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1-3 モフドラ惨状!!

(ドラゴンを落ち着かせる方法。今まで読んだ本の中に何かないか‼)


マトは見廻隊に入隊後、自分の得意不得意を理解し、知識の取得に集中した。


これまで見廻隊の仕事に関係がありそうな本を片っ端から読んでいき、少しでも任務に生かそうと考えていた。


その膨大な本の記憶の中を必死に探っている最中にマトは先ほど、パーンに言われた言葉を思い出していた。


『役立たずの蘊蓄(口だけ)野郎』


強く塞いだ口から息が零れる。


今みたいなピンチの時こそ、自分がやってきたことが出るんだ。


自分は今まで何をしてきた。


任務に役立てるために知識を蓄えたんじゃないのか。


今。今この場を切り抜ける方法を知識の中から掘り出さなければ意味がない。


(パーンに偉そうに命令したんだ。ドラゴンは任せろと。ここで口だけじゃないってとこ見せないと‼)










葛藤の最中、本によって得られた膨大な知識からマトは一つの可能性を見つけた。


(そうだ‼ ドラゴンの子守唄だ‼)


威嚇を続けるドラゴンの目をマトは見つめた。


(人間の赤ちゃんは生まれる前、母親のお腹の中で母親の心臓の音を聞いている。だから生まれて間もない赤ちゃんなら抱きしめて心音を聞かせてあげることで落ち着いて泣き止む。それは魔物も同じ。ドラゴンは魔物でも人間でもないけれど、心音で落ち着かせるのと同じような理由で、ドラゴンは子守唄を子どもに聞かせる)


しかし、マトには不安なことがあった。


(俺はドラゴンの子守唄を聞いたことがない。そもそもドラゴンを生で見るのもこれが初めてだ。それにこのドラゴンはまだ成体じゃないが、赤子でもない。子守唄を歌ったとして聞いてくれるか?)










現状を打破したいのはドラゴンも同じようで最後の警告の如く今まで以上の雄叫びを上げ、威嚇した。


(悩んでいる時間はないか。子守唄の歌詞は本で読んでいる。聞いたことはないがそれっぽくやってみるか)


マトは本で見た通りの鳴きまねをドラゴンのように勇ましく、そして穏やかに行った。


すると目の前のドラゴンの鋭くキマッた目はトロンとして動きが止まる。


次第にドラゴンは目を閉じてその場に伏せ始めた。


(やった‼ 成功した‼ 想像でしかなかったけど、音程があってたんだ‼)


しかし、喜ぶのも束の間。


目の前の眠りだしたドラゴンに異変が生じ始めた。


「な‼ なんだ⁉」










眠りについたドラゴンは急激に小さくなり始めて、翼はなくなり、皮膚の色が変わり、更には手足の指が三本から五本に変化した。


マトが目の前の現象に呆気に取られている間に瞬く間に目の前のエンファニシィドラゴンは一人の人間の少女へと変わった。


「なんてことだ⁉」


今までドラゴンだと思っていた相手が人間の少女だったのだ。


(まさか、この子は竜人⁉)


驚愕するマトであったがすぐに自分がやるべきことを理解する。


地面の上で眠る少女を持ち上げ、背負った。


(とにかくここから出よう。恐らくダンジョンに異変が起きている)


来た道を戻ろうと歩き始めるとゴブリンを追っ払ったパーンが合流する。


「マト! 大丈夫か?」


「ああ。なんとか」


マトの背中で眠る少女を見てパーンは「ん? 誰だ? そいつ。てかドラゴンは?」



         ◇◇◇



囲壁を越えて都市の中に入ったマトは見廻隊本部への調査報告をパーンに任せ、少女を自分の寮の部屋へと運んだ。


普段マトをはじめとした若手の見廻隊は、隊が用意した寮で生活をしている。


一人一部屋が与えられるもののその狭さに嫌気がさした若手はお金をためて寮を脱出することを目指している。






マトはその狭い部屋のスペースのほとんどを占領するベッドに少女を寝かした。


黒髪ボブの少女はマトの目算で十代中盤、十四か十五歳くらいだ。


十九歳のマトからすると大きく年が離れているわけではないが、小さい身体の少女が痛々しい姿をしているのを見て心苦しかった。


医療隊の医師から怪我の手当てを受けており、外傷は見た目ほど悪くなく、すぐに治ると診断された。内臓にも異常はなくマトは安堵した。










目の前で眠る謎の少女へ思いをはせながら少女の顔を眺めていると、突如少女の頭が小刻みに揺れ始めたかと思うと「んんんんんんんんんっっっっっっ」と唸りだし、血走った目をギンギンに開いた。


そして、急に「ポンッ」と髪の毛が丸く膨れ上がり、アフロのようになると少女は起き上がり言った。


「はあ~‼ あのゴブカスぅ‼ マジ殴りてぇ~‼」


急な出来事にマトが「うわっ」と声を漏らすとマトの存在に気付いたのか少女は顔の向きを横にした。


「えっ⁉ だ、誰⁉ ルチの部屋で‼」


少女の驚きようにマトは慌てて「お、俺は怪しい者じゃない!」と言って事の経緯を話した。


「あぁ~なるほどぉ~。助けてくれたんだ! ありがと!」


マトの説明に納得した少女は二ッと笑ってそう言うと、髪形がボブに戻った。


(理解してくれてよかった)










「ということはルチが竜人だってことも知っている感じ?」


「ああ。ドラゴンの姿から人に変わるところを見たからな」


「そっか。ならしょうがないね。隠せるなら隠しておきたかったけど・・・」


「そのことについて話がしたい。けどその前に自己紹介をしよう。俺の名前はマト・レイル。ダンジョン見廻隊をやっている」


「ワタシはルチカ・ド・ヘットって言うんだ‼ ルチカって呼んでよ‼」


「おう! よろしく! そういえば、なんか珍しい目覚め方だったな!」


「うっ。それは・・・。どうにも人間の起き方がわからなくて・・・」


「人間の起き方?」


「いやぁ~。ルチ、あんまり人と深く関わってこなかったから、人間がどうやって目覚めるのか皆目見当もつかなくて・・・」


「いや、普通でいいよ。なんで人間が奇怪な目覚め方してると思ってんの⁉」


「えっ? そうなん? 普通でいいの? ルチの今までの努力なんだったん?」


「いや、知らねぇよ」

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