3-6 モフドラ、不良と決闘する
「なんかボスを倒せって言っているよ」
「ボスを倒す? いやそれはできないなぁ。ボスもお前と同じ従業員だ」
「気絶させるだけでいいからやって欲しいってさ」
「なんでボスを倒して欲しいんだ?」
「このダンジョンのボスだからって威張ってんだって。初めは仲良かったのに最近『俺は最強だ! お前らとは違う!』て。むかつくからボコって大人しくさせって欲しんだと」
「なるほどなぁ」
この学校ダンジョンのボスは『プリビタルバサ』で確かに学校ダンジョンに生息している魔物の中では一番強い。
しかし、威張れるほどの差があるとも思えない。
オバトキャフティ達が束になってかかれば、倒せるはずだ。
マトは質問する。
「お前達でも倒せるだろ?」
「他のオバトキャフティ達が徒党を組んで喧嘩しに行ったことがあるらしいんだけどいつの間にか気絶させられているんだって。
何度か試したけど同じ結果で、気絶する寸前の記憶もないし手の打ちようがないって」
「なるほど」
あまり反応のよくないマトを見てルチカは言う。
「ねーねーマト! 倒しに行こうよぉ! ルチ戦いたいよぉ!」
「う~ん」
マトは考え込む。
(気絶の謎は気になるな。
任務前に受け取った資料には特に何も書かれていなかったし、魔物に変化が起きているのなら、調査すべきではある。
それに従業員が働きやすい環境を作るのも見廻隊の仕事かぁ~)
だが、やはりマトが一番に心配なのは、戦闘を行うルチカがやりすぎてしまわないかだ。
「ルチカ。約束できるか?」
「何を?」
「ボスは倒さない。気絶させるだけ」
ルチカはやる気を滾らせた表情で即答する。
「もち! 約束は守るよ! ドラゴンだからね!」
ルチカのいつもの返事に(心配だなぁ)とマトは思った。
マトは資料を開いてボス部屋の場所を調べた。
「校長室か」
するとオバトキャフティが何かを言う。
「プリビタルバサは今、校長室にいないってさ」
「じゃあ、どこにいるんだ?」
「体育館にいるって」
マトとルチカが体育館に向かおうと歩き始めるとオバトキャフティとベイナグリットも後をついて来た。
マトは言う。
「ついて来なくていいぞ。あとは俺達でやっておくから」
「ルチにボコられて吠え面をかくところを見たいんだってさ」
マトは苦笑いをした。
体育館に到着し、マトは言う。
「ルチカ。ドラゴンの姿のままで戦うのか?」
ルチカは「あ! 忘れてた!」と言って人間の姿に戻った「魔法の練習しなきゃだね!」
マトは言う。
「やばかったら手を貸すからな」
「いや大丈夫! ルチ一人で倒すんだ!」
「そうか。意気込みは良いな」
準備を整え、ルチカが体育館のドアを開こうとした瞬間、ドアが急に二人の上に覆いかぶさるように倒れてきた。
ルチカが思わず「うわー!」と慌てた声を上げたが、マトにはその倒れてくるドアの正体がわかっていた。
マトは瞬時に小型ナイフを取り出してドアを引き裂く。
ドアは布切れのように容易く切り裂かれて悲鳴を上げる。
「うぎゃー! 痛いぃぃぃぃぃ!」
ルチカは驚いた声で「なんだ?」と言った。
マトが言う。
「こいつは化け布だ! ドアに貼りついて俺達を待っていたんだ!」
化け布は「ひへ~! 親ブーン!」と言って体育館の中に逃げて行った。
二人は追いかけて体育館に入る。
中では、化け布がカンガルーに似た見た目をしている魔物プリビタルバサに泣きついていた。
「親分助けてくださいぃ。あいつらに殺されかけましたぁ」
プリビタルバサは化け布を掴んで捨てるように後ろへ投げた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃい」
プリビタルバサは二人に向かって言う。
「いつかは来ると思っていたぜぇ。お前ら見廻隊だなぁ」
ルチカは応える。
「そうだ! 調子に乗りやがって! この正義のヒーロールチカがぶっころ・・・・・・ぶっ気絶させてやる!」
「ああん? ぶっ・・・なんだそれ? まあいい。見廻隊と言ってもどうせ下っ端だろ。今の俺様に勝てるかな!」
「勝ぁてる!」
両者は前へ出て睨み合った。
プリビタルバサは思う。
(なんかこいつ単純そうだな。背も小せーし。ガキか? だとしたら楽勝だな! 単純な奴ほど俺のあの技を食らいやすい)
プリビタルバサはニヤついて言う。
「じゃあ、始めっか!」
「いいよ!」
ルチカはさっそくプリビタルバサに飛びかかり拳を頬目掛けて放つ。
ルチカのスピードにプリビタルバサは動揺しつつもかろうじて避ける。
(なんだこいつ? 人間にしてはちと早すぎねぇか?)
