異世界ルームメイト
少しだけ、お時間いただけると幸いです。
「えっ?」
『えっ?』
その日、私達はスタンドミラー越しに邂逅した。
ココは、私の部屋だ。
そして鏡に映る彼女の部屋でもある。
いわゆる並行世界ってやつなんだろう。薄い世界の膜越しに部屋が重なっていて、どうやら鏡を通して向こう側が見えるみたい。
似たような間取りに似たような家具。
もの選びのセンスも似ているのか同じデザインの物も幾つか持っていた。
『なんか変だと思ってたのよ。急に物が無くなったり、忘れた頃に出てきたり』
「分かる。使おうと思った時に限って見つからないやつ」
どうやら同じデザインの物はどちらかが動かすともう一方も勝手に動いてしまうという謎現象が起きていたみたい。
マグカップだったり、リップだったり。一ヶ月続かなかった水ダンベルも同じの出てきて笑っちゃった。見た目で選んで買っちゃダメだよね。って筋トレについて語り合っちゃったよ。
そんなこんなで、家に帰れば会える友達……鏡越しのルームメイトとして生活してる。
お互いが鏡に映る場所にいないと鏡はただの鏡なので普段の生活に支障はないし。
結構いい感じの距離感で気の置けない友達って感じかな。
「最近、疲れてない?」
『元カレがヤバくて』
「えぇ」
水曜定例の鏡越しの宅飲み女子会。先週より草臥れてた彼女が気になって話を聞いたら、向こうが原因で別れた元カレが復縁を迫ってストーカー化しているらしい。怖いって。
彼女の話に二人して震えていたら彼女の部屋の玄関の方から物音がした。
『え、何?』
驚いた彼女が立ち上がる。と、ほぼ同時に鏡の中に彼女以外の人間が映った。
「ちょ、警察!」
慌ててスマホを探す。けど、こっちの警察に連絡しても来る部屋が違う。
どうしようと鏡を見て、その足元に転がっているものが目に入った。
「これっ」
水ダンベルを掴み、鏡で私の部屋にアタリをつけて振りかぶる。
「遠・心・力」
フルスイングすると鏡の向こうで不審者が吹っ飛んだ。
え、やりすぎた?
鏡の向こう。
警察が来て、バタバタして。
漸く落ち着いたのは事件から十日後。
不審者は案の定、彼女の元カレだった。略式起訴されて、接近禁止令とか出たって。でも怖いから引っ越すことにしたって報告された。
『楽しかったよ』
「私も」
そうして、彼女は引っ越したのだった。
ガタガタと隣の部屋が騒がしい。
引っ越しかな。と、鏡越しの彼女を思い出してしんみりしつつ、どんな人が越してきたのかと玄関を開けたら彼女が立っていた。
「えっ」
「えっ?!」
お読みいただき有難うございました。
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しく思います。