1-2 ゴブリン撃退法
パーンはドラゴンよりも高い場所にある壁に向かって魔法を放つ。
「待て‼ 無闇に攻撃するな‼」
パーンの魔法は壁に当たり、崩れた壁の岩がドラゴンの頭上に落ちてくる。
ゴブリンに集中していたドラゴンは急なことに対応が遅れ、落ちてきた岩が頭に直撃してしまう。
ドラゴンはそのまま地面に落下した。
「何をやってんだ‼ 見廻隊が無闇に攻撃魔法を使うな‼」
パーンは落下したドラゴンの元へ寄って行った。
「大丈夫だって、倒しゃあいいんだって」
落下地点は砂煙が立ち込めている。
「さあ、持ち帰ろうぜ! ドラゴン!」
砂煙が晴れようとしたその時だった。
砂煙の奥で立ち上るドラゴンの姿をパーンは見てしまった。
小さくともドラゴンはドラゴンであった。
人間など容易く取って食えると思わせる程の威厳。
更にパーンは目測を誤っていた。
パーンが思うほどドラゴンは小さくなかった。
少なくともパーンよりは大きかったのだ。
パーンは恐怖のあまり、尻もちをついた。
「パーン‼ 大丈夫か‼」
そこへマトが駆け寄り、パーンを立たせた。
ドラゴンの脅威をマトも感じとった。
階段の上にいた四匹のゴブリンが階段を下りてきた。
マトは言う。
「パーン。俺がドラゴンをなんとかするから、お前はゴブリンを撤退させてくれ」
パーンは階段から自分達の方へ走ってくる四匹のゴブリンを撤退させるべく、ゴブリンの前へ立ち塞がった。
ゴブリンはすぐ背後にある階段に戻ることなくパーンとの戦闘を選んだ。
ゴブリンを撤退させる術。
それは見廻隊であれば誰しも見廻隊養成学校に入学後直ぐに教わること。
不真面目な言動が目立つパーンとはいえ、しっかりと心得ている。
パーンはポケットから袋を取り出して、中にある小さな金属の破片を階段の上へ投げる。
できるだけ遠くを狙って投げた金属の破片は狙い通りの位置に高い音を立てて落ちた。
三匹のゴブリンは、金属が地面に落ちる音を聞くとすぐさま踵を返して、降りてきた階段を駆け上がり、金属の音がした場所へ走っていく。
ゴブリンは光るものが好きだ。
特に金属には目がない。
もちろん金や通貨コインの方がウケはいいが普通のゴブリンであるならば金属の破片でも十分である。
普通のゴブリンなら。
金属の破片を追っていったのは三匹であり、残り一匹のゴブリンはパーンを凝視している。
知能の低いゴブリンでも時より、知能の発達した個体が現れる。
このゴブリンはパーンがなんでもないただの金属の破片を投げたことを見抜いていた。
そして何より、散らばった金属の破片なんかよりも、この目の前にいる人間を襲った方がより多くの金属または、キラキラした物を手に入れることができるではないか。
人間は通貨コインを持っている。そちらの方がレアだ。人間から奪い取ろう。
ゴブリンはそう考えた。
ゴブリンの右手には棍棒が握られていた。
戦うよりも撤退させることを選んだ人間をゴブリンは見下していた。
ゴブリンは棍棒を振り上げてパーンに突進した。
パーンはそのゴブリンの行動に冷静に構えて待った。
知能が発達したとはいえ、ゴブリンはゴブリンだ。
彼らの考えることは単純でそして、獲物を前にした時の狩猟方法も単一的だ。
それは知能が高くても同じこと。
ただ、突っ込むことしかできない。
突進してくるゴブリンをよく引きつけたパーンは麻でできた布を広げた。
両手を限界まで広げても全てを広げきれないくらいの大きながある。
ゴブリンはその麻の布が視界に入ると、焦って止まろうとするも勢いが付き過ぎて止まれず減速しながら、布の中へ飛び込んでいった。
パーンは手際よくゴブリンを布で包み込む。
ゴブリンは麻を嫌う。
麻でできた布や服も例外ではない。
布の縁を結んで縛り、ゴブリンの入った布を担いで階段を上った。
金属の破片を拾う三匹のゴブリンの元までたどり着くと布を地面に置いた。
三匹のゴブリンはパーンが麻の布を担いでいるのを見ると怯えて走って階段を駆け上がって逃げた。
モゴモゴと動く布に入ったゴブリンを置いてパーンは階段を下りた。
パーンが階段を下りきった頃にゴブリンはなんとか布の中から脱出して逃げていった。
◇◇◇
開けた場所の中央ではマトがドラゴンと対峙していた。
マトよりも少しだけ背の高いドラゴンはマトを見下ろし威嚇した。
しかし、岩の直撃と落下で痛みを感じているのかドラゴンに覇気は感じない。
(やっぱり‼ このドラゴンまだ子どもだ。皮膚が硬くなっていないから体毛のない身体で衝撃をモロに受けたんだ)
それでもドラゴンはマトを敵と判断し、マトに迫る。
マトは後ずさりしながらも考える。
(エンファニシィドラゴンは炎を吐く。この子どものドラゴンはそれを取得しているのか? もしそうならかなり危険だ。しかし、ダメージを考えればそんな体力はないのかもしれない。そうなると牙による攻撃。やはり距離を取るべきか)
ドラゴンは足取り重くそれでもマトに迫る。
(ドラゴンも限界なはず。怪我も治してあげたい。ならば落ち着かせなければ‼ ドラゴンを落ち着かせる方法‼ なんだ? 考えろ)
ドラゴンの息が上がっているのをマトは感じる。
「エンファニシィドラゴン‼ 落ち着け‼ 俺達はお前を狩りに来たわけはじゃない‼ お前も怪我をしている。無理をするな‼」
ドラゴンの足は止まらない。