7-3 マトの真価
三人はダンジョンに足を踏み入れた。
ダンジョンの中は小さな立方体の岩石が敷き詰められていて外とは雰囲気が違う。
小さな岩石が集まって大きな立方体のブロックを作り上げている。
ブリンジャーは言う。
「大体五メートル歩いたら別のブロックだと思った方がいい」
「境目には気を付けましょう。逸れたら厄介だ」
ルチカは自信満々に言う。
「同じブロックにいればいいじゃん!」
するとブロックが上下に動き始め、道がうねうねと曲がり始めた。
ルチカがバランスを崩して別のブロックに倒れそうになったところをブリンジャーが手を取って引っ張る。
「ブロックの移動ってわけではないみたいですね」
マトはルチカの安否を確認して言う。
「通常時でもこんなに動くんですね。奥に行くのは楽ではないな」
ブロックのうねりが治まるのを確認した三人は歩き始めた。
次のブロックに移ったところで前と後ろのブロックがガクンッと音が鳴った。
すると前後のブロックが動き始めて上へ上ると下から別のブロックが上ってきた。
マトとルチカが目の前のブロックの移動に気を取られていた時、背後に魔物の気配を感じた。
二人は焦って振り返るも後ろには何もいなかった。
(おかしいなぁ。確かに魔物の気配がしたんだが)
二人の様子を見てブリンジャーが言う。
「どうかしました?」
「いえ、魔物の気配がしたもので・・・」
「あっそうなんですか」
「なんだお前! 上級のくせにあんなわかりやすい魔物の気配も気づけないのかぁ?」
「いやぁ、ついついブロックの揺れに気を取れていてですね。なんせ、ぼくが推している姫様がいるんですけどぉ、その姫様が起こると丁度このくらい地鳴りがするなぁと思い出しましてぇ」
「姫様ぁ?」
「そうそう。ぼく、姫サーに入ってるんだけどぉー、もぅ姫様ッたら、ちょーキュートなんよぉ。茶をしばく姿、ボッルルを齧る真っ白な歯、ぼくのお尻をしばく際の勇敢なる鞭使い! もぅ姫サーの姫様ったら、たまんなくぼくの心を鷲掴みにしちゃってぇ。ぼくが姫に恋心を寄せていることはひ・み・つですよ! それでさー」
ルチカは一人語りが始まったことを察して
「はいはいはい! もうわかったからぁ!」
ルチカの怒声にハッとなったブリンジャーは言う。
「はぁ~またやってしまった。姫様にも自分の得意なこととなると一人で喋っちゃう癖、治さないと彼女できないって言われているんですよぉ・・・とほほ」
「たくよぉ~。こいつホントに大丈夫かぁ~」
ブリンジャーは即刻立ち直り「安心してください! 任務はしっかりやり遂げる男だと姫様のお墨付きを頂いているので!」と言った。
マトは言う。
「あのぉ、そのさっきからおっしゃっている姫様というのは・・・?」
「もちろん! 国王の娘さんですよ!」
「本物の姫様ですか・・・」
「姫サーですからね! 任務が終わったら真っ先に報告し行く予定です!」
ルチカが呆れながら言う。
「あまり浮かれるなよ。英雄の剣を抜く任務は壮絶でそんな簡単なモノじゃないからな!」
「はい! ルチカ氏! 肝に銘じます!」
「ふっいい返事だ! 中々見込みがある」
そんな二人を見てマトは苦笑いをした。
(仲がいいのか悪いのか)
「さぁ! 我らが司令塔マト! 道案内をしたまえ!」
マトは任務資料を開いた。
「取りあえずこのまま真っ直ぐです。気を付けて欲しいのは、岩石に簡易的な魔法陣のマークが刻まれている場合があるそうです。それが入れ替えに影響していると」
「それに気を付けながら進むんですね」
ルチカがマトの袖を掴んで言う。
「ねーねーそれならマトのサーチでなんとかならないの?」
マトは悩ましい顔をする。
「う~ん。わからなくはないと思うけど、俺のサーチは片手で移動しながらでもできるけど、基本両手を地面につけて行う方が正確なんだ。だから、別のブロックに移る度にやっていたら時間がかかるな」
とマトがそこまで言うとブリンジャーが目を輝かせながら言う。
「マト氏! サーチが使えるのですか!」
「ええ、まあ、はい」
「すごいじゃないか! とてもいいスキルだ! ぜひ! ぜひ! 拝ませてはくれないでしょうか!」
興奮気味の上級見廻隊員に若干引きながらもマトは「どうでしょう・・・」と言って躊躇った。
ルチカがそれを察して言う。
