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9-4 扉の前で

パーンは火を纏った拳で大量発生した風船魚を次々と倒していく。


近くで親衛隊がディールと戦っている。


親衛隊の視界を奪う風船魚をパーンが排除していたのだ。


邪魔がなくなった五人の親衛隊はディールの群を相手に攻撃を畳みかける。


その間、ガウトの周辺に護衛がいなくなるため、気を利かせてパーンがガウトの側に行く。


ふと、パーンがガウトを見ると、ガウトは眼帯をしていない方の目を抑えて床に足をつけていた。


パーンは近付いて声をかける。


「ガウト隊長! 大丈夫ですか!」


「ええ・・・大丈夫です」


するとパーンの声でガウトの様子に気付いた親衛隊達がディールを即座に片付け、ガウトのもとに集まる。


大きな体の男は、パーンを押しのけてガウトの顔色を伺う。


パーンは後ろに飛ばされて尻もちをついたが、親衛隊は誰一人心配もせず、ガウトの事だけを見つめていた。








マトとルチカが部屋を出ると部隊は五階への階段を上っていた。


ガウトの周辺にパーンの後ろ姿を見てマトは安心した。


待ってくれていたブリンジャーと共に二人は階段を上った。


順調に塔を攻略している。


魔物を一匹残らず倒すことにはマトもルチカもブリンジャーも納得は出来ていないが、今のところ特に問題が起きているわけでもない。


ガウトと騎士団の様子には驚かされたが、部隊の強さは信頼できる。


このまま塔のダンジョンを初クリアできるかもしれない。


そうマトが感じていた時だった。


五階に着くと既に異変は起きていた。


合同部隊の人間数人が塔の壁に吸い込まれていたのだ。


吸い込まれた人間は姿が完全に消えてしまった。


ガウトは言う。


「塔の反撃だ! 一同! 最上階に登ることを最優先に動け!」


部隊は部屋の探索をやめて一斉に六階への階段を上りだす。


「どうなっているんだ? 塔の反撃?」


ルチカが言う。


「まるでダンジョンが生きているみたいだね」


「確かにそんな言い方だったが、ダンジョンが動くには必ずエネルギー源が必要だ・・・」


とそこまで言うとマトは何かに気付いた表情になった。


「どしたん? マト」


「いや、取りあえず俺達も登ろう!」


三人は遅れて六階への階段を上る。


階段でも何人か壁に取り込まれたようで騎士団の男の腕が壁から出ていて、ズズズと壁の中に入っていった。


六階に着くとガウトが言う。


「七階が最後だ! おそらく七階では魔物との戦闘は避けられないだろう! それでも恐れず、勇敢に立ち向かうのだ!」


部隊が七階への階段に向かうと六階の全ての魔物が階段の前に現れる。


更に五階の魔物が階段を上がって来ており、挟み撃ち状態になった。


魔物と睨み合っている最中も次々と部隊の人間が壁に取り込まれていく。


部隊はとにかく動き続けるしかないと悟り、魔物と戦い始める。


「どうやら友好的な魔物はいないみたいですね」


三人は背後にいる五階の魔物と戦い始めた。










魔物の数は多いものの合同部隊を苦戦させる程の強さを持つ個体はいなかった。


しかし、予想外に塔の部隊を取り込もうとする動きが活発で部隊の人間達の戦いの足枷となった。


塔に取り込まれる者が増えていく中、最前線とは違い、五階から来た魔物討伐はそれなりに進んでおり、マト、ルチカ、ブリンジャーが五階の魔物を粗方倒すと六階の魔物との戦いに目を向けた。


