4-3 モナカでドンブラコ
二階層に着くとやはりそこもお菓子でできていた。
ピスタチオ味のクッキーの草原やサイダーの池、チョコクランチの土壌に咲く花のゼリー。
再びルチカの心を躍らせた。
「マトォ! 食べていい!」と言ってルチカがポテトチップスの岩場に食いつこうとするとマトはルチカの襟元を掴んで「任務終わったらな」と言った。
しょんぼりするルチカだったがすぐに何かを閃いたようでポンッとドラゴンに変身した。
「どうした? ルチカ」
「早く見つけて、おやつパーティーとしゃれこもうぜ!」
「で、どうやって探すんだ?」
「ドラゴンの鼻で探して見せる!」
「ドラゴンって鼻いいのか?」
「ドラゴンにできないことはない!」
(過信しているなぁ・・・まぁドラゴンはすごいけども)
ルチカは鼻をスンスン言わせながら地面の匂いを嗅ぐ。
「ふむふむ」
匂いを嗅ぎながらどこかへ進んでいくルチカ。
「ふむふむふむ」
ルチカの鼻を疑っていたマトだが、順調に進んでいく様子を見て暫く見守ろうと考えた。
「どうだ? 何かわかったか?」
「ふむふむふむふむ」
ルチカは突然ピタッと止まり、起き上がった。
マトは「お!」と期待の声を上げた。
ルチカは言う。
「めっっっっっっっっちゃくちゃいい匂いがする‼」
期待しながらも大体は予想ついていたマトは
「・・・・・・だろうな」と言った。
ルチカは悩ましい表情をしながら「こんなところで匂い嗅ぎ分けられるわけないじゃん」と言った。
マトは再び「だろうな」と返した。
ルチカの戯れに付き合っていたことで、気付くとはじめにいた場所からは離れて、魔物の生息地に着いていた。
「お! 魔物だ!」
ルチカが早速魔物を見つけて飛んでいった。
マトは「刺激するなよ」と忠告したがルチカの耳には届かなかった。
「魔物は一体どんな味だぁ!」
ルチカは大きな口を開いてニョロニョロ移動していた白線ミミズにかぶりついた。
しかし、かぶりついた瞬間ルチカはすぐに口を放した。
「うぇー! まっず! こんなの食べられないよぉ!」
そんなルチカに呆れながらマトは言う。
「そりゃあ、魔物は普通の魔物だからな。食べられないぞ」
ルチカは頬を膨らませながら
「まったく! そういうのは早めに教えておいて欲しいものですなぁ!」
再び呆れ顔でマトは「まさか、魔物も食べられると思っているとは考えもしなかったよ」
「ぷぅ! 魔物食べるの楽しみにしていたのにぃ!」
拗ねるルチカを宥めようとマトがルチカに近付こうとした時、急に地面が揺れ始めた。
すると、ルチカの背後にチョコクランチの山が突然現れたと思うと山を引き裂くように巨大な白線ミミズの頭が飛び出した。
ルチカは振り向いて巨大な魔物の姿を視認すると「わーお!」と呑気な声を出した。
マトは「感心している場合か!」と言ってルチカを抱きかかえその場から距離を置いた。
巨大な白線ミミズが二人へ向かって低い声で威嚇する。
その声を聞いたルチカが言う。
「ここ、あいつらの縄張りだってさ。ルチ達が勝手に入ったから怒ってる」
「ダンジョンのお菓子を食べ過ぎて太った個体がいるとは資料に書いてあったが・・・デカすぎだろ!」
怒れる巨大白線ミミズは「ヴァーーー‼」と二層中に響く声で鳴いた。
すると地面から普通サイズの白線ミミズが大量に現れた。
白線ミミズ達はマトとルチカを囲った。
「囲まれちゃったよぉ。どうする?」
「白線ミミズの出す白い線に囲まれると厄介だ! なんとかして縄張りから離れる!」
「どうやって?」
「白線ミミズをどかして道を作る。ルチカ、風魔法を使え!」
「ドラゴンの姿でも使ったことないよ」
「大丈夫! 翼がある魔物は翼を使って風を起こすって相場が決まっている!」
「わかった! やってみる!」
ルチカは普通サイズの白線ミミズに向かって翼を力強く羽ばたかせた。
「おりゃおりゃおりゃおりゃぁ!」
強い風が起こり、白線ミミズを飛ばしていく。
しかし、他の白線ミミズが白い線を引きながらマトへ近づく。
「まずい! 白線に囲まれると移動を制御される!」
「こっちだよ!」
ルチカの風魔法で白線ミミズを吹き飛ばしたことにより、道が一つできる。
「走るぞ!」
マトとルチカは空いたスペース目掛けて走る。
しかし、ルチカは風を起こしながら進めない。
空いたスペースを他の白線ミミズが埋めようと集まってきた。
更にマトから少し離れた所を白線ミミズが白い線を引きながら並走している。
