4-2 モフドラ、お菓子のダンジョンへ行く
マトはパーンから貰ったナイフをケースに入れ、ルチカに言う。
「じゃあ、行こう。任務だ」
「よっしゃ!」
二人は囲壁を出て都市を後にした。
マトはダンジョンに向かいながらルチカに今回の任務について説明を始めた。
「今回の任務内容は行方不明者の捜索だ。一週間以上前にエンリ・ノートリというエルフがダンジョンに行ったきり戻ってこないらしい」
「ほうほう」
「エンリさんは攻撃魔法を使えないから、いつも魔物のでない安全な場所のみを探索していたらしいんだが、見廻隊が一週間捜索活動を行っても見つけられていない」
「なるほど。それで、そのダンジョンとは?」
マトは立ち止まって「ちょうど着いた」と言った。
マトがダンジョンを示すとルチカは目の前の光景に目を輝かす。
「こっ! これは!」
「今回潜るダンジョンは『お菓子のダンジョン』だ!」
ルチカははしゃぎながら「いい匂いがする!」と言ってダンジョンに近付く。
「待て待て。まだ話は終わってないぞ」
ルチカは待ちきれず足踏みをする。
「なんだよぉ~早く入りたいよぉ~」
マトはルチカを咎めるように言う。
「確認事項」
ルチカはしょんぼりし「あ~忘れてた」と言って、ダンジョンを指さして「ダンジョンの外観良し! 魔物良し! 罠良し!」と確認作業を行った。
マトが「よろしい! それではダンジョンに入るぞ!」と言うと、二人はお菓子のダンジョンに踏み込んだ。
ダンジョンの中は、見る限り全て食べられるものでできており、ルチカは心躍らせた。
クッキーの壁にボッルルの岩、チョコレートの川、メロン味のグミでできた草原、飴の花。
さっそく気になるお菓子を見つけたルチカは言う。
「ねぇねぇ! これ食べていいの?」
「ここのダンジョンのモノはただ一つを除いて全て食べることが出来る。でも、程ほどにしろよ。ダンジョンが崩れたら元も子もないからな」
ルチカは「やったぁ!」と言って木の形をした麩菓子にかぶりつく。
「うんまぁ~」
ルチカが色んなお菓子を食べ散らかしているとマトが「そろそろ満足したか?」と言って近づいて来た。
「ねぇ! このダンジョンってこれだけなの? ちょっと狭いよね」
「それも踏まえて、そろそろ任務の話再開しようか」
「はーい」と元気よく返事したルチカだが、マトから「口にお菓子ついてるぞ」と指摘される。
ルチカは口を袖でゴシゴシと拭いた。
マトはお菓子のダンジョンについて説明を始める。
「このダンジョンは三階層にわかれている。一層目はお菓子の草原の中に一部だけ薬草が生えていて採取を専門とする冒険者がその珍しい薬草を求めてやってくるんだ」
「おっ! だからか! 偶ににっがい味がしたのは!」
「運がいいなお前。一層目は魔物が生息していない平和な場所だから新人冒険者や新人見廻隊でも入れる」
「エンリってエルフも新人冒険者?」
「新人ではないよ。回復魔法の使い手として有名らしいけど」
「ほぉー」
「二層目から魔物が出現する。エンリさんは薬草の採取のみを目的にこのダンジョンに潜ったから、二層目へ行く理由もないし、さっきも言った通り戦闘を行う実力もない」
「でも、一層目にはいないんでしょ?」
「そうだ。一層目にいないということは、考えられるのは二つ。偶然一層目に魔物が下りて来て、連れ去られた。もしくは、ダンジョンからは既に出ていて、ダンジョンの外で何かトラブルにあったか」
「二層目以降は探したの?」
「一応捜索には入ったらしい。だが、見つかっていない。俺らも二層目以降に可能性があるなら上って欲しいと言われている」
「じゃあ、ダンジョンの外は?」
「そっちは別の担当者がいる。俺達はダンジョン内の捜索だ」
「なるほどなるほど」と言って相槌を打つルチカにマトは質問をする。
「ダンジョンのギミック覚えているか?」
ルチカは「げっ!」と言って目を逸らす。
マトはルチカに顔を近づけて無理矢理目を合わせる。
「まったく。座学寝ていたルチカに復習の時間をやるよ」
「げっ! また授業ですかい」
「ダンジョンに入る前にギミックの確認は必須だ」
「へーい」
「ダンジョンのギミックは『特徴』『制限』『ルール』『魔物』だな。このダンジョンの『特徴』は食べ物でできているということ。『制限』は食べ過ぎないこと」
「ダイジョウブ。マダハラハチブンメダヨ」
「ルチカの腹の調子は気にしてない」
マトは説明を続ける。
「『ルール』は『外から持ち込まれた食べ物がダンジョンの一部になる』だ。他に―これはダンジョン外の事だが―『お菓子のダンジョン周辺の木の実から栄養素がダンジョンに移動している』ということだ」
「おお! ダンジョンが動いている!」
