アリヤと「星の本」
イスタンブルの古い街並みには、語り尽くせないほどの秘密が隠されています。8歳の少女アリヤは、ガラタ塔の近くの小さなアパートで家族と暮らしていました。好奇心旺盛な彼女は特に本を読むのが大好き。週末には母と一緒にイスティクラール通りの「ミラビリス書店」を訪れるのが楽しみでした。
その書店は特別でした。天井まで届く本棚、古い木の香り、そしてどこか魔法がかかったような静けさ――アリヤはその空間が大好きでした。
ある秋の午後、空がオレンジ色に染まる中、アリヤは書店の奥で古ぼけた青い表紙の本を見つけました。タイトルは「星の地図」。金色の文字が淡く輝き、アリヤが触れると本は暖かく、どこか懐かしい気持ちを感じました。
ページをめくると、見たこともない星座が描かれていました。その瞬間、本の中から優しい声が聞こえます。
「こんにちは、アリヤ。君がこの本を見つけてくれてうれしいよ。」
声の主は本の中の星座の一つ、名前はルミナと名乗りました。ルミナはこう続けます。
「この本は君の心が導かれる場所へ連れていく鍵なんだ。準備ができたら、星の道を歩いてみよう。」
アリヤが頷くと、書店がぐるりと回転し始め、気づけばイスタンブルの街が輝く星空の中に浮かんでいました。ガラタ塔も、ボスポラス海峡も、スルタンナーメットも、すべてが星々の光で描かれています。
ルミナが教えてくれた星の地図は、アリヤの願いに応じて道を作るものでした。アリヤが「冒険したい!」と思うと、星の光が繋がり、不思議な道が現れました。その道をたどってたどり着いたのは、中世のバザールのような場所でした。
バザールには宙を漂う絨毯や踊るスカーフ、しゃべるランプがいて、あたり一面が魔法の世界です。アリヤが見回していると、ピカピカ光る古いランプが話しかけてきました。
「お嬢ちゃん、こっちだよ。少し休んでいきな!」
ランプは語り部で、空飛ぶ絨毯が星空を旅するようになった話を聞かせてくれました。さらに、スカーフたちが踊り始め、アリヤも一緒に輪に加わりました。近くではチャイグラスたちがトルコの伝統曲を歌い、アリヤは手拍子をしながらその音楽を楽しみました。
バザールで楽しい時間を過ごしたアリヤに、ランプが言います。
「さあ、アリヤ。この先に進むには、私の出す謎を解いて勇気の星を見つけなきゃいけない。」
ランプはアリヤに3つのヒントを出しました。
「1つ目のヒントは、勇気の星は、歌を歌うってこと。でも、その声は耳を澄まさないと聞こえないよ。」
アリヤはじっと耳を澄まし、遠くから小さなメロディーを聞き取ります。それはチャイグラスの歌とは違い、星が奏でる不思議な音楽でした。
「2つ目のヒントは、勇気の星は夜明けのような輝きを持つってこ。赤でも青でもない、その特別な光を見つけるんだ。」
アリヤはバザールを歩き回り、多くの星を見つけましたが、どれも違います。ようやく、夜明けのオレンジ色に似た柔らかな光を放つ星を見つけました。
「最後のヒントは、君の心が一番重要ってこと。勇気の星は、君が一番大切に思うものを映し出す。」
アリヤは目を閉じ、家族の笑顔やスカーフとの踊り、チャイグラスの歌を思い出しました。そして目を開けると、目の前にその星が輝いていました。
アリヤが星に触れると、それは小さなペンダントの形になりました。ランプが言いました。
「その星は君の心に宿る勇気の象徴だ。これからどんな冒険でも、忘れないでね。」
すると、ルミナの声が聞こえてきました。
「本当の冒険は、君の毎日の中にある。この本はいつでも君を待っているよ。でも今は、家族の元へ帰りな。」
目を開けると、アリヤはミラビリス書店に戻っていました。本を手にしたまま、母が笑顔で待っています。
「気に入った本、見つかった?」
アリヤは頷きました。
「うん、すごく特別な本だよ。」
それからアリヤは、毎日少しずつ勇気を持って生きていくようになりました。そして、週末になるとまた「星の地図」を開き、新たな冒険を夢見るのでした。
おしまい
イスタンブールには書店も多く、こうした童話があってもいいのかな?と思い執筆しました。
よければ、高評価、ブックマークをよろしくお願いします。