後ろを振り向くと、先ほどまで指示を出していただけの巨大白線ミミズまで追いかけてきている。
「すまないルチカ! なんとか風を起こして目前の白線ミミズを飛ばしてくれ!」
「炎じゃだめなの?」
「恐らくドラゴンの姿だと火力が高過ぎる! チョコクランクの土を燃やして穴をあけてしまう!」
「う~ん。ならば・・・」
ルチカは飛びながら腕を組んで考える。
「お! そうだ!」
何かを閃いたルチカは、息を思いっきり吸い込むと鼻から一気に息を吐き出すことで風を起こした。
「鼻ブレス!」
ルチカは羽ばたきながら目の前の白線ミミズを吹き飛ばした。
学校ダンジョンでの授業によって判明したルチカが所有する属性の一つ『風属性』
「ドラゴンの姿だと魔法使いやすいなぁ」
学校ダンジョンでは人間の姿では使えなかったのだ。
「急ぐぞ!」
二人は空いたスペースを駆け抜け、白線ミミズを振り切ろうとする。
しかし、二人の間の前に見えてきたのは川だった。
二人は立ち止まる。
川と言っても深く、向こう岸まで距離がある。
背後と両サイドからは白線ミミズ達が迫っている。
「ルチは飛べるけど、マトどうする?」
マトは川周辺を見渡した。
すると川岸に大きなモナカがドサッと落ちていた。
マトはそれに近付き「これだ!」と言った。
「それどうするの?」
「乗る。船代わりにして向こう岸に渡る」
長めのクッキーの棒をパドル代わりにして、モナカ船を漕ぎ始めた。
沈まないか不安ではあったが今はこれ以外方法がないと考えた。
白線ミミズは岸まで来ると、川は縄張りではないのか諦めて引き返していった。
気が楽になったルチカは川に興味を持ちだす。
「これはサイダーかな?」
ルチカが川の水に手を伸ばそうとした時、マトは向こう岸で海水スライムがピョンピョン飛び跳ねているのが見えた。
そして、あることを察する。
「ルチカ、その水・・・」
マトが忠告する前にルチカは川の水を口に含んでいた。
「しょっぱ!」
「あー。それはたぶん、海水スライムが海から運んできた海水だ」
ルチカは表情を歪ませて「全部食べられるんじゃなかったのぉ」
「まあ、こういうこともあるさ」
モナカ船は海水にさらされて少しずつ沈み始め、マトを焦らせた。
「もう少し、もう少しで着くんだ! もってくれ!」
マトの思いとは裏腹にぐんぐんモナカは沈んでいく。
並行して飛んでいるモフモフドラゴンはそんな相棒を見かねて「しょうがないなぁ」と言って襟元を引っ張りながら岸まで運んであげることにした。
「ふぎぎぎっ!」
顔を赤くしながらギリギリ水面につかないくらいの高さで運ぶルチカに「すまないな」とマトは言った。
やっとの思いで岸に着くとルチカはポンッと人間の姿に戻って地面の上に横になった。
「ぜーはーぜーはー」
「ありがとうな、ルチカ。白線ミミズも追っ払ってくれたし」
ルチカは悩ましい表情で言う。
「でもさぁ、人間の姿でどうやって風魔法使おう」
その疑問にマトは当たり前のように返す。
「人間の姿でも鼻で吹いてみたらいいじゃないか」
ルチカは眉をくねらせて
「えー。かっこ悪いじゃん」と言った。
二人が野原で風に当たりながら休んでいると海水スライムがルチカの周りに集まって来た。
「どうやら、ここは海水スライムの縄張りっぽいな」
集まって来た海水スライムに敵意がないことはマトにも伝わっていた。
ルチカが海水スライムに語り掛ける。
「やい、海水スライム。のんびり茶をしばけるところはないのか」
海水スライムは言う。
「あるよ!」
「えっ! まじ! 案内してよ!」
「いいよ! ボクたちについてきて!」
ルチカは起き上がって走り出す。
魔物の言葉がわからないマトは何が起こったかわからず「ルチカ! どこ行くんだ!」
「ついて来て! いいところがあるって!」
二人はそのまま海水スライムついて行き、とある部屋の前に案内された。
二人の前には大きな扉がある。
ルチカが「これ誰の部屋?」と質問しようとすると海水スライムは「ばいばーい」と言って去ってしまった。
マトは言う。
「ここ二層のボス部屋だぞ」
「えー! 嵌められたってこと?」
「いや、二層目のボスは『おかえりネコ』だ。この魔物は客をもてなすのが好きなんだ」
「じゃあ、本当に善意で連れてこられたってこと?」
「かもな。それに上手くいけば戦わずに済むぞ。『おかえりネコ』は基本、敵対心もなく気のいい魔物だから、おもてなしを受け入れれば三層へ通してくれるはずだ」
「じゃあ、入ろっか!」