「そうだな。だが、このダンジョンでもっとも厄介なのは『魔物』だ。」
「邪魔してくる魔物はルチがグーパンよ!」
「お菓子は魔物にとっても重要な食糧だ。このダンジョンには主に六種類の魔物が住み着いているが、それぞれが縄張りを主張していて魔物同士で喧嘩をすることが多々ある」
「ったく。しょうがねぇ奴らだぜ」
「タイミングによっては気が立っている魔物に遭遇する可能性があって危険なんだ」
「縄張り争い。人間も魔物も変わりませんなぁ」
「あと、もう一つ。可能性は極端に小さいが、ダンジョンの特徴や制限、ルールによって魔物がダンジョンに適応し変態する可能性がある。今のところ、その報告はないけどギミックが個性の強いダンジョンでは気を付けるべきことだ」
ルチカが授業に飽きた態度で「ふーん」と言いながらダンジョンの天井を見た。
天井は空を思わせるような青さをしており、雲のような綿菓子が浮かんでいた。
(おいしそ・・・)
暇つぶしに、じーと綿菓子を眺めているとルチカはあることに気付く。
(なにあれ)
天井の端っこの方に光を放つ白い球体が浮かんでいた。
「ねぇマトォ。あの光ってんのなに?」
マトも天井を見上げた。
「あーあれか。さっき言っただろ『一つを除いて食べられない』って。あれのことだ」
「月みたいだね。何でできているの?」
「さあ、誰も触ったことないらしい。そもそも初期調査ではこの球体のことは書かれていない。ある日突然現れたんだとさ」
するとルチカは目を輝かせて「え! 誰も齧ったことないの? じゃあ、ルチが最初に齧る!」と言ってルチカはポンっとドラゴンの姿になった。
「齧る?」
「うん。誰も触ったことないなら、あれもお菓子の可能性あるじゃん‼」
はしゃぐルチカにマトが何かを言おうとしたが、ルチカは翼を広げてパタパタと球体に向かって飛び始めてしまった。
「お、おい。ルチカ」
「ちょっくら齧ってくるよ!」
そのままルチカは飛び、木を超えて雲の高さまで来た。
マトはルチカを呼び留めるのを諦めて黙って眺めることにした。
ルチカはワクワクした表情で言う。
「よーし! もうすぐだ! いったいどんな味がするんだろう!」
パタパタと球体へ向かって飛び続けるルチカ。
しかし、いつまで経っても球体に近づけない。
天井には近づけるものの球体へ向かって飛ぶと、ある一定の距離で進んでも一向に球体へ近づけなくなる。
「はぁはぁはぁ。まじづがれだぁ」
ルチカは諦めてマトのもとへ降りてきた。
「どうだ? ルチカ」
「ぜんぜんとどかなぁい。どうなってんの?」
「さぁ、俺にもわからん。ただわかっただろ。あの球体は『触れられないから食べられない』んだ」
「なんじゃそりゃぁ」
「まあ、俺達が見えているよりももっと遠くにあるのかもな」
「余計わからん・・・」
「きっといつかわかるさ球体の秘密」
「球体の秘密・・・球体の味の秘密・・・」
ルチカがそうブツブツ呟いたと思うと、急に起き上がり、翼を広げた。
「でも! 負けた気がするからもう一回行って来る!」と言ってまた飛び始めた。
しかし、疲れたのかすぐにスピードダウンし雲の下で停滞した。
「くぅ~悔しい! もっとルチに力があればぁ!」
と言って悔しがっているとルチカの顔にヒラヒラと小さな紙が落ちてきた。
「ん? なんだこりゃ?」
紙を確認するルチカ。
「うお! これって!」
「どうしたルチカ?」
ルチカはマトのもとへ降りて紙を渡す。
「ほれ」
マトが紙を確認する。
紙にはこう記されていた。
『ちょっと上、行ってきま〜す‼ アゲアゲ↑↑ エンリ』
マトは驚愕しながら言う。
「エンリさんは自分の意思で上の階層へ行ったのか・・・。そしてなんだ? この軽いノリは・・・」
「雲に引っかかってたんだよ」
「風で飛ばされたんだろ。道理で見つけられないわけだ」
「で、どうすんの?」
「二層目に上がる。そこにいなければ三層目だ」
「よーし! さっさと行こうぜぇ!」
マトは真剣な表情で言う。
「二層目、三層目はここのように平和じゃない。魔物が生息していて縄張り争いをしている。そして二層目にはボス部屋があって倒さないと三層目には行けない。更に下手したら三層目のボスとも戦うことになるかもしれない」
「いいよ! ボス戦はルチに任しときな!」
ルチカの頼もしいような無邪気なだけのような返事にマトは最悪な事態も想定し気を引き締めた。
「二層目に上がる前に魔物の確認をしておく」
ルチカは人間の姿に戻って言う。
「魔物図鑑簡易版持ってきているよ!」
「ここの魔物は六種類。『海水スライム』『白線ミミズ』『おかえりネコ』『ベイリア石』『オサト』『筋肉達磨蛙』」
「確認完了!」
「よし! 行くぞ!」
二人は二層目への階段を駆け上がった。




