3-5 学校っぽい怪談
教室の出入り口を見るとそこには魔物のイチヌウが一匹、ニヤつきながら二人を見ていた。
「あれ! 魔物だ!」
イチヌウはケラケラ笑いながらお尻のような頭をペンペンと叩いて二人を挑発した。
「ルチカ! あいつがネバネバを床にバラまいた犯人だ! 捕まえるぞ!」
「よっしゃー!」
授業が終わった解放感からルチカは勢いよくイチヌウに飛びかかろうとする。
イチヌウは廊下を走って逃げようとする。
「逃がすかぁ!」
するとマトはある異変に気付く。
「おい! ルチカ止まれ!」
キキッ―と音を立てて急ブレーキで止まったルチカは「どうしたの⁉」と言った。
「廊下の床を見ろ!」
床には校舎の入り口にあったネバネバと同じものが広がっていた。
学校ダンジョンは暗い。
外にあるどのダンジョンも暗いため、それを再現しているからである。
当然廊下も、先ほどまで授業を行っていた教室もである。
もちろん照明魔道具を使用しているが光が届く範囲はそんなに広くない。
「あっぶなぁ~。もう少しでマト先輩の二の舞になるところだったぜぇ」
「俺は失敗から学びを得るんだ!」
「そ、そっすね」
「まったく! イチヌウ目! 煽ることで罠にかけようとしたな! 性根腐り切ってやがるぜ!」
「許せませんねぇ~先輩!」
マトはルチカに向きなおって言う。
「行け! ルチカ! 学んだことを実践するんだ!」
「任せなぁ!」と息巻いて魔法を使おうとしたがルチカは停止して言う。
「そういえば、結局ルチはどうすればいいんだっけ?」
魔法についての基礎知識はつけたが、それをどう実践に生かすのか、ルチカは教わっていない。
マトは言う。
「魔法に使う魔力量を減らせばいいんだよ」
「ほう。なるほど!」
ルチカは炎魔法を出す前のタメの態勢に入った。
お腹に力を入れると炎の魔力が溜まる。
次に、魔力は魔法のための特殊な気管を登り始める。
喉元を通り過ぎると口の中に炎の弾が現れ、放たれるまで数秒間留まる。
ルチカはまさに口に炎の弾が現れた時、気付いた。
(あれ? 炎の量多くね?)
しかし、ルチカに『口にある炎を放たない』という選択肢は思い浮かばず、そのままネバネバに向かって炎を吐き出した。
放たれた炎はネバネバのある床一面に広がり、燃え上がる。
マトはその光景に懐かしさすら覚えた。
だが、先ほどとは違う事態が起きた。
それは炎が中々消えないことだ。
校舎の入り口で放った炎はネバネバ焼失と共に消えたが、目の前の炎は消える気配がない。
ルチカは照れた表情をしながら「ちょっと強すぎたみたい。でへへ」と言った。
マトは呆れる間もなく叫ぶ。
「照れている場合かぁ! 水魔法! 水魔法を放て!」
「おーう! その手があったか! まかせな! 水の弾丸‼」
そう言ってルチカは大きな口からピロピロピロピロと弱々しい水を垂れ流した。
「うおぉぉぉ!」
マトはルチカを持ち上げて振ったりお尻を叩いたりして、とにかく多くの水を吐き出させようとした。
数分後、火事にはならず火を全て消化しきることができた。
二人は余りの疲労に息を荒げる。
「はぁはぁ。取りあえず火ぃ消えて良かった」
「水魔法が早速役に立って良かったよぉ」
ルチカの呑気な返事にマトは思わず笑うとルチカも一緒に笑った。
ルチカが立ち上り言う。
「ふぅ、今日も頑張ったし、そろそろ帰ろっか!」
すっきりした顔でマトが立ち上り応える。
「おう。じゃあ、帰ろ・・・・・・いやいやいや! まだ任務中だろ!」
その言葉にルチカは「ハッ」とした表情をした。
「ルチカ。お前、まさか目的を忘れていたんじゃないだろうなぁ」
ルチカは表情を見せないように言う。
「ふっ! 忘れるわけがなかろう。我等の使命ぞ!」
「本当か?」
「当たり前だ。魔物と戯れるためにきたわけではない。さっさとダンジョンを調査しようではないか!」
「ふーん。ならいいけど」
気を取り直して二人は学校内を見廻りを再開した。
暫くは、順調に仕事を進めることができてマトは安心していたが、急にルチカが何かを訴え始めた。
「マト! マト!」
ルチカは鬼気迫る顔でその場で足踏みをした。
「どうした?」
「おしっこ! トイレ!」
「ダンジョン入る前に済ましておけよ」
「漏れる! 漏れる!」
「まぁ、でも安心しろ。ここは学校。もちろんトイレも完備してある!」
「早く! トイレ!」
「そこだ!」
ルチカは急いで女子トイレに駆け込んだ。
「う~。漏れる漏れるぅ」
