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8-3 御神体

マトは壁画のダンジョンでの話をする。


「任務報告でもしましたが、俺達は壁画のダンジョンでベルセルクの狂乱の記憶を見ました。ベルセルク達が入っていった最古のダンジョンの中は暗闇があってその暗闇に歪がありました」


ブリンジャーが訝しげに反応する。


「歪?」


「はい。ベルセルクも英雄もその洞窟に足を踏み入れた時点でその歪に飲み込まれて消えて行きました」


ガウトは言う。


「私がグンターに聞いた通りだ。グンターもその歪を知っていた。そしてその先に神の世界が広がっていると。神の世界を夢見てグンターは儀式を行い、あちらへ渡ろうとした」


マトは言う。


「しかし、歪に飲み込まれた英雄の一人ディートリッヒはこの世界の、壁画のダンジョンに飛ばされたんです」


ブリンジャーは言う。


「なら、歪の先は神の世界ではないのでは?」


ガウトは言う。


「呼ばれなかったのでしょう。神の世界に。儀式が失敗すれば死ぬかもしれない。私達のような神の世界の人間ではない者が行こうとすれば、そういう危険が孕んでいるのでしょう」


再び隊長室に沈黙が流れる。









ガウトは口を開く。


「私達は人間の住むこの世界と神の世界そして冥界。それらが存在すると教わり、信じてきました。しかし、私はそれだけではないとも考えています」


ブリンジャーは言う。


「『九つ世界論』ですね」


「ええ。人間界をミズガルズと呼び、神の住む場所をアースガルズ、冥界を二ヴルヘルと呼びます。この他にも六つの世界が存在しているという考えです」


「それが?」


「私は人間界にあるダンジョンのどれかに人間界以外の七つの世界と繋がるダンジョンが存在すると考えています」


ブリンジャーは言う。


「九つ世界論の真偽はわかりません。神の世界や冥界があるのかもわかりません。確かめる方法も・・・」


「確かめる方法はあるでしょう」


マトは言う。


「儀式ですか・・・・・・・」


ガウトは「ええそうです」と言うとマトの目を見つめながら「私と一緒に夢のダンジョンへ行きませんか」と言った。


マトが返答に困っているとガウト笑顔で言う。


「実は言うと私は一人で何度か儀式を行おうとしたんです。しかし、全て失敗に終わりました」


ガウトは胸にある傷を見せる。


「槍を刺したんですか⁉」


「はい。何度か死にかけました。共に行けないのであればしょうがありません。どうか儀式を成功させる方法だけでも一緒に考えてはいただけませんか?」


マトはガウトの夢のダンジョンへの執着度合いに気圧され返事をする。


「わかりました」








マトはグンターと行った儀式について詳しく聞いた。


マトは言う。


「初めて英雄の剣を抜いた館ダンジョンで同じ光景を見ました。魔法陣を囲うように菩提樹が設置されていました」


そしてモニが見せた画像の中に館の元主が儀式に失敗して菩提樹に吊るされながら死んでいたことも話した。


ガウトは言う。


「なるほど。何か私の話と違いはありましたか?」


マトは館ダンジョンで見たことを事細かに思い出す。


あの儀式を見た時、違和感を感じたはずなのだ。


その違和感の正体はなんなのか。


マトは魔法陣や菩提樹、クロータ人形と一つ一つの光景を思い出す。


マトは言う。


「俺が見たのは剣を御神体としている光景でした。


魔法陣の中心に剣が刺さっていたんです。


その御神体の周りで儀式が行われていたのだと思います」


「御神体・・・・・・そうか・・・・・・しかし、当時の御神体がなにかはわからない」


「もし館の儀式と関係があるのなら、英雄の剣を御神体の代わりにできるのではないでしょうか?」


ガウトは立ち上がり、隊長室の壁に掛けてあった三本の剣を取ってテーブルの上に置く。


その場にいる四人は英雄の剣から溢れる魔力を感じる。


「やはり、ただの剣ではないのでしょうね」








ガウトは言う。


「マト君。ご協力感謝します」


「いえ。お力になれて幸いです」


「それでは早速ですが、明日儀式を行いたいと思います。ルチカ君は心の準備をしておいてください」


ガウトのその言葉にマトは焦る。


「ちょ、ちょっと待ってください。ルチカも儀式に参加するのですか?」


ガウトは笑顔で言う。


「もちろん。マト君は断りましたが、ルチカ君からはそのような言葉は聞いていませんからね」


マトはルチカを見る。


ルチカは言う。


「デージョーブだって! ルチはドラゴンだから死なないって!」


「そんなわけないだろ! 考え直せ!」


ガウトは言う。


「ルチカ君も立派な見廻隊員です。ご自分のことはご自分で判断できるでしょう」


「そんなぁ・・・」


ルチカはマトの肩にポンと手を置いて「デージョーブだって!」と言った。


ガウトはブリンジャーに向きなおって言う。


「先ほど申し上げた通り、ブリンジャー君にも仕事があります。あなたにはルチカ君の護衛をしていただきます」


ブリンジャーは言う。


「ぼくも夢のダンジョンに行くのですか?」


「いえ。違います。おそらく夢のダンジョンに入れるのは意識だけです。ですので、夢のダンジョンに入っている間は体が無防備です。それを護っていて欲しいのです」


「わかりました。お任せください」


ガウトはさっぱりした表情で言う。


「さ! 話はまとまりました! ルチカ君とブリンジャー君は明日に備える必要があります。すぐに帰って体を休ませて下さい」


そうガウトが会議を終わらそうとすると考え込んでいたマトが口を開く。


「待ってください! 俺も行きます! ルチカと夢のダンジョンへの儀式に参加させてください!」


ガウトはニッコリとして言う。


「ええ。共に行きましょう」

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