5-2 モフドラ、怪しい館ダンジョンへ行く
門の前に立った二人は外観を観察する。
「ルチカ、わかるか?」
「うん。庭にワルガモリが二匹」
「さっきまで飛んでいたワルガモリが木に止まったな」
ワルガモリは二人の方に視線は向けていないが、気づいている。
ワルガモリは木の上で足踏みをした。
ワルガモリは糞を爆弾にする。
この行動は糞を出しやすくするための行動。
つまりそれは戦闘準備をしているということ。
「ルチカ、作戦Bだ」
「わかった。ルチがやる」
二人は門を開け、庭に入った。
ワルガモリは赤く光る眼を二人へ向けた。
一匹が飛び立ち、二人の頭上を旋回し始めた。
お互い相手の動きを見計らっている。
ワルガモリのお腹がドンッドンッと膨らんだ。
「ルチカ! 来るぞ!」
「よっしゃ!」
ワルガモリが糞を発射する体制に入ると、ルチカは思いっきり鼻で息を吸う。
鼻の穴を大きくしたまま片方の鼻の穴を手で抑えた。
ワルガモリが糞を発射したその瞬間、ルチカは片方の鼻の穴から息を吐きだした。
ルチカの鼻から放たれた風魔法は空を飛ぶワルガモリに直撃し、そのまま遠くの空へ飛んでいった。
ルチカは余裕の表情で言う。
「あーあ。お星さまになっちゃった」
「力技な制御方法だが・・・よくやった」
仲間が吹き飛ばされる光景を見たもう一匹のワルガモリは木の上から飛び立ち、開いている窓から館の中に入って行った。
それを見ていたマトが「入るぞ」と言って二人は館のドアの前に来た。
ドアを開けた瞬間、襲撃がある可能性を考慮して照明魔道具を取り出す。
マトはドアを開けると照明魔道具のみ館の中へ入れ、外から中の様子を伺う。
照明魔道具に魔物の影が入り込まないのを確認すると二人は館の中に入った。
広い玄関があって、中央に男の戦士が剣を空へ掲げている像があった。
玄関の両端からは階段が伸びていてそこから二階へ繋がっている。
玄関を一通り照らして確認すると二人は階段を上ることにした。
階段の中腹辺りまで登ると何かが近くで羽ばたいた。
マトは気配を感じた方に明かりを向けるが何もない。
すると背後で「キャキャキャ」と鳴き声が聞こえた。
しかし、背後に照明を持っていっても何も見当たらない。
「来たな」
「うん」
マトは内臓魔力節約のため、明るさレベルをノーマルに設定していた照明魔道具の明度を最大まで上げた。
再び羽ばたく音と「キャキャキャ」という鳴き声が聞こえた。
二人はワルガモリ三匹を視認する。
ワルガモリ三匹のお腹は既に膨れていたが、二人の様子を伺っている。
マトは言う。
「作戦Aだ」
ルチカは頷くとワルガモリに話しかけた。
「おい! ワルガモリ! この館はもうすぐ取り壊されるぞ! 今の内に別の場所へ引っ越しな!」
それを聞いたワルガモリは「キェキェキェキェッ‼」と言ってルチカにお尻を向けた。
ワルガモリの動きを見て、ルチカからの返事を聞かずとも作戦失敗を理解したマトは「くそ! 立ち退き交渉失敗か!」と言って、ルチカに覆いかぶさろうとした。
ワルガモリの糞が二人の近くで爆ぜる。
糞の直撃は避けられてもワルガモリが放つ爆弾の威力は高い。
そのため怪我を覚悟でルチカを庇ったマトだったが、かすり傷程度で済んでいることに驚いた。
マトが自分の体の状態を確認している一瞬の間にルチカはマトの懐から飛び出してワルガモリに向かって炎を吐きだした。
マトは焦って「炎はやめろ!」と言ったが既に炎魔法は放たれた後だった。
取り壊しが決まっているからといって館内での制御もできていない炎魔法の使用は危険である。
しかし、炎は一匹のワルガモリに直撃した後、瞬時に消えた。
ルチカは「あれ? おっかしぃなぁ」と困惑している。
大事にならずホッとしたマトは話しかけた。
「どうした?」
「うーん。なんか炎魔法がいつもより弱いんだよねぇ」
「制御できていないってことか?」
「なんかねぇ。無理矢理弱くさせられているみたいな感じ」
マトは考える。
庭で放った風魔法の威力は十分に出ていた。
ルチカの調子が悪いわけではない。
つまり館に入った後に何かが変わったということ。
先ほど受けたワルガモリの爆弾の威力も想定より弱った。
そこまで考えるとマトはあることに気付いた。
(まさか・・・・・・)
マトがルチカに推測を伝えようとした時、二匹のワルガモリは糞を二人に放った。
マトは言う。
「ルチカ! 炎魔法を使え!」
「いいの⁉」
ルチカは一瞬困惑したが、マトの言うことであれば大丈夫だと安心して全力で放った。
すると炎は爆弾に直撃するとその場で爆弾と共に消えてなくなった。
マトは「ワルガモリ目掛けてどんどん撃っていいぞ!」
「はいよ!」
ルチカは炎魔法で残ったワルガモリ二匹を倒した。
周辺に魔物がいないか確認したマトは照明魔道具の明度をノーマルに戻した。
「マト。なんでルチの魔法弱くなっちゃったの?」
「安心しろ。ルチカの魔法に異常はない。どうやら、この館内では攻撃魔法の威力は制限されるみたいだ」
「制限? ダンジョンギミックってこと?」
「そうだ。おそらく、館を護るために館内を傷つけるような攻撃魔法は制限がかかっている。照明魔道具は最高明度にしても問題なかったし」
「誰が制限してるん?」
「制限は人間側がダンジョンのギミックに合わせて決めている場合とダンジョンのシステムの中に組み込まれている場合がある。今回はこのダンジョンに宿る仮に『主』としよう。その『主』の魔法によって制限されている」
「主? 魔物?」
「魔物とは限らない。とにかく魔力を持つ『何か』だ」
「魔物じゃなくてもできんの?」
「もともとのこの館の持ち主が生前、制限する魔法を施していった可能性はあるな」
「ふ~ん。じゃあ、ここでは魔法が弱まるんだね・・・・・・なら! 魔法打ち放題じゃん!」
ルチカの発言にマトが呆れていると足元の影から何かが飛び出した。
その影はそのまま照明魔道具に飛びついてどこかへ隠れてしまった。
照明魔道具を持って行かれたことで二人の周辺は暗くなる。
「なんだ今の!」
「マトォ~何も見えないよぉ~」
光がなければ見廻りができない。
それどころか暗闇を利用して攻撃を食らう可能性もある。
なんとしても照明魔道具を取り返さなければならない。
マトは言う。
「スキル・・・・・・使うか・・・・・・」




