、他の案が思い浮かばなかった。


(他に穏便に入る策はない。これで行こう)


マトはルチカのモフモフした毛に触れ「こん中に入ればいいんだな?」


そうマトが聞くと、毛玉から人間の姿のルチカの顔だけがニョキッと出てくる。


「モフモフで気持ちいいよ!」


大きさ的にマトも入れる大きさである。


マトは右足から入り、バランスを取って顔を最後に入れようとしたが、フワフワした毛玉の中では安定した足場がなく、そのまま吸い込まれるように全身が毛玉の中に入っていった。


どっちが上かもわからない状態であったが、マトは毛玉の気持ち良さに魅了され、どうでもよくなった。










ルチカが「しゅっぱーつ‼」と言うと毛玉はコロコロと転がって洞窟ダンジョンの出入り口に向かった。


洞窟前まで着くと一度停止した。


一直線にダンジョンに入るのはさすがに怪しまれるとルチカが考えた。


「次、風吹いたらもう少し近付くね」


(見張りはまだ、こちらを気にしてないな)


見張りは出入口の真横に二人と少し離れた位置に二人。


そして、風が吹いた。


「抜き足差し足だぜ」


毛玉がコロコロと再び転がり始めた。


離れた位置の見張りの視界に毛玉が入り、二人同時に凝視した。


しかし、特に反応はなく毛玉は転がって出入口の前まで来た。


すると出入口真横の一人の見張りが転がってくる毛玉を見て近付いて来た。


(まずい!)










近くで凝視する見張り。


その一方でもう一人の見張りが声をかける。


「おい。何をしているんだ」


毛玉を凝視する見張りは振り返って応える。


「いやぁ、なんかゴミが転がってきたからよぉ」


「ゴミ? ならそこらへんに蹴り飛ばしとけ」


「おう」


そう言って見張りは毛玉を蹴り飛ばそうと足を引いた。


その見張り達の会話に毛玉の本体であるルチカは思わず「ゴミじゃないぞぉ‼」と叫んでしまった。


その瞬間、二人の見張りは一瞬の驚愕の後にすぐさま警戒態勢に入る。


「何者だ‼」


「やばい! ルチカ!」


「問題ないっ‼」


毛玉は飛び跳ね、近くの見張りを飛び越え、出入口に立つ見張りの股の下を潜ってダンジョンの中へ入った。


「どうよ‼ マト‼」


「いやいや。バチクソにバレてるよ‼」


「まっ、過ぎたことはしょうがないっしょ!」

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