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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

不倫されましたが、これを幸せと言っても良いですか?

全編ギャグ小説です。最初に書いておきます。すいませんでした。

 アルトコロ帝国では、幼い頃に婚約することは珍しいでもない。

 特に上級貴族となれば、親の都合で結婚する方が日常的だ。

 そこに愛など存在しない。あるのは大人の目論みだけ。


 私、シアン・レーサーも例外ではない。そんなことは子供の中でも常識だ。

 十歳になる頃、私は両親に連れていかれ、ある男性と会わされた。

 それが私の婚約者となる、ゴールド・サビナ様だ。

 

 見え見えの政略結婚。私と会う前の、ゴールド様の表情を今でも覚えている。

 不満そうで大人を睨んでいる、あの顔を。

 でも十歳の子供が、大人に変えてるはずがなかった。私達はその場で婚約を交わした。


 それから七年の月日が経つ。この国では十八歳で、結婚することが出来る。

 私の誕生日は明日。その日に合わせて私達は結婚することとなっている。

 私は溜息を吐いた。正直な所、全く乗り気ではない。


 何故なら私は、一週間前。とんでもない事を言われたからだ。

 私は突如ゴールド様の部屋に呼び出された。

 そこに居た一人の女性。シルバー・ヌリツブ様が、お腹をさすっていた。


『すまない、シアン。彼女のお腹に、私の子が……』


 ゴールド様と、シルバー様は幼馴染だった。

 二人が密に会い、お互いを思っていたのは知っていた。

 でもまさか、こんな事になるなんて。


 ゴールド様はこの不祥事をもみ消すために、シルバー様の子を、私の子として育てると言い出した。

 当然私は異議を申し立て、婚約をなかったことにしようとした。


 でも未成年が婚約を解除するには、親のサインが必要となる。

 欲にしか目がない両親は、当然サインなどしてくれない。

 それどころか、子供が出来る事が確定して、喜びさえもした。


 私はもう、結婚するしか選択肢がないのだ。

 どうにかして自立する力を身に着けて、早めにここから出ないといけない。

 自分をずっと裏切っていた相手と、偽りの夫婦を演じるのは辛い。


「はぁ……。気が重い……」


 元々私は、ゴールド様が自分を愛してくれるなんて思っていない。

 お見合いの時から、私を毛嫌いしているのは分かっていた。

 だから婚約前にあんなことを伝えたのも、嫌がらせだろう。

 

 私は現在、サビナ家の屋敷で暮らしている。

 時期当主の妻と言う、お飾り状態で。

 従者との仲は悪くないが、サビナ家との相性は最悪だ。


 この家での私の扱いは、道具である。

 サビナ家とレーサー家を繋ぐための。


 せめても扱いなのか。本日私の専属執事が、配属されることになっている。

 身の回りの世話をする存在が必要だろうとのことだが。

 大方私が余計な事をしないための見張りだろう。


 離婚をするには、まずこの見張りを突破する必要がある。

 世話係と名ばかりの、監視役を。


「もう来る予定だけど……」


 正午過ぎに挨拶に来ると、伝えられたが。

 もう十三時を迎えようとしてる。

 扉の向こう側に気配も感じない。どういう事だろうか?


