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4-4 『おもてなし』には『うらがある』

ルチカが大きな扉を開くと二足歩行のネコが四匹、清潔なスーツを身に纏い「にゃっろせませ」と言ってお辞儀した。


丁寧で落ち着いた口調のネコにルチカは「こいつらホントに魔物か?」と言った。


ネコは二人を席へと案内した。


ボス部屋の中ではゆったりとした音楽が流れており、マトの警戒心や緊張感をほぐした。


床やテーブルに椅子、そしてテーブルに置かれたお皿やナイフなどの食器類も清潔な状態で準備されていた。


二人が席に着くと次々と料理が運ばれてきた。


ルチカは目を輝かせて「うおっ! うまそぉ!」


ネコは「にゃうぞ。にゃべてくだにゃい」と言った。


プロックフィスプルにルグブロイス、キョットスーパ、グラヴラックスなどの料理を二人は勢いよく頬張った。


「うまい! うまいぞ!」


マトはこの甘いお菓子ばかりのダンジョンでよく塩の効いた料理を作れるなと感心した。


その疑問にルチカが応える。


「海水スライムが運んできた海水から塩取ってるんだってさ」


「なるほどなぁ。妥協のない料理へのこだわりを感じる」


ネコが再び料理を運んで来た時、マトは行方不明のエルフについて質問する。


ネコの返事をルチカが翻訳した。


「知っているけど、教えるのはおもてなしが終わったらだってさ」


「そうか。じゃあ、食べるか!」


とマトが言うとルチカは余裕そうな表情を浮かべて


「こんな美味しいものならいくらでも食べられるぜ!」と言った。


しかし、美味しく感じたのは最初だけだった。


なぜなら、おかえりネコ達のおもてなし欲は常軌を逸するものだったからだ。


はじめは一人分の料理を運んで来ていたネコだったが二人が完食するのを見て、大皿に料理を盛って運んでくるようになった。


満腹感を感じている二人にとって見ただけで吐き気がする量であった。


まだ食べ終わっていないのにも関わらず運ばれる料理。


食べても食べても減らない料理。


二人は「もういらない」と伝えようとするとネコの目がギラッと光るのが見えた。


マトは思う。


(これ、断ったらダメなやつだ。エルフの件を聞くためにも食べきるしかない・・・)


スプーンで料理をすくい、口へ運ぼうとするマト。


「ルチカ、まだ食べられるか?」


丸々と太ったルチカはなんとか意識を保ち天井を見つめながら


「ドラゴン二フカノウハ・・・・・・ナイ」と言った。


ルチカの限界を悟ったマトは(さっきは助けてもらったし、ここは俺が!)と気合を入れた。


マトは運ばれてくる料理を意識が飛びそうになりながら、口へ運んでいく。


そして、ついに最後の一口を食べ終えると笑顔のネコ達に囲まれて拍手をされた。


その拍手の音でルチカも目を覚まし、マトを褒めたたえた。


マトは早速、ネコ達にエルフの件を聞いた。


「黒い影が人型の生き物を三層に運んでいったのを見たってさ」


「やっぱり三層か・・・」


休憩したことですっかり体形が戻ったルチカは「行こうぜ!」と元気に言う。


おかえりネコに三層への階段へ案内をしてもらい、二人は階段を上った。


三回層に着くとそこも例にもれずお菓子で溢れていた。


プリン山にビスケットの家、生クリーム海やピョンヌキョクール高原、綿菓子の雲から降る果物の果汁や雪のようなアイスクリーム。


マトが「よかったな。三層目も美味しそうだぞ」と言うと、ルチカは遠くを見るような目で「ワーオイシソーダネー」と言った。


「気持ちがこもってないぞ」


マトはルチカにモチベーションを取り戻させるために景色を観察させようと試みた。


「ほら見ろ、あっちのプリン山はバニラアイスが積もっているぞ。最近まで吹雪いていたらしい」


プルンプルンのプリンにキャラメルソースがたっぷりかかった南プリン山脈とは対照的に北プリン山脈はキャラメルソースどころかプリン肌が見えないくらいにアイスクリームが覆いかぶさっていた。


ルチカはその景色に感動する。


「天気までお菓子なんだぁ!」


満腹のルチカもお菓子な自然現象に興味を持ち始めた。


マトが更に話を広げて盛り上がっていると、二人の背後から大きな影が現れた。


二人は振り返り影の主を確かめる。


そこには筋骨隆々の二本足で立つカエルが二人を見下ろしていた。


筋肉達磨蛙(ステルクル)⁉ いつのまに・・・」


筋肉達磨蛙(ステルクル)は間髪入れず拳を振り上げ、二人に向かって振り下ろした。


拳はそのまま二人の足元に落ちて地面のクッキーを割る。


二人は筋肉達磨蛙(ステルクル)から距離を取り、ルチカがマトに指示を仰ぐ。


すると、背後のボッルルの岩陰から「こっちこっち」と声がする。


ルチカが岩陰を見るとそこにはオサトがいた。


オサトの体は人間の乳児よりも小さいため岩陰に隠れられる。


「お前オサトだな! なんのようだ?」


オサトは小声で応える。


「今カエルには近づかない方がいい。ボクについて来な」


「なんでだよ」


「君達を排除するためにカエル達が三層内を徘徊している。その内仲間が集まって来て収集がつかなくなるぞ」


ルチカは困った。


オサトがどのような魔物かはもちろん理解している。


オサトが言っていることは間違ってはいないのかもしれないが、その後が心配なのだ。


オサトの話を信じてノコノコついて言った先で損をするかもしれない。


しかし、今そのことをマトに相談している時間はない。


ルチカは思う。


(解決できない問題の解決法はただ一つ! 先送りにすることだ!)


