11-4 走れ!! ルチカ!!
ブリンジャーが蠢くシャドーシャークの群を一匹残らず殺すと、ガルガが二人に合流した。
ルチカは焦って言う。
「ルチだけでも飛んで助けに行って来る!」
ブリンジャーはルチカの肩に手を置いて引き留める。
「先ほども言いましたがそれは危険です」
「でも! 落ちたら死んじゃうよ!」
「あの大量の魔力を放った者の正体は、おそらく『念』でしょう。誰かがシャドーシャークからクジラを連想したことで大穴に生息していた念が飛び跳ねて来て一瞬、ぼく達の前に現れたのです」
「それがどうしたんだよぉ~!」
「今回は大丈夫でしたが、再び念が現れ、二度も三度も念の魔力を浴びればぼく達も気を失います」
「じゃあ、なおさら早く行かなきゃ!」
「駄目です。ぼくが思うにクジラを連想したのはシャドーシャークの全体を見た直後のルチカ氏なのではないでしょうか」
その言葉を聞いてルチカはもじもじしながら言う。
「う~ん。まぁ・・・したけど・・・」
「攻めているわけではありません。ぼく達は壁にそって降りていたから偶々接触しませんでしたけど、焦って飛んで降りて行けば念と接触する恐れがあります。念と接触すれば意識を失う程度では済みません」
「え~でもぉ~」
「それにまた、クジラを連想して念が現れ、意識を失った場合、どうしようもありません」
「う~ん」
「安全装置をつけた上で助け合えるチームで行動しましょう」
「でもマトが死んでたら・・・」
「生きていることに賭けましょう」
そう説得するブリンジャーだが不安を抱えていた。
念の魔力を浴びてから自分の体に取り付けた安全装置の動きが鈍くなっていたのだ。
話を聞いていたガルガは言う。
「チームの指揮をブリンジャーさんに任せます。指示を出してください」
「わかりました。作戦は変わりません。このまま壁に沿って進んで行きます。ただ、少し急がねばなりません」
ルチカは言う。
「当然!」
その瞬間、大穴のから再び念が飛び跳ね、魔力が三人に襲い掛かる。
ブリンジャーとガルガは膝をつく。
「くっ・・・ルチカ氏・・・?」
「あっ! ごめんっ! 急がなきゃって思ったらついつい念のこと考えちゃったぁ」
ブリンジャーは安全装置を確認する。
安全装置は火花を散らしながらなんとか自分の責務を全うしようとしていた。
「まずいです・・・安全装置の寿命が近そうです」
「なにぃ⁉」
ガルガは言う。
「ど、どうするんですか⁉ ブリンジャーさん‼」
「安全装置に残された魔力量には影響はないみたいです。なら、作戦は一つでしょう」
「なに?」
「全力で走る‼ ただ必死に‼」
覚悟を決めた三人は「うおっー‼」と掛け声を上げて全力で走り始める。
安全装置が壊れる前に内蔵魔力を使えるだけ使って少しでも進む。それがブリンジャーの作戦だった。
三人は残り九千八百メートルを全力で走り切るつもりである。
三人は走りに走った。とにかく走った。
途中ルチカが念を出現させる予定調和のアクシデントもありつつそれでも走った。
念を出したルチカは涙を流し叫ぶ。
「ごべーん‼」
「問題ありません!」
問題があるかどうか考える余裕などないのだ。
とにかく走る。落ちるまで何も考えずに走るしかないのだから。
そしてその時は来た。
内蔵された魔力はなくなり、度重なる魔力の攻撃によってボロボロになった安全装置は完全に停止してしまった。
三人は抵抗も許されずそのまま落下し始めた。
「うわーーーーーー‼」
ただ真っ逆さまにグングンと落ちていく三人。
いつまで落下するのか、そして底に着いた時、どうなってしまうのか。
そんな不安がブリンジャーとガルガの頭の中をぐるぐると回る一方、飛べるルチカは落下をそれなりに楽しんでいた。
(空から滑った時みたいだぁ‼)
終りがない落下に思えたが、三人は視界の奥に小さな点を見る。
「なにあれぇ!」
落下と共に小さな点に近付いて行く。
そしてその点が何か三人は察する。
それは意識を失って落下した八人だった。
マトをはじめとした八人は底に背を向ける形でフワフワと浮いていた。
「マトだぁ‼ なんか浮いてるぅ‼」
三人もそのままマト達が浮かぶ空間に突っ込んでいく。
ルチカがマトに触れようとした瞬間、体がフワッと浮き上がり、落下が止まる。
ブリンジャーとガルガも同じように近くで安堵の表情で浮いていた。
ルチカはマトの体をさする。
「マトォ! 起きてぇ!」
ルチカの何度かの呼びかけにマトは意識を取り戻す。
「う~ん・・・ここは・・・?」
「大穴の中だよ。たぶんめっちゃ下の方」
ガルガはガウトと親衛隊を、ブリンジャーはハーゲンと騎士団の男を起こした。
ブリンジャーとガルガはそれぞれ状況の説明をした。
ガウトは言う。
「そうですか・・・私達は運よく助かったのですね」
マトを起こしてテキトーな説明をしたルチカは暇になり、大穴を見渡していた。
するとルチカが何かを見つける。
「おっ! あれだぁ!」
他の十人はルチカが指さした方を見た。
何もない空間に座る月面探索チームの真下で光る球体が浮かんでいた。
ガウトは立ち上がり見下ろす。
「・・・これが『月』・・・」
ルチカは言う。
「お菓子のダンジョンのやつとめっちゃ似てるねぇ~」
ガウトが月に近付こうとするとガルガがガウトの体を掴んだ。
「隊長。冷静になってください。触れていいものかどうかわかりません」
ガウトは言う。
「既に言ったはずです。私が最初に触り『月』が引き起こす現象を確かめると。例え私が犠牲になってもあなた達が引き継いでいけばいいのです」
「しかし!」
ハーゲンが言う。
「好きにさせろ。その男は何を言っても考えを変えんよ。どうなろうが一つの情報として処理しろ」
ガルガはガウトから手を離して下がる。
ガウトは言う。
「それでは触れます」
ガウトはしゃがんで月へ手を伸ばした。
ガウトの手が月に触れると、ガウトは音も立てずに消えた。