 私がドアに近づいて、耳を澄ましていると。

 窓ガラスが割れて、『何か』が入ってきた。

 その『何か』は人間を引きずりながら、私の部屋を走り始めた。


「悲劇のお嬢、僕はサメのジョー。ただいま参上。この状況も惨状」

「思ったより変な奴来たぁ!?」


 引きずられる人間は、黒いスーツを着ていた。

 頭だけ地面に擦られながら、呑気に韻を踏んでいた。

 謎の青年を引きずる者の正体は。カジキマグロとその上に乗ったジャガイモだった。


「僕は執事として、独立、確率変数、部屋参る」

「最後だけ韻踏んでねぇ!?」


 十分彼の頭部を引きずった所で、カジキマグロは止まった。

 尖った鼻でロープを切り、青年を解放する。


「ピッタリ正午だ。JK同盟舐めんじゃねえぞ!」

「もう十三時だけど……」


 サングラスをかけたジャガイモが、青年に近づいた。


「お駄賃、千クレジットで」

「ポテトが苦いので、ワンコイン」


 青年は硬貨を一枚取り出して、ジャガイモに渡した。

 足りない。この世界で千クレジットはお札なので、

 ワンコインでは絶対に足りない。


「よし! 撤収!」

「良いの!? 今の理由で値下げして良いの!?」


 ジャガイモはカジキマグロに乗って、飛んでいった。

 律儀に割ったガラスを、魔法で直しながら。

 私は残った青年のロープを、解いてくれた。


「これが本当の、サイ登場!」

「どこにそんな要素があったんだよ! どう見ても、ジャガイモとマグロでしょ!」

「カジキの鼻とサイの角、ジャガイモアスパラガスは似ているのでサイなのです」

「どうしよう! 意味が一つも分かんない!」


 私は青年の登場から一分も持たず、頭を抱えた。

 多分執事っぽい格好から、彼が私の専属執事なのだろうけど。

 この人と一緒に過ごす自信がない。これも嫌がらせなのだろうか?


「申し遅れました。僕はフォールと言います。本日から、お嬢様のお世話を担当させていただきます」


 シルクハットを被り、丁寧にお辞儀をするフォールとやら。

 その姿だけ見ると、まともそうな人だった。


「ねえ。なんなの? 今のは……」

「お嬢様のお元気がなさそうでしたので。ちょっと茶番を入れさせてもらいました」

「"ちょっと"でも"茶番"でもないよ!」


 青年は魔法を操る結晶。通称"魔法石"を渡してきた。

 それは映像を記録する魔法が使える、魔法石だ。


「これ、練習とNGシーンが入った魔法石です。暇な時にでも見ろ」

「何故命令口調!? あと何がNGシーン? 始まりから終わりまでNGでしょ!」

「冗談です。これは僕の秘宝」


 青年は私から魔法石を取り、魔力を込めた。

 魔法石から緑の光が放たれて。

 空間に映像が出現する。これが魔法石の力なのだ。


「頭が悪くなる映像です」


 映像にはサングラスを付けたアヒルが、ボウガンを持ち。

 馬に乗った鹿を、追い回しながら、ライオンに追われている。

 更にそのライオンも、クジラに追われていると言うものだった。


「頭が悪くなるというか、気が狂う!」

「僕は赤ん坊のころから、これを見て育ちました」

「なるほど! 全部納得……。出来るかぁ!」


 私は気が狂い、机に手を叩きつけた。


「お嬢様が元気になられた様で。良かったです」

「元気と言うか……。まあ、気の重さは紛れたわ」


 てっきり監視役の厳しい執事が来るのと思っていたのだが。

 かなり愉快な人が、来てくれたようだ。

 それに私を元気づけようとしたという事は、悪い人でもないらしい。


「それにしても、明日に婚約する身でどうしたんですか? 涙なんか流して」


 ファールに指摘されて、私は目をこすった。

 自分では意識していなかったが、泣いていてたらしい。

 

「美しい手が台無しですよ」

「そこは顔じゃないんだね」

「顔が台無しなのは、僕の方です!」

「頭でしょ」


 フォールはハンカチを取り出して、渡してくれた。

 私は彼の厚意と信じて、ハンカチを受け取る。

 ハマグリが一面に描かれた凄い柄だったが、気にせず涙をぬぐった。


「えっと。お嬢様、結婚するんですよね? 旦那さんが出来るんですよね?」

「ええ。まあ、一応……」


 私は歯切れの悪い答えを出した。

 あの人を旦那と呼んでいいのか、疑問なところだ。

 正直な所、ゴールド様に恨みはない。悪いのは周囲の大人たちだ。


「ふむ。結婚が嫌な様ですね。失礼ですけど、頭を探らせてもらっても?」

「え? そんなこと出来るの?」


 私の記憶が読み取れると思って、頭を差し出した。

 するとフォールは帽子を取り、後頭部を撫で始めた。


「あ。ここら辺、擦れてる」

「ダブルそっちかよ! 紛らわしいよ!」


 私はフォールに向けて、拳を突き出した。

 フォールは素早く横に回避し、私の腕を掴んだ。


「甘いな! セイヤァ!」


 フォールは私に足払いを行った。

 私は素早くジャンプして、足の上を飛ぶ。

 

「って、なにやってんの!? 私ら!」

「チェンです。これはチェンなのです」


 フォールは私の腕から手を離し、その場でバク転をした。


「どうやらお嬢様は、結婚が嫌なのですね?」

「なんで今ので分かったの!?」

「さあ? なんでかなぁ? それはね……」


 フォールは両手を突き出して、片足立ちをした。


「キョエー! キロキロッチ! だからです」


 私は何も言わず、フォールへ足払いをした。

 彼は簡単に体勢を崩し、その場に倒れる。


「痛い! 擦れた所に当たった!」

「私からの最初の命令よ。今すぐ出て行って!」

「ま、待ってください! これからが本番だから!」


 本番ってなんだろう? 今までのは何だったんだろう?

