5-3 マトの『魔法』
マトのどこか控えめな発言はルチカにも聞こえていた。
「スキル! マトのスキル?」
「ああ」
「うお! 見たい! やっとマトが魔法使うのか!」
マトは更に控えめな声量で言う。
「まあ・・・今この状況にはピッタリなスキルだとは思うが・・・・・・」
ルチカは暗闇でマトの表情を見ることはできていない。
しかし、マトの元気のなさを察することはできた。
「どしたん? 元気ないじゃん。話きこか?」
ルチカに気を使われているのを感じマトは少し声量を上げた。
「いや、気にするな。だが、あまり期待するなよ。俺は魔法の実践は得意じゃないからな」
「ほーい」
マトは気後れしながらも言う。
「俺のスキルは『サーチ』だ」
「サーチ⁉ ちょー便利じゃん‼」
「まあ、そうだな」と言うとマトは溜息をついた。
歯切れの悪いマトにルチカは「サーチして魔物の位置がわかったら、ルチが倒すから安心して指示を出すと良いぞ!」と言った。
マトは「よし! わかった!」と言うと、しゃがんで床に手を付けた。
「サーチを始めるぞ」
マトはスキルと魔力を掛け合わしてサーチのスキルを発動した。
まず最初に自分達の周辺を調べ、何もないと分かると次は二階へ意識を伸ばした。
二階に入ると長い廊下があり、その両サイドに部屋が幾つかある。
廊下には部屋と部屋の間に小さな銅像が飾られていてその影に魔物はいた。
マトはすぐにその魔物が『スクッギ』であるとわかった。
サーチによってルチカがどこにいてどんな態勢でどこを向いているのかをマトは把握している。
ルチカの手を握ったマトは片手で手すりに触れて周辺をサーチしつつ階段を上がった。
二階の廊下に着くとマトは言う。
「五メートル先にある銅像の影にスクッギが隠れている」
「あー。暗闇好きで暗いとこに住んでいる奴ね」
マトは再び両手を床に当ててサーチを再開する。
「こっちの様子を伺っているな。スクッギの戦闘能力は低い。問題は素早いことだな」
「指示お願い」
そう言うとルチカはゆっくりとスクッギを刺激しないように近付く。
スクッギまで後一メートルというところでマトが「待て」と言った。
ルチカは一時停止する。
マトはスクッギ周辺の床に違和感を覚えた。
(床の硬度が不安定だ)
マトはサーチの範囲を両サイドにある部屋の中まで伸ばした。
そこでマトは気付く。
「ルチカ。罠だ。そのまま進むと『ソックマン』の罠に引っかかるぞ」
ソックマンはモノ側面の性質を変える。
床の表面をネチョネチョしたモノに変えて足場を悪くする罠を張っていたのだ。
ルチカは「ほーん」と言ってドラゴンに変身して飛んだ。
「どこにも触らなきゃいいんでしょ!」
ルチカが得意気な顔で羽ばたかせていると銅像の影からスクッギが飛び出した。
マトはすぐにそれに気づいて「ルチカ! 六十度顔を傾けろ」と言うとルチカは瞬時に理解して顔を傾けた。
ルチカの顔の横をスクッギが通り過ぎていく。
「ほう。攻撃してきたな! どこいった!」
マトは言う。
「左の部屋の中だ。そのまま入れ!」
ルチカは勢いよく部屋に入った。
少しは暗闇に目が慣れてきたルチカだが、体の色が黒いスクッギを見つけることはできない。
マトは言う。
「スクッギが飛び跳ねた! 隙をついて突っ込んでくるぞ!」
スクッギはルチカの周囲を飛び跳ねて、素早く移動することで不意を突こうとした。
しかし、その作戦はマトの的確な指示とルチカの反射神経には勝てなかった。
マトはスクッギの着地した場所から次にどの角度でどこへ行くのか推測して指示を出す。
「ルチカ! 真下からくるぞ!」
「おいっしゃゃゃ‼」
ルチカは真下を向いて飛んでくる影を受け止めた。
スクッギはルチカの腕の中でモゾモゾと抵抗したが暫くして大人しくなった。
マトが部屋に入ってきた。
「相変わらず惚れ惚れする反射速度だ」
「っぱ! ドラゴンなんすわ!」
ルチカは照明魔道具からスクッギを剥がした。
周囲が照らされる。
スクッギは眩しそうに「ぴぴぴぴぃ」と鳴いた。
ルチカはポンッと人の姿に戻った。
マトは言う。
「たぶん、明るいのが嫌だったんだろう。すまないなスクッギ。俺達はすぐ奥に行くからな」
すると部屋にそろりとソックマンが入ってきた。
紙のようにペラペラな体をしている。
ソックマンはスクッギの隣へ行ってボソボソと何かを言いながらスクッギの体を確認している。
ルチカが「怪我はないよ」と言うと二匹の魔物は大人しくルチカを見上げた。
マトが立ち退きの話をするようにルチカに言った。
二匹の魔物は大人しくルチカの話を聞くと、悩ましい表情を浮かべながら静かに館を出て行った。
ルチカは言う。
「なんかスキル使うの嫌そうだったけど、上手くいったじゃん!」
「んまぁ・・・そうだな」
マトは「魔法を極めたい」というタイプの人間ではないが、見廻隊として魔法を不得意としていることに関して、自分の得意分野を持った今でもコンプレックスに感じている。
マトは自分の魔法を『魔法』とは言わず『スキル』と言う。
それはスキルの効果を引き出しているだけで属性を魔法に関与させることができていないため「魔法を使った」と言うことに抵抗があるからだ。
もちろん魔力によってスキルを発動させているため『魔法』と呼ぶことは魔法要件に照らし合わせても理屈として正しい。
しかし、マトは自分の魔法を『未完成なスキル』と捉えて『魔法』と呼ぶのは引け目のようなものを感じている。
マトはサーチを使う度に自分の未熟さを痛感するため、普段はできるだけサーチを使わないようにしている。




