9-3 ルチカのニューヘアスタイル
マトは土の魔力でサーチを発動する。
ビシュリオンの放った炎の輪っかをサーチ内にある床の石タイルを立たせて壁にすることで防ぐ。
続いてサーチの範囲をビシュリオンまで伸ばして足元の石タイルをひっくり返す。
ビシュリオンが倒れ込むとマトはサーチに流す魔力を炎に切り替えてビシュリオンへ放つ。
マトは今の自分の炎の火力ではビシュリオンを倒しきれないことを理解していたため、距離を詰め、短剣を取り出してビシュリオンに突き刺した。
ブリンジャーが二人のもとに来る。
「マト氏! ルチカ氏! 部隊は三階へ上がって行きましたよ!」
「行きましょう」
三階に上がると部隊は既に魔物との戦いを始めていた。
騎士団に連れていかれたパーンも怯むことなく魔物と戦っていた。
マトはその姿を見て「腕は落ちていないな」と安心した。
ガウトは親衛隊に守られながら、戦いの中心地を進んでいた。
三階から四階へ上がる階段では、ハイドゥルが魔力を放ち、階段に近付かせないように威嚇している。
ハイドゥルの魔力に触れると火花が散り、最悪の場合爆発する可能性がある。
部隊は慎重に遠距離魔法を放って対処する。
マトもそれに加わり、サーチスキルを生かした中距離魔法でハイドゥルを倒した。
四階ではマトとルチカは二人で一つの部屋を任された。
その部屋は外から見ると何もいないように見えたが、照明魔道具で照らしながら慎重に部屋に入った。
部屋の中心まで来ると隅の方でコソコソと音がする。
「いるぞ。気を付けろ」
「うん」
照明魔道具の明度を上げる。
二人は部屋を見渡すが何も見つからない。
またもコソコソと音が鳴り、二人が警戒を強めると今度は部屋中から音が鳴り始めた。
「複数いるぞ」
と言ってマトが足を一歩前へ出すと足に違和感を覚える。
「なんだ?」
足の違和感を確かめようと足元に視線を向けたその時だった。
マトの右足がグニョリと曲がって立てなくなった。
マトはバランスを崩して倒れそうになる。
体を庇おうと出した右肘が床に触れると今度は右腕の肌から油が大量に出て滑って床に倒れ込んでしまう。
それを見てルチカが「マトォ!」と声を出すも「動くな!」とマトが静止する。
「マスメニアンだ! 床にいるマス目を踏むな! 体の情報を捻じ曲げられるぞ!」
マトは背中に激しい痒みを感じる。
動きには関係ないため両手を床につけて魔法を使おうと試みる。
マトが床に両手を付けると両手が急に切り傷だらけになり、血が飛び散り始める。
ルチカは心配そうに「大丈夫なんかぁ?」と言うと「ルチカ、俺が合図を出したら飛べ!」とマトは言った。
「あいよっ!」
マトは部屋全体にサーチを発動させると流していた炎の魔力に命令を出す。
「飛べ!」
ルチカが天井に向かって飛ぶと床中に炎が広がった。
マスメニアンは「ぎょし~~ぷぅ~」と鳴いて死んでいった。
マトの体は元に戻り立ち上ると天井でゴンッ!と鳴り、頭を押さえたルチカが下りてくる。
「いてて。飛び過ぎたぁ」
「大丈夫か? 見せてみろ」
そう言ってルチカが頭から手をどけるとルチカの旋毛の部分にあるはずの毛がなくなっていた。
「お、おい、ルチカ⁉」
「なに? 血でも出てた?」
「毛が・・・・・・」
「毛?」
ルチカは自分で頭を触って確認するとすぐに毛がなくなっていることに気付く。
「んおっ‼ どうなっているんだぁ‼」
「天井に頭ぶつけた時に全て持って行かれたんじゃないか?」
二人は天井を見上げる。
照明魔道具によって照らされた天井にはマスメニアンが一匹、ニコニコしながらルチカの頭頂部を眺めていた。
ルチカは全てを察し「テンメェだなぁ! ルチのモフモフを奪ったのはぁ! 許さねぇからなマジで!」
ルチカはマスメニアンに向かって口から炎を吐きだした。
炎は勢いよくマスメニアンに向かっていくが、マス目に触れた瞬間、ボソッと消えた。
「なにぃ!」
マトは言う。
「炎の情報を捻じ曲げられたんだ」
「チッキショー!」
ルチカはマスメニアンがいるマス目以外を狙って炎を撃ち、マスメニアンのいる場所を床に落とそうとする。
しかし、天井は焦げるだけで破壊できない。
「くそぉ! 硬すぎ!」
マトは言う。
「作戦は理解できるが、このダンジョンとは相性が悪かったな。引き続き冷静に対処しろよ」
ルチカは腕を組んで考える。
「う~ん。う~ん」
悩むルチカの姿を見てマトは(学者みたいだなぁ)と思った。
すると「わかった!」と言って意気揚々と鼻の穴を広げながら息を吸う。
ルチカは片方の鼻を抑えて、風魔法をマスメニアンに向けて放った。
強風に当てられたマスメニアンは天井から剥がれて飛ばされ、ヒラヒラと床に向かって落ちてきた。
床にも天井にも接していないマスメニアンを狙ってルチカは炎を放つ。
「食らえ! 髪の敵ぃ!」
マスメニアンはシュゥゥゥと燃えて灰になった。
「ナイスだ! ルチカ!」
「へへん! ルチはこんな戦い方もできるのだ!」
ルチカの頭頂部の毛が戻ると「わ~! ルチの大事なお毛毛だぁ~!」と言ってワサワサと触った。