ルチカはドラゴンに変身して、限界まで息を吸った。


そして鼻から思いっきり息を吐いた。


「ふーん‼」


ルチカの放った風魔法が砂埃のように砕かれたクッキーを舞い上がらせた。


筋肉達磨蛙(ステルクル)の視界を奪ったルチカは人間の姿に戻り、マトを連れてオサトの後をついて行った。


「こっちだよ!」


オサトはボッルルの岩場に穴を掘って秘密の通路を開拓していた。


ボッルル岩の中は暗かったがオサトが松明を持っていた。


時折、ジャムが肩に落ちて来てちょっと嫌な気持ちになった。


マトは言う。


「あいつはオサトだな。信用するなよ」


「わかってる。やばそうになったらどうにかよろしく」


特に策もなくオサトについて来たことをマトは察した。


オサトは魔物の中でも人間と会話ができる珍しい魔物。


マトはオサトに話しかける。


「助けてくれてありがとう」


「いや、いいさ。君達も大変だろうと思ってね」







「質問いいか?」


オサトは笑顔で「いいよ」と答えた。


マトは言う。


「何故筋肉達磨蛙(ステルクル)は俺達を探しているんだ?」


「三層に人が来るってことは自分達を狩る以外目的はないだろうと考えているのさ」


筋肉達磨蛙(ステルクル)が? そんな警戒心の強い魔物だったか?」


「多分ボスの影響だろう。最近は落ち着いているみたいだけど、一週間前ぐらいまでピリついていたからなぁボス」


「なんで?」


「さあ。でもまぁ部下からすれば、部外者に侵入されて何か問題起こされたらまた、ボスの機嫌が悪くなるから嫌なんだろうね」


「だから早めに俺達を三層から排除したいと?」


「そう」


「続けて質問、悪い。オサトはなんで俺達を助けたんだ? これからどうするつもりなんだ?」


「二人がこの騒動を治めるために手を貸してあげようと思ってね」


「何か方法があるのか?」


「簡単な話さ。ボスと会って話をつければいい。僕なら他のカエルに見つからずにボスの部屋までたどり着ける道を教えられる」


「話を聞く限りボスに会うのは、リスクがあるんじゃないか?」


「あるよ。でも部下じゃ話にならないよ」


「確かに・・・」


「どうする? 僕の話にのる?」


「お前になんの得がある?」


「僕は人の役に立てればそれでいいのさ。よく勘違いされるけれど、僕達は嘘を言って騙して楽しんでいるわけじゃない。本当に皆の役に立ちたくてやっているんだ。誰かの役に立つ、それが僕らオサトの幸福さ」


当然、オサトの言い分をマトとルチカは信じない。


だが、オサトの話す『ボスに会いに行くルート』が嘘であるわけではない。


その先が心配なのだ。


マトはルートを聞いた後に判断を下そうと考えた。


情報は多い方がいいからだ。


暫く歩くとボッルル岩の洞窟を出た。


そこは先ほど遠目で見ていた北プリン山脈だった。


二人はアイスクリームの銀世界に足を踏み出した。


空にある太陽のような赤いゼリーの光を反射してアイスクリームたちはキラキラと輝いていた。


異常なまでに積もるアイスクリーム。


テンションが上がったルチカはアイスを掘りながら「アイス山じゃん!」と言った。


マトは言う。


「俺達の前に三層まで調査に来た見廻隊は、アイスクリームの吹雪のせいでまともに調査できなかったと報告がある」


「あの吹雪はすごかったなぁ」と言いながらオサトは山から麓を見下ろす。


そして山の麓を指さして言う。


「さ、後はここから下るだけだよ」


マトとルチカはオサトが示し場所を見る。


山の麓には大きなレンガの家が建っていた。


「あれがボス部屋か」


「そうです」







マトが山の下り方について質問しようとオサトがいた場所を見ると、そこにはもういなかった。


既にオサトはボッルル岩の洞窟前に戻っていたのだ。


オサトは「僕が筋肉達磨蛙(ステルクル)の家に行くのは難しいのでここで失礼します」と言って岩の洞窟へ入っていった。


マトは「ありがとう」とだけ言ってオサトを見送った。


ルチカが目を細めながら「逃げたな」と言うとマトは「取りあえずここからどうやって下りるか考えよう」と気持ちの切り替えを促した。


「フツーに下りるんじゃダメなの?」


マトが任務資料をパンパンと叩いて「ここら辺には筋肉達磨蛙(ステルクル)が狩りをするために罠を仕掛けていると資料に書いてある」


「アイツそんなこと言ってなかったよね」


「ああ。恐らくそれがオサトの考える俺達の『損』だろうな」


「でもさぁ、こんなに積もっていたら罠なんて起動しないんじゃないの?」


「北プリン山脈がアイスで積もることは珍しいことじゃない。何か対策があるのかも」


筋肉達磨蛙(ステルクル)の罠対策について議論が始まったが、筋肉達磨蛙(ステルクル)達が南プリン山脈の山々に登って来ないわけではない。


時間をかけてはいられない。


「てか、罠ってどんなん?」


「罠の詳細は資料に記されていない」


少しの考える間の後、マトは言う。


「取りあえずリスクはあるが、アイスで大玉を作って転がしてみるか」


「なにそれ! 楽しそう!」


ルチカは目を輝かせて「めっちゃ大きいの作るぞぉ!」とアイス玉を転がし始めた。


マトも自分でアイス玉を作り、ルチカの大玉の上に乗せた。


「できたぁ! 突撃アイスマンだ!」

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