6-5 記憶のダンジョン
ドラゴンに変身したルチカはマトを追いかけることを優先して飛んでいたが、地面を這って追いかけてくる傭兵狼を振り切れないと判断し、ドラゴンの姿で炎魔法を使った。
マト程慎重ではないルチカは、狭い洞窟内ということを考慮せず盛大に炎を放った。
四匹の傭兵狼は燃え上り、息絶えた。
煙と少しの焦げ臭さが気になったが、ルチカは人間の姿に戻って地面に座り込んだ。
「はぁ。疲れたぁ。結構飛んできたけどなぁ。どこ行っちゃったんだろー。マトォ」
ルチカが呑気に休憩をしていると急に周りの地面が小さく揺れ始めた。
「ん? なんだ?」
ルチカが立ち上ると地面から土の壁が出てきてルチカを囲ってしまった。
「うお! 閉じ込められた!」
土の部屋は部屋の形を保ったまま、ゆっくり地面の中に戻った。
閉じ込められたルチカが部屋の中を見渡していると部屋の壁や床、天井の土からキノコが生えてきた。
キノコは生え始めるとそのまま土が見えなくなるほど部屋全体に生えた。
「うっわ~きっしょ~」
しかし、感想を言っている場合ではない。
閉じ込められては困るのだ。
ルチカがどう動くか考えていると足元のキノコが動いたように感じた。
ルチカが足元を見ると土に生えたキノコが動いていたのではなく、自分の左足からキノコが生えていることに気付いた。
「なっ! なんじゃこりゃ~!」
ルチカはすぐさま左足に生えたキノコを引っこ抜く。
少々の痛みはあったが意外と簡単に抜けて安堵していると今度は右足にキノコが生えてきた。
またもキノコを引き抜くと(ま、まずい! このままこの部屋にいるとルチがキノコになっちゃう!)
なんとかしなければいけない。
だが、炎を吐こうにもこの密室で制御されない炎を吐くのが悪手であるとルチカは理解していた。
(風魔法? いやぁここでは意味ないよなぁ。それに、あれ何発も撃つと鼻がヒリヒリするしなぁ)
策を練るのが苦手なルチカは困り果てた。
「どうしよぉ・・・マトォォォ」
泣きべそをかいているこの時も体にキノコが生えていく。
弱い痛みも何度も受ければ、ダメージは蓄積され体力は消耗していく。
(う~んう~ん。どうしよどうしよ)
ルチカは必死に考える。
自分ができることでこの状況を突破できる手はないか。
これまでのダンジョン攻略やマトによる魔法のアドバイスを思い出し、ヒントを探した。
そしてルチカはマトに普段耳に胼胝ができるくらい言われた言葉を思い出す。
ルチカは呟く。
「魔法を制御できるようにならなきゃ」
ルチカは館ダンジョンで炎魔法を強制的に制御された時の感覚を思い出そうとする。
(あの時は確か、体の力が勝手に抜けていったんだった)
今まで全力で力んで魔法を放ってきた。
唯一威力を制御できている風魔法も同じだ。しかし、マトからは再三リラックスするように言われてきていた。
(あの時みたいに力を抜くんだ)
ルチカは体の力を抜き、炎属性の魔力が喉元まで上がってくるのを待った。
その間も体にはキノコが次々と生えてくる。
ルチカは魔力にのみ意識を集中させた。
そしてついにルチカは目をカッと開き口内に炎の弾を滾らせた。
「今だ!」
ルチカはこれまでとは違う大きすぎない炎の弾を放った。
炎魔法は目の前のキノコを燃やし、消滅させるとそのまま燃え移らず消えた。
「やった! できた! 制御できた!」
だが喜んだのも束の間、燃えてなくなった場所から新しいキノコが生えてきたのだ。
「かー! しつこい!」
要領をつかんだルチカは次々とキノコを燃やしていく。
生えては燃やし生えては燃やしの繰り返しでルチカは疲労がピークに達し始めた。
「くぅ。どうなってんだぁ」
そこでルチカは思い出す。
館のダンジョンでギミックを設定していた剣の存在を。
「こういうものは力を供給している『何か』がいるはず!」
ルチカはキノコを燃やしながら部屋の隅々まで観察した。
すると燃えて消えたキノコの下に人間の形をした何かを見つけた。
ルチカが近付いて見てみるとそれは、複数のキノコが集まって人間の形を成していたのだった。
マッシュルームヘアの人間が壁にもたれて座っているように見えた。
ルチカはキノコ人間を観察してあることに気付く。
キノコ人間の指先からキノコの軸のようなものが生えていてそれが土の中に入っている。
「これだ! こいつがキノコを生やしているんだ!」
ルチカはキノコ人間の上にキノコが覆いかぶさって守らないうちに瞬時にキノコ人間を燃やした。
すると新しくキノコが生えることがなくなり、更に土の部屋の天井にヒビが生え始めた。
マトは傭兵狼が真っ直ぐ自分を引っ張ってきたことを理解していたため、そのまま真っ直ぐ引き返せばルチカに会えると考えた。
もちろんルチカが分かれ道で曲がったりしていなければだが、マトは曲がっていないことにかけるしかなかった。
マトがルチカに再開できることを願いながら歩いていると地面がぐらつくのを感じた。