その時、マトは気付く。


部隊の人間の数も減ったが、魔物の数も減ったことで七階への階段までの道が開かれていたのだ。


マトは言う。


「ブリンジャーさん! チャンスでは?」


「命令通りなら、ぼく達が行くべきですね」


三人は階段へ向かって走り出した。


その三人の動きに気付いたガウトは叫ぶ。


「頂上にさえ行けば、塔の暴走は終わるだろう! 頼んだぞ!」


三人は返事をして七階への階段を駆け上がる。









階段の中腹辺りまで来ると七階からディールが三匹下りて来ていた。


先頭を走っていたマトが地面に手をついてサーチを放とうとすると背後にいたブリンジャーが「マト氏! 危ない!」と叫んだ。


マトは顔を上げるとディールの頭上にある天井から石でできた大きな手が生えていた。


石の手がマト目掛けて落ちてくる。


ブリンジャーはマトとルチカを押しのけて前に立ち、前方に落ちてくる石の手を魔法で消し去った。


二人が石の行方に気を取られていると三匹のディールもいつのまにか消えていた。


それを見たルチカは「あ! また!」と驚いた。


マトは礼を言うために立ち上ってブリンジャーのもとへ行く。


するとブリンジャーが「うっ!」と言って腹を抑えていた。


「どうしたんですか⁉」


「石の手に気を取られている隙にディールの攻撃を受けてしまった」


ブリンジャーの腹から血が出ていた。


「そんな・・・・・・」


マトが動揺していると後ろにいたルチカが「う! うわぁ!」と叫んだ。


二人が振り返るとルチカが壁に取り込まれそうになっていた。


それを見たブリンジャーは瞬時にルチカを引っ張り上げてマト目掛けてルチカを投げる。


しかし、その反動でブリンジャーは壁に体を打ち付けてしまう。


壁は容赦なく、ブリンジャーを取り込み始める。


マトが助けに入ろうとするとブリンジャーは「助けなくていい。手負いのぼくは足手まといだ。二人で進んでくれ」


「ブリンジャーさん!」


ブリンジャーは完全に壁に取り込まれた。


マトは悔しがりながらも「行こう」と言った。


ルチカは塔に接触しないためにドラゴンに変身する。








二人は七階へ階段を上がる。


「ルチカ。このダンジョンが攻略されていない理由わかるか?」


「わかんない」


「それはこのダンジョンに『頂上に登ってはいけない』という『制限』があるからだ」


「見廻隊が設定した・・・・・・わけはないか」


「そう。ダンジョンが課せてきたモノだ」


「おそらく魔物の完全討伐はダンジョン内の環境(体質)を変化させる目的だったんだろう。


正直、見廻隊の存在意義に反しているし、やっていることはめちゃくちゃだが、こうやってダンジョンに変化があった」


「制限ってことは館のダンジョンみたいに魔力の供給元があるんだよね」


「俺が思うに、ダンジョンを動かしていたのは恐らく魔物の魔力だろう。


それがなくなった今、塔は人間達から魔力を供給しようとしている。


だから、とにかく早く頂上に行かなきゃ皆は魔力を全て吸い取られて、最悪死ぬかもしれない」


「やべーじゃん!」








二人は七階に到着する。


七階には奥に頂上への扉があり、その前を何百ものヘルムイが陣取っていた。


ヘルムイの他にはタンクムリがそこらじゅうで眠っている。


「ヘルムイを倒さなきゃ扉は開けれそうにないな」


ルチカがジッとヘルムイを見つめ近付こうとするとヘルムイはザーザーと音をたててルチカを威嚇した。


ルチカは話しかけようと試みたが、ヘルムイは集まって槍の形を作るとルチカ目掛けて突っ込んできた。


マトはルチカを脇に抱えてタンクムリを盾にして隠れる。


ヘルムイの槍が当たったタンクムリは「タンクムリィ・・・タンクムリィ・・・」と言って涙を流した。


タンクムリの魔力を豊富に蓄えた体はヘルムイの槍に傷一つ付けられず、槍の衝撃を吸収した。


ルチカはマトに「大丈夫。ルチカに任せて」と言ってヘルムイの前に出る。


ルチカは言う。


「時間がない。一発で勝負をつけようぜ。ヘルムイ」


ルチカの言葉が伝わったのか、ヘルムイは全員一ヵ所に集まり、大きな蟻へと形を成した。


そしてルチカへ向かって突進した。


ルチカはお腹に溜めた炎の魔力を口へ持って行く。


ルチカはエンファニシィドラゴンの全力で炎の弾を放った。


巨大な炎の弾は突っ込んでくる蟻達を次々に飲み込んでいく。


炎の弾が消える頃には一匹も残らずヘルムイは焼失してしまっていた。


タンクムリの後ろに隠れていたマトがルチカに駆け寄る。


「助かったよ。ルチカ」


ルチカは得意気に言う。


「これぞドラゴンの極意よ!」


「ああ。凄かったよ」







二人は頂上への扉の前に行く。


そこで二人は気付く。


「塔が静かになった」


「うん。塔が抵抗を始めてからあった小さな揺れもないね」


塔が人を取り入れて魔力を吸い取り、抵抗の糧にしていた動きは二人が頂上目前に辿り着いたことで終息した。


ルチカは人間の姿に戻る。


マトは言う。


「ガウト隊長がこの塔に神秘性を求めた理由は、この塔が人工物ではなく自然にできた建物だからだ」


「この塔、人が作ったんじゃないの? 館のダンジョンみたいに」


「いつのまにか建っていたらしい」


二人は扉に触れる。


ルチカは言う。


「この先に何があるんだろ」


二人は塔の頂上への扉を開いた。

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