2-5 ルチカへの提案
ルチカが交渉の旨をアラフィコスとゴブリンに告げると二種類の魔物達は一度ダンジョンの中へ戻って行った。
「一度仲間同士で相談するってさ」
「ならちょうどいいな」
交渉見届け人を騎士団側はハーゲン指揮官が勤め、見廻隊側は見廻隊の長であるガウト・アーマルが勤める。
そのためバッシがガウトを連れてくるのを待つ必要がある。
他の騎士団員と見廻隊は魔物達が攻勢に出た時のために武装して森の中に隠れている。
マトとルチカは交渉の時を待つ間、二人だけになり話し合った。
「悪いな。勝手に交渉人にしちまって」
「問題ないよ! ルチ、ドラゴンだから!」
「・・・そうか。魔物側からも要求はあるはずだ。ハーゲン指揮官ものめる要求はのんで良いと言っている。なるべく穏便に済まそう。最悪の事態を避けるために」
マトのその言葉にルチカは安心した表情を浮かべた。
「マトは優しいね」
「そうか?」
「ルチね。人間の魔物への考え方って怖いなぁて思ってたんだ」
「・・・・・・」
「だって人間達は魔物なんて絶滅したっていいって思っているでしょ」
「・・・・・・そうかもな」
「そう考えてなくても行動にでると思うんだ。魔物は第一に切り捨てられる存在だったり、そもそも命の一つの形だってとらえてないのかも」
マトが返事しあぐねていると見廻隊が待機している場所が騒がしくなった。
そこへ二人が行ってみると馬に乗った男が二人こちらへやって来ていた。
バッシとガウトであることをマトはすぐにわかった。
「ルチカは初めてか。ガウトさんに会うの」
「マトは会ったことあるの?」
「直接はないけれど、入隊した時に見たことはあるよ」
二人の男が到着すると待機していた見廻隊が一斉に挨拶をした。
馬から降りたガウトは一言二言話し、バッシの案内を受けて騎士団のハーゲンのもとへ通された。
暫くして、バッシとハーゲンはダンジョン前にやって来た。
バッシが言う。
「マト! ルチカ! こっちへ来てくれ!」
マトとルチカは言われた通り、バッシとガウトの前へ行った。
ガウトは二人を見るとニコッと微笑んだ。
ガウトは、大きな青いマントと大きな中折れ帽を身につけた隻眼の男だった。
髪の色やしわから歳はそれなりにいってそうではあったが、体が大きく人を圧倒する程の覇気を感じ取れた。
ガウトは穏やかな口調で言う。
「君達だね。交渉人は」
マトは緊張しながら応える。
「は、はい。この度は勝手な行動を・・・」
「いや構わない。バッシから全て聞いたが、君達を責めようなどとは全く考えていない。寧ろ見廻隊として責務を全うしてくれていると思う」
「ありがとうございます」
「しかし、ここからが踏ん張りどころだ。交渉がうまくいかなければ君達の頑張りも水の泡となる」
「はい! 頑張ります!」
マトのたじたじな返事に対しルチカは「ほーい」といい加減な返事をした。
「そろそろ始めるぞ」
四人のもとへハーゲンがやって来てダンジョン入り口を示した。
ダンジョン入り口の影からアラフィコス五匹とゴブリン三匹が現れた。
ルチカが見る限り、この八匹の魔物は好戦的な態度ではなく、群れの中でリーダー格に相当するであろう風格をしている。
「交渉に問題ないみたいだね」
ルチカの発言にハーゲンが問う。
「それは確かか?」
「うん。ここからはルチを信用して。でないと交渉人の意味ないからね」
ハーゲンは鼻をフンッとならして引き下がった。
それをガウトは満面の笑みで眺めていた。
「それじゃあ、始めるよ」
ルチカはそれぞれの魔物の代表と話し始めた。
交渉にはそれなりの時間を有したがガウトもハーゲンもいら立つこともなく落ち着いて終わるのを待った。
ルチカが交渉をしているのを見ながらマトは思った。
ルチカの言う通り魔物の在り方について少しは考えなければいけないと。
これまでも魔物の個体数の変化やダンジョンの環境について気にはかけてきたが、それは見廻隊としてであり、つまり冒険者のためであった。
やはり人間の平和を考えれば、魔物を殺さないのは不可能だが、それだけが解決策ではないのだ。
と考えたところでマトはルチカの衝撃的な行動を目にする。
三者で交渉している中、突如ルチカの右の拳がゴブリンの頬にめり込んだのだ。
ゴブリンは「うぎゃー!」と言いながら吹っ飛ばされた。
「ちょちょちょちょちょルチカ⁉」
ルチカは振り返り「ダイジョウブ! 交渉はじゅんちょーです!」
殴られたゴブリンも怒ることなく頬を抑えながら再び交渉の席についた。
暫くして、話し合いが終わったのか交渉人の三者が解散し、それぞれの仲間のもとへ戻った。
ルチカもマトとガウト、ハーゲン、バッシがいる場所へ来た。
「概ね良し! アラフィコスとゴブリンの二者間も仲直りさせたよぉ!」
ルチカの報告にマトは嬉しくなり、ガウト、ハーゲンの発言よりも先に反応してルチカを抱きしめてしまった。
ガウトは笑い声を上げながら言う。
「それは良かった! おチビちゃん。よく頑張ってくれたね」
ハーゲンが続く。
「まあ、これは最低限の結果だ。これからも励みたまえ」
バッシはマトとルチカの肩に手を置いて二人を労った。
騎士団と見廻隊はダンジョンから撤退し、都市へと戻っていった。
マトはルチカと二人で歩きながら都市へと向かった。
「ルチカ。これからどうするつもりだ?」
「う~ん。これまでと変わらないと思うけどぉ」
「けど?」
「今回の出来事で思ったんだよね。
人間と魔物。どちらかが生き残るんじゃなくて両方が生きるような世界が一番だって。
だから今みたいに両方がバランスよく存在している状況を崩したくないし、魔物の命を軽く見る考えが少しでも良い方向へ向かえばなぁって」
ルチカの発言にマトはこれまでうっすらと考えていたことを言う。
「ならやっぱり見廻隊だ‼」
「ん? どういうこと?」
「いやだからさ、ルチカがやりたいこと! 見廻隊に入ればできるって!」
「えっ⁉ ルチが見廻隊に⁉」
「うん。どうだろう。食う寝る所に困らないぞ!」
「でも部屋狭いしな~」と冗談を言いながらルチカは真剣に悩む。
自分が人間の世界に入ってやっていけるだろうか。
それに自分の人間ではない部分を受け入れてもらえるだろうか。
このまま魔物達との生活を続けていった方が・・・。
返事が出来ないルチカの手をマトは握った。
「俺! ルチカとダンジョンを見廻りたいんだ‼」
ルチカは顔を上げてマトの顔を見た。
マトの言葉と笑顔にルチカの悩みは晴れた。
マトとならやっていけるかもしれない。
ルチカは応える。
「わかった‼ ルチ‼ 見廻隊になる‼」