 とにかくこれ以上、頭を抱えたくないので。

 彼に最後のチャンスを与えるとする。


「お嬢様は、結婚したくないんですよね?」

「え? う、うん……。正直、愛されてないし……」

「だったら僕に任せてください。明日のパーティで、全て台無しにして解決してみせますよ!」


 胸を張って誇らしげに語るフォール。

 結婚式が台無しになっても、両親が同意しなければ意味がないのだけど……。

 微かな希望を抱いて、私は彼に聴いた。


「解決って、どうやって?」

「それはですね……。ムニョルニル! ムニョルニル! フシャー!」

「出てい行けぇ! 荷物を置いて、出ていけぇ!」


 私が叫ぶと、フォールが立っている床に、穴が開いた。

 彼は穴の中へと落下していく。


「あ! ヨーグルト!」

「ええ!? 私の部屋にこんな仕掛けが!? ここ一階なんだけど!」


──────────────────────────────


 結局何をするのか知らないまま、時が過ぎ去った。

 結婚式当日を迎えてしまい、私は朝からおめかし。

 メイドに着替えを手伝ってもらい、着替え終わる。


「まあ、奥様! お綺麗ですわ!」


 見え見えのお世辞を言われて、私は愛想笑いを返す。

 このドレスのせいで実感する。私、今日結婚するんだと。

 自分を愛してくれない、愛人有りの男性と。


 ゴールド様も白いスーツに身を包み、私の前に現れた。

 私を見るなり、一瞬顔をしかめたが、いつもの事だ。


「綺麗だよ。とても」


 ゴールド様に心にもない事を言われた。

 彼の心には最初から、シルバー様しかいなのだ。

 私達はそれぞれの実家を繋ぐための、道具でしかない。


「それでは新郎新婦の、ご登場です!」


 司会に言われて、私達はパーティ会場に向かう事になった。

 会場にはそれぞれの両親と、パーティに呼ばれた親戚たちが居る。

 私は溜息を吐きながら、ゴールド様と腕を組んだ。


「行こうか……」

「ええ……」


 お互い気のない素振りで、ドアを開けて会場に入った。

 せめてみんなの前では、夫婦を演じなければ。

 それはゴールド様も同じだ。私達は注目を集めるライトを浴び……。


「ど真ん中に一+一=が立ってる!? しかもライト浴びているぅ!」


 会場の中心に、木製の一+一=が建っていた。

 鉢巻を巻いた芸術家っぽい人が居る。


「新郎新婦へのプレゼント! あの芸術家、ホール様の最高傑作です!」

「こんなのを傑作にしちゃったの!?」


 ホールと言えば、天才芸術家として有名なお方だ。

 そんな人がなぜ、この様な意味不明なものを造ったのだろうか?


「しまった! 答えがない!」


 ホール様は頭を抱えた。確かに=までしかない。

 肝心の答えがなければ、完成とはいかないだろう。


「安心しろ! 答えならある!」


 何故かドラムの音が鳴り、声の方へライトが向かう。

 私は声だけで嫌な予感がした。記憶に新しい声だ。

 声の主。、フォールが前後が白と黒に塗られた丸い石を、荷台に乗せていた。


「一+一は#です! よってこれで完成なのです!」

「ならないよ! 一本線が多いし、#でもない!」


 私は周囲の目線を忘れて、思わずツッコミを入れた。

 フォールは背後をチラ見。すると驚いたように、目を開いた。


「ああ!? これ、ジェンガだ!」

「私、オセロよ」

「もはや何にもかかってねぇ!」


 と言うより、今オセロ喋ったよね?

 自己紹介して、アピールしたよね?