ルチカは立て続けに蹴りを入れるがプリビタルバサは腕でガードする。
(威力もそこそこ! このスピードで畳みかけられたらその内、クリティカルをもらうな。
早めに引き込んでアレを一発を食らわすか!)
ルチカは立て続けに攻撃を出してプリビタルバサを追い込もうとする。
一方、プリビタルバサ防御のみを行って隙を伺う。
マトは思う。
(やはり、ドラゴンの血が入っている分、身体能力は高いようだな)
ルチカは深く踏み込み、拳を確実に当てようとした。
プリビタルバサはそれを待っていた。
プリビタルバサは瞬時にお腹にあるポケットに触れようとした。
だが、それに気づいたルチカはパンチを当てる寸前で後ろに下がってプリビタルバサと距離をとった。
「ふぅ。危ない」
プリビタルバサは思う。
(まあ、そりゃ警戒するよなぁ)
ルチカは事前にマトから魔物図鑑を見ておくように言われていた。
プリビタルバサの特徴はお腹のポケットに何かを隠し持っているということ。
それは弱肉強食の世界で生き抜くために必要だと判断したもの、で個体によって持っているモノは千差万別である。
ルチカはプリビタルバサの奥の手を回避したが、どうやって攻撃を当てるか考えていた。
(炎を使うのはまだ早いしなぁ。踏み込み過ぎるとなんかやってくるしぃ。う~ん)
考え込むルチカにプリビタルバサは言う。
「どうした! おらこいよ!」
ルチカは思う。
(そうだ! いいこと思いついた!)
ルチカは再びプリビタルバサに殴り掛かる。
「お! きたか!」
ルチカのスピードにかろうじて対応するプリビタルバサだが、攻撃には慎重である。
(俺が攻撃を繰り出したところでカウンターを食らうのは目に見えている。
防御に徹し、隙を見て俺様こそがカウンターをキメる!)
そして、ついにその時はきた。
ルチカがプリビタルバサの敢えて作った隙に踏み込んだのだった。
(来た来た来たぁ!)
プリビタルバサはポケットをパンッと叩いた。
すると目にもとまらぬ速さで何かが飛び出し、ルチカのお腹に直撃したのだ。
「うっ!」
余りの衝撃にルチカは思わず呻く。
プリビタルバサは思う。
(終わりだ)
プリビタルバサは硬直するルチカを蹴り飛ばす。
ルチカはそのまま地面に体を打ち付ける。
「ルチカ‼ 大丈夫か‼」
横たわって動かないルチカ。
僅かに体を震わせている。
マトはルチカに駆け寄ろうとしたその時。
ルチカの笑い声が聞こえた。
「ルチカ?」
「ははは!」
プリビタルバサは動揺する。
「なに笑ってんだ!」
ルチカは立ち上がり、手元を見せる。
「なにが出てくるかと思ったら、エビかぁ!」
ルチカの手には魔物ボサィラーが握られていた。
体をバタつかせながらボサィラーは言う。
「お、俺はエビじゃねぇ!」
その光景を見たプリビタルバサは自分のポケットを確認する。
「ない! ないない!」
ポケットに隠し持っていた魔物をルチカに奪い取られたのだと気付く。
(そそそそんな! どうやって? まさか、ボサィラーの高速パンチを受けながら掴み取ったのか⁉ そんな馬鹿な!)
プリビタルバサにとってポケットの隠しものは誇りそのもの。
「キサマ! 返せ!」
プリビタルバサはルチカに飛びかかる。
ルチカは冷静に言う。
「隙だらけだよ!」
ルチカの拳がプリビタルバサの頬に直撃する。
プリビタルバサは殴り飛ばされた先でなんとか立ち上がろうとする。
しかし、ルチカがプリビタルバサの上に跨り「後悔しろ!」と言って技のタメに入る。
「ひぃぃぃぃぃぃ! 許してくださいぃ!」
ルチカは言う。
「くらえ! 水の弾丸!」
ルチカは口を大きく開けて水魔法を使った。
ルチカの口からは例にもれずピロピロピロと弱々しい水が流れ落ちた。
「ひぃえ・・・?」
「あっれれ? 上手くいきそうだったのになぁ・・・」
何が起こったかわからないプリビタルバサは呆然とする。
その後、プリビタルバサと化け布は他の魔物に謝罪をして仲直りをした。
マトとルチカは調査を終え、学校ダンジョンを後にした。
ルチカはマトとの間を歩くボサィラーを見ながら話す。
「弱ったボサィラーが学校ダンジョンに忍び込んだらしいよ。それをプリビタルバサが看病して仲良くなったんだってさ」
「とは言っても、さすがにプリビタルバサとボサィラーのコンビは新人には強すぎるな」
「そういえば、イチヌウに仕返しすんの忘れてたね」
「まあ、学校の協力者だし、勘弁してやろう」
二人はクタクタになりながら寮に戻ったのだった。




