7-2 モフドラ、動くダンジョンへ行く
打って変わってブリンジャーは真面目な顔つきで言う。
「改めましてブリンジャー・エキソンです。普段は見廻隊として攻略難易度の高いダンジョンで冒険者の救助をメインに活動しています。
光栄なことに実力を買われ騎士団と合同で任務を行うことも多々あります。
それがあってか、英雄の剣を回収するという大変貴重な任務にガウト隊長とハーゲン閣下から推薦していただいて、この度『英雄の剣抜き抜き大作戦』に参加させていただく運びとなりました。何卒よろしくお願いします」
ブリンジャーの真面目な挨拶にルチカは
「おう! まともに挨拶できるじゃねえか! よろしくな!」と言うとマトはルチカの頭を押さえて「よろしくお願いします」と言った。
気を取り直し、マトは任務資料を開いた。
「今回潜るダンジョンは通称『入れ替えダンジョン』と呼ばれるモノでダンジョンの中が動くという特徴を持っています」
マトの説明にルチカが「なんだ動くって! 楽しそうだな!」と反応するとブリンジャーは「ルチカ氏は『動く』という意味をどう捉えていますか?」と質問した。
「うにゃうにゃ?」
「間違ってはいないですね。マト氏は入ったことありますか?」
「いえ、聞いたことはありますが、入ったことはないです」
「そうですか。じゃあ、説明しますね。このダンジョンはそれぞれ独立した『空洞の立方体ブロック』が連なっていると考えればいいんですよ。そのブロックがルールに従って移動するんです。移動というのは、他のブロックと場所を入れ替わるってことなんです」
ルチカは頭をパンク寸前にしながらなんとか理解したようで「なるほど。だから入れ替えダンジョンなのか」と言った。
「ええ。ルチカ氏の言う通り、ブロック同士が上下に動いてうにゃうにゃすることもあります」
任務資料よりもわかりやすく詳しい上級見廻隊ブリンジャーにマトは質問する。
「ブリンジャーさんはこのダンジョンに入ったことがあるんですか?」
「ええ。何度か。入れ替えダンジョンの噂はマト氏も耳に入れたことありますよね?」
マトは表情を曇らせて「はい」と応えた。
ルチカは「なにぃ? それぇ」と間に入る。
「入れ替えダンジョンでは、よく人間の死体が見つかるんです。身なりからして冒険者の場合もあるんですか、明らかにダンジョンに潜らないような一般の人のも見つかるんです」
ルチカも察しがついたのか「ほーほー。遊びに来たわけじゃなさそうだなぁ」と言った。
「見つかる死体には大体ナイフのような刃物で刺された傷があるんです。一般人の死体が立て続けに発見されたことで、調査が必要と判断され、ぼくが入ることになったんです」
「ここに死体捨てるメリットってなんかあるん?」
「このダンジョンは五階層あって上下左右にブロックが移動するんです。
なのでとにかくダンジョン内に死体を入れちゃえば、別の場所に自動的に移動してくれます。
なので見つかりにくいですし、見つかっても魔物によるものだと考える人も多いです。
そして何より、見つかっていないだけでブロックの移動によって潰された死体もあると言われています」
ルチカは「ダンジョンを使って人殺しが行われているってことかぁ」と言うと怒りのこもった表情で「そもそもダンジョンは魔物にとって家。魔物も迷惑してるよなぁ」と言った。
マトは言う。
「ブリンジャーさんは入れ替えダンジョンの攻略経験があるということでいいんですか?」
ブリンジャーは気まずい表情で「いや、その任務の時は攻略情報を制作している見廻隊員と一緒に潜ったから、ぼくは移動ルールについて詳しいわけじゃないんだ。折角来たのに頼りないぼくでてごめんね」
「いえ、全然大丈夫です」
「任務資料にはなんて書いてあります?」
「一応、攻略情報はありますけど、あくまで確率の話なんですよね。確実性がそこそこの」
「ぼくが潜った時とあまり変わらないですね」
ダンジョンに潜りたくてソワソワしだしたルチカが言う。
「じゃあ、ダンジョンギミックは『特徴』が『入れ替え』で『ルール』は半分未解明ってとこ? 制限はなし?」
「そうだな」
「よっしゃ! 炎ブッパだ!」
「慎重に頼むぞ」
ブリンジャーが微笑みながら言う。
「ルチカ氏の魔法を見るのが楽しみです」
三人は気を取り直してダンジョンの外観を確認する。
ダンジョンの外観は普通の洞窟と変わらないが、入り口の横に『死体遺棄ダメ絶対‼』と書かれた看板が設置されている。
その他にも『観光禁止‼』や『地図必須‼』『思い出そう母の顔』『遊び場ではありません』『バーベキュー禁止』などかなりの数の警告文の書かれた看板が設置されている。
マトは任務資料を開いて言う。
「ちなみに五階層と言っても魔物の生態系は各階に違いはないそうです。魔物の確認をしましょう。ここでは『フィメラ』がメインにいるそうです。他にもゴブリンやボサィラー、ワルガモリが生息しています」
ブリンジャーは洞窟の中の暗闇を見ながら
「魔物がたむろするブロックが偶然入り口付近に移動してきている可能性もあります。慎重に入りましょう」と言った。
ダンジョン入り口から照明魔道具を先に入れて中の様子を確かめる。
照明魔道具は真っ暗な洞窟内を照らして異物のない空洞のブロック内を三人に見せた。
マトが「特に魔物の気配はないですね」と言うとルチカが「行こうぜ!」と言った。