「しょうがない。日で勘弁してください」

「だからならないって! せめて引き算で……」


 フォールは一+一=に近づくと。ポケットから銅像を取り出した。

 もはや何故収納できたのかは、ツッコムまい。

 銅像はコアラの姿をしている。一+一=の横に置くと、フォールが頭を叩いた。


「間違って、キリン出しちゃった~」

「どう見ても、コアラだよね!?」


 フォールがコアラの銅像を、蹴り飛ばした。

 銅像は横倒しで転がりながら。口から火炎放射。


「うわあああ! コアラが火を吹いたぁ!?」

「マーチですから」

「意味わからん!」


 火を吹くコアラのせいで、会場が軽くパニック状態。

 私の父が我慢の限界とばかりに、机を叩いた。


「いい加減にしたまえ! 君はここがどんな場か、知っているのかね?」

「分かってますよ。このパーティの主役は……」


 フォールは指を鳴らした。その音と同時に。

 私達の名前と結婚式と書かれた、垂れ幕が落下して、新しい垂れ幕が。

 『お肉にことわざを教える会』と書かれたやつが出現した。


 フォールはすかさず黒板を取り出して、チョークを持つ。

 料理の前に移動して、眼鏡をかけた。


「お肉たちですから!」

「変なの始まったぁ!?」


 フォールは物凄い速さで、黒板に文字を書く。

 『同じようなものが、次々に現る事を何という?』と書かれた。


「この問題が解ける奴! 挙手!」


 すかさずフォールが、黒板を膝で砕いた。


「って! 肉に手が上げらえるかぁ!」

「雨後のタケノコです」

「スゲぇ!」


 サイコロステーキ答え、フォールは肉を食べた。

 直ぐに答えを割れた黒板に書く。


「ならばこのことわざの由来、答えてみやがれ!」


 フォールが黒板を叩くと、サビナ家の当主が立ち上がった。

 彼に文句を口にするのかと思ったのだが。

 眼鏡をかけ直しながら、不敵な笑みを浮かべた。


「雨後のタケノコとは、雨上がりにタケノコが次々と生える事から……」

「うるせぇ! そんなことは聞いてねえ!」


 フォールは解答中のサビナ家当主を殴った。

 当主様は頬に跡を作りながら、倒れた。


「クイズ本で得た知識を、自分の知識みたいに語りやがって。ふてぶてしい野郎だ」


 フォールは次に、ゴールド様の方を見つめた。

 彼は背筋が跳ねて、恐怖に怯えている。


「そこのお前! 答えを言ってみやがれ!」


 急に振られてゴールド様は、目線を動かした。


「ええっと……。cosβ余り3です」

「正解だ!」

「数学に入れ替わってる!?」


 フォールは割った黒板で、ゴールド様を刺した。

 黒板が胴体に突き刺さった彼は、後ずさりをする。


「って! そんな答えがあるかぁ!」


 フォールはトドメとして、ゴールド様を蹴り飛ばした。

 彼は頭を壁に打ち、その場で気絶する。


「そこの父親ぁ! 僕と胸キュン対決だ!」

「なんだその勝負!? さっきから、なんで仕切っているの!?」


 父はフォールの下へ向かった。

 腕を鳴らしながら、彼と向かい合う。


「女性をキュンっとさせた方が、勝ちだ」

「彼女なしが、結婚して子持ちの私に勝てるとでも?」

「審判はアヒルの、モア―さんに行ってもらう!」


 どこからからアヒルが飛んできて、マイクの前に立つ。

 ニャーっと一声出して、飛び去った。


「アヒルがニャーって鳴いたぁ!?」

「いくぞ! 僕の先行! プレゼントで好意を引く作戦!」


 フォールはポケットに、手を突っ込んだ。

 あのポケットは異次元空間にでも、繋がっているのだろうか?


「鐘をやるから、好きなもん買え」

「プレゼントじゃないし、お金じゃないの!?」


 私のツッコミに、フォールはどや顔を返した。


「まずは売るところから始めて、商売の術を学べ」

「キュンっと来ないし、意味も分からん!」

「面倒だなぁ……。じゃあお盆休みをあげるの券」

「もはや何もあげてない!」


 しかも最後はやっつけ気味だった。

 この男、一生彼女出来ないと、私は確信した。


「フォール選手、五ポイントです」

「なんでぇ!? 減算レベルだろ、これ!」


 私がツッコミを入れている間も、父は涼しい表情だ。

 先ほどから気になっていたが。何故私以外、誰も異常事態にツッコミを入れないのだろう?