ルチカは個室のドアをドタッ! と荒らしく開けて一歩踏み入れようとした瞬間、個室の暗闇の中に人影を見る。
ルチカは硬直してじっと暗闇を見つめる。
すると暗闇の中からヌルッと爛れた顔の女の子が現れる。
「ひぇーーーーー‼」
魔物とルチカは驚き、悲鳴を上げる。
悲鳴は廊下で待機しているマトにも十分聞こえる大きさだった。
「だ、だれぇ⁉」
ルチカの絶叫のような問いに魔物も言い返す。
「アンタこそ誰よ! 開校は来週でしょ‼」
「見廻隊だよ! 調査中だよ!」
「調査中? 何をよ! アタシら何も問題起こしてないわよ!」
「難易度調査だよ!」
「難易度調査?」
「そうだよ! それよりおしっこ漏れちゃうよ!」
ルチカの必死な主張に落ち着きを取り戻した魔物はトイレを出てルチカに譲った。
ルチカはトイレに飛び込み、用を足した。
「ふぅ~。間に合ったぁ~」
ルチカが一息ついていると、個室のドアがコンコンとノックされる。
さっきの魔物だ。
「ちょっとアンタぁ! 間に合ったの? 漏らしてない? 大丈夫なの?」
ルチカは個室を出て、魔物と対面した。
「やあ、ごめんごめん! なんとか間に合ったよ! 心配してくれるなんて優しい魔物だね~」
魔物は赤面して言う。
「はっ⁉ ち、違うわよ! アタシの職場が汚れるのが嫌なだけよ! それにアタシの名前は魔物じゃないわ! オバトキャフティよ!」
「おう! オバトキャフティか! 知っているぞ! で、トイレで何してたの? うんこ?」
オバトキャフティは呆れた表情で言う。
「はぁー。アンタってデリカシーないわね。それに用を足していたわけではないわ」
「ごめん! じゃあ何してたん?」
「アタシがここで働いているのは理解しているわよね」
「うん」
「ここに配属された時、見廻隊に『学校っていったらトイレだ!』て言われたからトイレで生徒を脅かそうと準備していたのよ!」
「へー」
「返事がテキトーね。もうちょっと興味もちなさい。見廻隊でしょ」
女子トイレの前でマトは中を気にしながらうろちょろ歩き回っていた。
女子トイレからルチカの悲鳴が聞こえたが、中に入っていいのか迷っていたのだ。
(静かになったなぁ。何もなければいいけど・・・)
そう考え込んでトイレの前で歩いているとドンッと何かにぶつかった。
「うわっ! なんだ!」
前方を照明魔道具で照らす。
そこにはガイコツの魔物が立っていた。
マトは驚いて思わず「魔物⁉」と大きな声を出してしまった。
しかし、驚いているのは魔物も同じようで
「¥€○#°○・‼」と聞き取れない叫び声を上げた。
ガイコツの魔物は「ガシャンコション」と音を鳴らして手と足を動かしていた。
魔物のその慌てぶりに逆に冷静になったマトは思う。
(この魔物はベイナグリットだ!)
ベイナグリットの手足が取れそうな激しい動きに(い、威嚇のつもりか?)と思いながらも見廻隊協力者として体を心配する気持ちも芽生えていた。
マトが魔物とのコミュニケーションの取り方に困っていると、トイレから話し声と共に二つの人影が近づいてきた。
マトはベイナグリットに意識を残しつつ、トイレの方を見た。
女子トイレの中から、笑い声と共にルチカとオバトキャフティが現れた。
「・・・ルチカ。なんで魔物とトイレから出てくるんだ?」
「ん? こいつ? ダチ」
(そうか。ルチカは魔物と会話できたな)
マトは隣で相変わらずガチャガチャと音を立てているベイナグリットを指さして
「こいつはなんて言ってんだ?」
ルチカはベイナグリットに話しかける。
しかし、もう一人ルチカ(人間)が増えたからかベイナグリットは動揺して落ち着かない。
ルチカはポンッとドラゴンの姿に変わってベイナグリットに話しかけた。
ルチカは人間ではない姿を見せることで『自分も仲間』だと伝えようとした。
その思いが通じたのかベイナグリットは徐々に落ち着きを取り戻し始め、ルチカに話し始めた。
「悲鳴が聞こえたから、オバトキャフティのことが心配になって駆けつけたら人間と鉢合わせてパニックになっちゃったんだって」
「そうか。驚かせてすまない」
マトは続けて二匹の魔物に言う。
「俺達は見廻隊だ。ダンジョンの稼働開始前に難易度調査を依頼されてきた」
ルチカはオバトキャフティにマトの言葉を伝えた。
するとオバトキャフティは怒ったような口調でルチカに話す。
「そんなの聞いてないってさ」
「管理者が報告を忘れたんだろうな。続けてすまない」
ルチカがそう伝えるとオバトキャフティは和解の代りに提案をしてきた。