「いいじゃんマト。見せなよ。マトのサーチはとても正確だよ。上級とやらに見てもらいなよ」
ルチカがマトに自信をつけさそうと励ましているのがマトにはわかった。
一番近くで自分のスキルを見てきたルチカがお世辞抜きで言っているのだ。
マトは勇気を出してサーチを行うことにした。
マトは両手を地面につけてサーチを発動した。
魔力が三人のいるブロック全体に広がった。
マトは言う。
「何もありません。次に行きましょう」
とマトが言うと不思議そうに考え込むブリンジャーが動こうとしない。
「どうしたんですか? ブリンジャーさん」
「う~ん。マト氏のサーチってなんか変ですね」
思い当たることしかないマトは胸を撃ち抜かれたような衝撃を受ける。
「へ、へ、へ、へんですか・・・?」
「はい! たぶんですけど、マト氏のサーチってスキルだけの力を使っていますよね! うまく魔力が機能していないというか!」
「・・・なんで・・・わかるんですか?」
「そりゃあ、魔力を感じれば大体わかりますよぉ~」
マトは俯きながら言う。
「・・・そうです。俺のスキル・・・いや、魔法は未完成です」
「そんなに落ち込まないでください! サーチ自体はしっかりできていますから」
「ホントですか・・・ありがとうござ」
「でも! 魔力に属性こめられていないですね!」
ブリンジャーは笑顔でマトの痛い所を突くとマトは心がズキズキした。
「ええ。サーチスキルと魔力の属性がどう関係しているのか、答えを見出せないんです」
「なるほど関係性ですか」
「はい。スキルは魔力がないと発動できません。なので、スキル使用時、属性関係なく魔力を使ってスキルを使用しています」
「うん。それは基本ですね」
「つまり、何が言いたいかと言うと、サーチに属性って関係ないじゃないですか? だから、魔力の属性とスキルの関係性を考えるのが難しくて」
「なるほど。でもね、マト氏。どんなスキルも魔力の属性との関係性を深く考えるべきだし、サーチだからといって属性が関係ないなんてことはないんですよ」
「と、いうと」
「マト氏はご自分のスキルの本質を知るべきです。サーチとは何か。サーチという能力はどうやって構成されているのか。それを知れば、スキルに属性がつくことの価値を理解できるはずです」
「サーチの構成要件ですか・・・」
「マト氏が使える属性はなんですか?」
「火と土と風です」
「おお! 三つも使えるんですか! 素晴らしい! 属性の種類もむしろサーチと相性いいと思いますよ!」
「そうですか?」
「はじめは、火だとイメージしづらいですね。掴める属性がいいですね」
「土属性ですか」
「土属性ならサーチの本質、理解しやすいかもしれません!」
「わかりました。やってみます」
マトは地面に手をついて土属性の魔力でスキルを使用した。
無論マトはこれまでも属性がついた魔力でスキルを使用してきた。
サーチに魔力の属性は関係ないとサーチの結果だけを見てきたのだ。
しかし、マトはブリンジャーのアドバイスによってサーチ使用時の魔力の動きにまで意識を向けた。
(サーチの本質。サーチはどのように構成されているのか)
マトは自分の魔力が手のひらから地面に広がっているのを感じた。
そして、魔力が小刻みに震えているのがわかる。
(なんだ? これは)
小刻みに震える魔力の意味を考えた時、その魔力の振動が手のひらにまで伝わってきていた。
今までにない感覚。マトは気付く。
(俺は今までサーチスキルでサーチができるのは、そういうものだからだと深く考えずに使っていた。
でも、体の中の魔力が手のひらや地に着いた足から地面に移動していっているのがわかる。
体外に出た魔力はちゃんと俺の魔力と途切れることなく繋がっている。
魔力を形作る魔力の粒子が震えることで空間の形や生き物や物の場所を正確にスキャンして教えてくれているんだ!)
つまり、スキルとは魔力の動き方を決めるもの。
(そうか。魔力はスキルを使った後も生きているんだ!
サーチを使った後も繋がりがあるから、間接的にも触れることができる。
つまり、サーチの本質は自分の魔力を広げて自分が操れる領域を作ることにある。
ならば、魔力の属性にも意味がある。土属性なら、俺が触れているこの地面を操ることができる!
俺の魔法の本当の使い方!)
マトが自分の魔法の本質に気付いたその時、ダンジョンが動き始める。