「ふん。物で釣ろうなど、お前は女性を何も分かっていないな」


 父はネクタイを調節しながら、ニヤリと笑った。


「良いか。夫婦円満の秘訣。それはさり気ない、気づかいだ」

「マイナス五ポイント。アホらしいので、×十二」

「なんでだよ!?」


 アヒルが父の頭上へ飛んだ。


「貴様にはへカトンを除霊された恨みがある。忘れたとは言わせんぞ」

「誰だよ、へカトンって!?」

「罰ゲーム! アヒルの大群!」


 アヒルが父の腕に噛みついた。同時にどこからか、大量のアヒルが現れて。

 父に向かって、飛び跳ねていく。


「やめろ! 口ばしが刺さるだ! 痛い!」

「正義の裁きを知れぇ!」


 アヒルに飽きたのか、フォールは次の人物の下へ。

 パーティに参加していた、シルバー様だ。

 彼女はこの事態で、呑気にジュースを口にしていた。


「お前……。あの時の……!」


 フォールが凄い剣幕で、シルバー様を睨んだ。

 その顔を見て、シルバー様も表情が険しくなる。


「あの時バーゲンセールで、ジャンケンをして奴か……」

「凄くどうでも良い因縁を、クールに言い切ったぁ!」

「あの時の雪辱、晴らさせてもらおう!」


 フォールは厚紙を、シルバー様に渡した。

 筆を取り出して、自らも紙を持つ。


「俳句で勝負だ。ダサイ句を読んだ方が負け」

「ジャンケンじゃないんだ!?」

「良いだろう。受けて立とう」

「良いの!? シルバー様ってこんな人だったの!?」


 何故か筆を持ち歩いていたシルバー様は、懐から取り出す。

 フォールも筆で、紙に俳句を書いていく。

 書き終わったと思うと。二人はしゃがんで、筆を置いた。


 その後即座に立ち上がり、鞘かから剣を引き抜く。

 シルバー様が勝ち誇った顔で、フォールを見つめる。


「私の先行だな」

「どういうルールなんだ……」

「赤き花、散りゆく姿は、夕日かな」


 シルバー様の頭上に、カジキマグロの鼻が近づく。

 ギリギリのところで止まり、鼻は引っ込んだ。


「流石に妊婦は傷つけないよ」

「だよね……。でも判定厳しい……」

「じゃあ、次は僕だね」


 フォールは体を反転させて、私の母の下へ。

 拳を握り、一気に振りかざした。


「さっさとサインを書けぇ!」

「せめて文字数は合わせよう!」


 強烈なアッパーを食らい、母は意識がもうろうとした。

 フォールは書類を突き出して、母に筆を渡す。

 あれは、私の婚約破棄のための書類だ。既に父のサインが書いてある。


 母は意識がしっかりしていなのか、素直にサインを書いた。

 あれ? これって……。私があることを考えていると。

 パーティ会場の窓を割って、新たな乱入者が。


 それはカジキマグロに乗った、サングラスをかけたジャガイモだった。

 ジャガイモはシルバー様をカジキマグロの上に乗せた。


「早く乗れ!」

「ええ!? なんで!?」

「良いから早くしろ! 時間がない!」


 私は言われるがまま、カジキマグロの上に乗った。

 フォールは再びロープで足を縛られて、ジャガイモが引っ張る。


「行くぞ! 脱出!」


 カジキマグロが空を飛び、窓から脱出する。

 私達が少しだけ屋敷から離れた直後。

 背後から大きな爆音が聞こえてきた。


 振り返ると、サビナ家の屋敷が爆破されている。

 何回かに分けて爆発し、一種の解体作業の様になっている。


「え? 会場に居たみんなは?」


 すると引きずられながら、本を読んでいるフォールが笑った。


「大丈夫です。火薬の量調整しましたから」

「お前が仕掛けたんかい!」

「失礼な。ホールが仕掛けたんだよ。芸術は爆発だとか言って」

「火薬調整するなら、解除しろよ!」


 父達の命は別条がないと、信じて。

 次の不安が私に襲い掛かる。


「これからどうすれば良いの……? あんな無茶苦茶して」

「なにって、これを提出すれば良んです」


 フォールは懐から、婚約を破棄するための書類を出した。

 既に父と母のサインがあり。私がサインすれば、成立する。

 これが受理されれば、私達の婚約はなかったことになるのだ。


