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11-1 お別れ

空から地上に続く滑り台を滑るということは普通の人間にとって恐怖でしかないということは想像するに容易い。


滑れば滑る程スピードが増し、滑り台から落ちるのではないかという恐怖心とも戦わなければならない。


そうであれば涙を流し、鼻水をだらしなく垂れ流し更には少し尿が漏れてしまうことも仕方のないことなのだ。


マトは阿鼻叫喚の中、滑り台から地上に着地すると「もう一回乗りたい!」と言いながら人間の姿に戻ったルチカの戯れ事に何も返すことができずその場に倒れ込む。


「はぁはぁはぁ。もう絶対空にはいかなぁい」


「えー!もっとドラゴンの国、探検したいよぉ! また行こうよぉ!」


「一人で行け・・・!」


「バディのくせに! ぷんぷん!」


二人がそう会話をしているとルチカの背後からとある男が現れる。


「ご苦労だった。マトにルチカ」


二人はその男を見ると、そこにはハーゲンが立っていた。


「ハーゲン閣下・・・」


「空から奇妙な降り方をしてきたな。その様子なら何かを掴んできたんだな」


「は、はい!ただちに報告をしに・・・」


ハーゲンばマトの言葉を静止すると「まず、ワタシの方から君達に良い知らせと悪い知らせがある」


「・・・知らせ?」


ハーゲン、マト、ルチカの三人は見廻隊本部へ向かって歩き出した。


ハーゲンは言う。


「君達が七階への階段を登った後、塔の抵抗はより一層強くなってな。


結局、ワタシやガウトを含めて全員塔に飲み込まれてしまった。


だが、君達が塔を攻略するとワタシ達は塔から解放されて命に別状はなかった。


塔に強制的に魔力を吸われていたワタシ達はすぐに動けず、医療チームの助けを借りた。


君達を追えなかったのはそういう理由があった」


「なら、部隊の皆は、無事なんですね!」


「・・・重症、軽症の違いはあれど、皆生きている。ただ、一人を除いてね」


「・・・一人?」


「彼は見廻隊でありながら、我々騎士団にも力を貸してくれた。そして今回の任務でも勇敢に戦っていた。ワタシは殉死したパーン・ラフンソンに敬意を示す」


「・・・・・・パーン⁉」


マトはハーゲンの言っていることをすぐには理解できなかった。


さっきまで塔であんなに元気に戦っていたではないか。


動きが良く腕も衰えていなかった。


塔のダンジョンに入る前には他愛のない会話もした。


なのに・・・。


「・・・本当なんですか?」


「ああ。受け入れ難いが真実だがな」


「そんな・・・・・・」


塔のダンジョンを攻略し、空のダンジョンに行き、ドラゴンの国で使命を背負った。


疲労困憊なマトに受け止めきれない現実が重くのしかかる。


ハーゲンは淡々と続ける。


「第一発見者はガウトの親衛隊だそうだ。ガウトがすぐに医療チームに治療させたが手遅れだった」










絶望のどん底の中、マト達は見廻隊本部に到着した。


見廻隊本部の一階には、ガウト、ブリンジャー、親衛隊の一人である筋骨隆々の男がいた。


マトとルチカの存在に気づくとブリンジャーがマトの肩に手を置いて「マト氏・・・パーン氏は・・・」

マトは言う。


「大丈夫です。全部聞きました」


ガウトは「マト君。心中お察しします。見廻隊の隊長として私もとても辛い」と言って、親衛隊の男をマトの前に行かせた。


「彼が倒れていたパーン君を見つけてくれた親衛隊のガルガ君です」


ガルガは言う。


「自分がパーン氏を見つけた時には既に息はなく、心臓の鼓動も聞こえませんでした」


マトは


「ありがとうございます」と言ってガウトに


「パーンは今どこに?」と聞いた。


「私の部屋に安置してあります。行きますか?」


「はい。お願いします」


皆で隊長室に向かった。


隊長室に入ると棺桶が部屋の真ん中にあって側にエンリと医師が立っていた。


ガウトが言う。


「既に医療チームがパーン君を綺麗にしてくれました。傷などは目立たないはずです」


マトはエンリと医師に礼を言ってパーンの青白くなった顔を見る。


「パーン・・・お前・・・」


パーンの死を確認したマトの目からは涙が溢れて流れ落ち始めた。


隣で眺めるルチカの目にも涙があった。








マトはパーンに話しかける。


「思えば、養成学校に入ってから初めてできた友達がお前だったな。


俺が馴染めず孤立していたところにお前が話しかけてきて知り合ったな。


俺が魔法のことで自信を失って落ち込んでいた時も励ましてくれて、自分の強みを磨き始めた時もパーンだけは気づいてくれていたな。


バディになってからは喧嘩ばかりしていたけれど、パーンとの仕事はかけがえのない思い出だよ。


本当は・・・本当はこれからも何かと一緒に仕事するもんだと思っていたよ。


ありがとう。さようなら」


ルチカも「思ったほど悪いやつじゃなかったよ。バイバイ」と言った。


ガウトは言う。


「一晩ここにいてもらっても構いませんよ」


マトは首を振る。


「いえ、これで充分です。このような機会をいただきありがとうございました」


別れを終え、隊長室からブリンジャー、エンリ、医師がでて行く中、マトとルチカは最後の最後までパーンを見つめた。


そしてマトの目にそれは写った。


塞がれたはずのパーンの傷口から流れる血を。


ルチカがマトの袖を掴む。


「マトォ」


マトはハッとする。


「ん?」


「ルチがいるよ」


「・・・そうだな」


マトはもう一度パーンの傷口を見る。


傷口からは、血どころか流れた跡すらなかった。

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