「なんだ?」
するといきなり地面からルチカが飛び出してきた。
「うおぉりゃぁ!」
マトは驚いて声も出なかった。
地面に飛び降りたルチカは周りを見渡し、呆然とするマトの姿を認めた。
「マトォ! こんなとこにいたんだぁ!」
「お、おう。ルチカこそ・・・・・・」
事の経緯をお互い話し、再び英雄の剣に向かうことにした。
「マトォ。ここからどうやって行くの? 現在地わかるの?」
「もちろん。傭兵狼に引きずられながら、分かれ道の数を数えていたからな。今どこにいるかわかっている」
「さすがだぜ! マトパイセン!」
マトは二ッと笑って言う。
「さ! 二十個分かれ道を戻って再出発するぞ!」
「え・・・・・・?」
疲労を感じながらも二人は英雄の剣に向かって歩き始めた。
再出発以来、英雄の剣が刺さっている場所までに起きた困難は歩き疲れのみだった。
魔物と出会うこともなく、迷うこともなかった。
途中、ルチカが歩くのを拒否し、おんぶを強要されたことがマトにとっては一番こたえた。
英雄の剣は館ダンジョンの時と同じく、壁にもたれるように存在する岩の下に刺さっていた。
剣がある空間にも壁画があり、マトは先ほどの動く壁画を思い出した。
ルチカが剣に近付く。
「ほんじゃ、さっさと抜いて帰りまひょか」
そう言ってルチカが剣を握った瞬間、剣が光りを放ち、その光に照らされた壁画が動き始めた。
「なんじゃこりゃー!」
壁画は移動していき次第に一つの場所に集まった。
集まった絵は一つに重なって一人の人間の絵になると徐々に絵の描きこみが増えていき、最終的に写実的な絵になった。
そしてその絵が映像のように動き出す。
その映像を二人は黙って見ることにした。
まず、普通の外観をした洞窟が映し出された。
洞窟の中は暗闇だったが、暗闇の空間が歪んでいるように見える。
その歪んでいる暗闇から半裸の男が現れた。
男はロン毛で筋骨隆々で背が二メートルを超えていた。
手には斧を持っていた。
男が周りを見渡していると洞窟から同じような男が二十人程現れた。
皆、手には何かしらの武器を持っていた。
男達は洞窟の外を歩き回ると都市を見つけ、都市に住む人間達を次々に捕え始めた。
刃向かう者は容赦なく殺した。
都市にいる一般の兵士では全く歯が立たなかった。
男達はそのまま都市の人達を誘拐して自分達が出てきた洞窟に連れて行った。
ここまで見るとマトは気付く。
「これ・・・ベルセルクだ・・・」
「ベルセルクの狂乱ってやつ?」
「おそらくな・・・」
映像は続く。
都市の人間達はベルセルクに抵抗をし続けたがベルセルクによる災害は歯止めが利かず、恐怖の中人々は暮らしていた。
そんな中、三人の王宮戦士が立ち上った。
三人の戦士は仲間を募り、軍を形成しベルセルクと戦った。
激しい戦いの末、ベルセルクを洞窟の前まで追い込んだ英雄軍は最後の力を振り絞ってベルセルクを洞窟の中に追いやった。
洞窟の中に入るとベルセルクは暗闇の歪に飲み込まれて消えてしまった。
その後、英雄軍は洞窟の周りに残されていた住民達を見つけた。
しかし、誘拐された人達の半分しかいなかった。
リーダー格の英雄三人以外は、住民を連れて都市へと戻った。
三人は洞窟の中を調べることにしたのだ。
三人はまだベルセルクがいる可能性を考慮して慎重に洞窟に入ろうとした。
しかし、英雄三人には誤算があった。
その暗闇の歪に触れなくとも、洞窟に足を踏み入れた時点で歪に飲み込まれてしまったのだ。
そして、英雄の一人ディートリッヒはとあるダンジョンの中で目を覚ます。
そのダンジョンの壁には絵が描かれていた。
ディートリッヒはこのダンジョンの存在を知らなかった。
ディートリッヒはダンジョンから出るため、歩き始めた。
途中魔物と出会うも戦いで負傷しているとはいえ、軍のリーダー格だったディートリッヒにとって倒すことは容易かった。
だが、それも初めだけだった。
ディートリッヒが飛ばされたダンジョンは迷路のようになっており、外に出る道を見つけることができなかった。
やがてディートリッヒは衰弱していき、最後は魔物に倒され、その生涯を終える。
ここで映像が終わり、壁画は元の場所に戻っていった。
ルチカは壁画の見せた映像に気を取られ、スポンッと剣を無意識に抜いていた。
マトはその剣を見つめ「これは英雄ディートリッヒの『ミームング』という剣だ」と言った。
ルチカも英雄の剣を眺めた。
「こいつが頑張ったから今のルチ達があるのかもね」
「そうだな」
二人は帰路につくことにした。
ルチカは言う。
「ねーねー。この剣が壁画ダンジョンの正体なのかな?」
「どうかな。剣を抜いても壁画は残っているし、そもそもディートリッヒさんがこのダンジョンに来た時から壁画はあったろ」
「あーたしかに」
「あの映像もこのダンジョンの特徴が見せたんだと思う」
英雄の馬に乗った二人は、マトの見解通り任務を日帰りで終えることが出来たのだった。