「なるほど。これで私は、ゴールド様と婚約が破棄されるわね……。で?」

「終わり」

「終われるかぁ! 屋敷爆破しちゃったし! 無理矢理書かせたし! シルバー様のお腹の子は、不安な将来だし!」


 フォールは本を閉じて、シルバー様を見つめた。


「生まれた子を一旦、僕に預けなさい」

「なんでだよ!? 何の接点もないだろ!」

「僕が責任を取って、育てます」

「取るもんじゃないだろ! 持てよ!」


 ようやくカジキマグロが止まり、私達を下した。

 

「千クレジット」

「カードで」


 フォールはトランプを、ジャガイモに投げた。

 ジャガイモは絵柄を確認すると、カジキマグロに座り直す。


「よし! 撤収!」

「だから良いのかよ!?」


 飛んでいくカジキマグロを、私達は見送った。

 もはや海の生物がどうかとか、問題ではないだろう。


「で? これからどうするの?」


 私は再びこの質問を、フォールにぶつけた。


「私は家に帰れなくなったんだけど?」

「え? それ、何か問題あるんですか?」

「……言われてみれば、最終目標は達成しているけど」


 私の目標は家から独立して、離婚することだった。

 書類がある限り、婚姻は有効にならない。

 どのみち離れる予定だった家から、逃げ出している。


「でももっと、準備が。社会的地盤とか、資産とか……」

「ああ。それなら問題ない。私が支援してやろう」

「え? なんでシルバー様が?」

「ああ。私が妊娠したという話。アレは嘘だからな」


 私は理解が追い付かず、思考が停止した。

 は? 嘘? どういう事なの?


「あの男は、昔から女癖が悪くてな。少し痛い目を見てもらった」

「じゃあ、シルバー様以外にも、愛人が……?」

「沢山居たんじゃないか? お金の権力をチラつかせて」


 知らなかったなぁ。知ろうとも思わなかったけど。

 ゴールド様想像以上のクズだったわ。


「迷惑料として、資金と資材と人材、住める家を用意しよう」

「迷惑料、高過ぎません?」

「そんなことはないさ。貴方の苦労に比べれば、大した額じゃない」


 シルバー様、意外と私の事見てくれていたようだ。

 確かにこれで問題は解決したように思えるけど……。


「良いの? こんな事になっちゃって?」

「良いんです。綺麗に終わればそれで」


 フォールが異次元ポケットから、大砲を取り出した。

 導火線を握って、口角を上げる。


「それではお嬢様の独り立ちを願って。打ち上げをしましょう!」

「……」

「……。打ち上がる花火がねぇ!」


 フォールは大砲に、足をかけた。


「こうなれば、僕が花火に……」

「ダメだって! 死んじゃうよ!」


 私は大砲に入ろうとするフォールを、必死で止めた。


「大体お前が入れば、誰が火をつけるのだ?」

「ん? 確かに」

「そこが問題じゃないよ!」


 この二人変な食事でもしたの?

 全然話が通じないんだけど。


「クッソ! じゃあ、誰を飛ばせば、良いんだ」

「お前ら! 良くも屋敷を爆破してくれたなぁ!」


 私達の下へ走る、黒焦げのアフロになって人物。

 ゴールド様が、怒りの形相で近づいてきた。

 全員の目線が、すっと彼の下へ向かう。


「ボーンっと行っちゃう?」

「行っちゃいましょうか」

「うん。行っちゃおう」


 私達はゴールド様を捕らえて、大砲の中に入れた。


「え? え? ちょっと待って! 何これ!?」

「それではお嬢様の成功を祈って。パラレル!」


 フォールは無慈悲に、導火線に火をともした。

 炎が徐々に大砲に近づき、一気に放出。

 される直前で大砲が下向きに回転した。


 ゴールド様が地面に叩きつけられて、大砲が飛んでいく。

 空中で大砲が爆破して、綺麗な花火となった。


「束縛が外れた、令嬢。新たな旅立ちを祈り、祝杯の花を散らさん」

「えっと、一言だけ良い?」


 私は深呼吸をして、決定的な言葉を告げた。


「これ、幸せと言って良いの?」

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