8月13日―AM8:00
翌朝、僕がもそもそと起き出すと、じいちゃんは既に起きていて、台所からトントンという小気味いい音がしていた。
寝間着のまま、目をこすりながら台所に顔を出すと、じいちゃんが「お、理玖。起きたか」と笑顔で振り返った。
まな板の上には胡瓜が乗っていて、コンロの上では鍋がポコポコと音を立てている。
僕はじいちゃんが料理をしている姿に面食らってしまって、呆けたような顔で「あ、うん」と間の抜けた返事をした。
着替えて歯磨きをして、また台所に戻ると、「お、ちょうどいい。できたぞ」とじいちゃんが機嫌よく笑った。
僕はやっぱりその姿に戸惑って、また「あ、うん」と曖昧に頷いた。
じいちゃんに言われて炊飯器からご飯をよそって、箸を並べ、席につく。
胡瓜の糠漬けと炒り卵、味噌汁を前に、僕は手を合わせ、おそるおそる口に入れた。
「美味しい……」
「そりゃ良かった」
ぱりぱりと胡瓜の糠漬けをかじりながら、にこにこしているじいちゃんが、僕にはまだ信じがたかった。
朝食の片づけが終わると、じいちゃんは庭に出て、ホースを引っ張り出し、庭木に水をやり始めた。
僕が縁側に突っ立ってその様子を眺めていると、じいちゃんが気づいて「やってみるか?」と笑った。
僕は頷き、サンダルをつっかけてじいちゃんと一緒にホースを握り、庭全体にばしゃばしゃと水をかける。
支柱に絡みつくように咲いた朝顔が、水しぶきを浴びてきらきらと光った。
プランターに植わった胡瓜に水をかけながら、じいちゃんに「これって、今朝の」と目顔で尋ねると、じいちゃんは笑って頷いた。
葉と葉の間から青々とした胡瓜が覗く。じいちゃんはポケットからハサミを取り出し、ほいと僕に寄越した。
きょとんとする僕に、じいちゃんは、にっと笑って胡瓜を顎でしゃくる。
「それ、とっていいぞ」
「えっ」
僕はハサミを受けとり、おそるおそる茎に刃を入れる。
僕の手に収まった採れたての胡瓜は、少し不格好だが、鮮やかな緑色をしていて、日の光に艶々と輝いていた。
最後に、鉢植えにはじょうろで丁寧に水をやる。
すべて終わった頃には、僕の素足やズボンまで水に濡れていて、じいちゃんと顔を見合わせて苦笑した。
その後は、じいちゃんが運転する軽トラに乗って、買い物に行った。
着いたのはスーパーではなく、小さな商店街だった。
僕が驚いているのをよそに、じいちゃんは八百屋で野菜を買い、鮮魚店で魚を買った。
馴染みの菓子屋に寄るとおばちゃんがおまけをくれて、僕は戸惑いながら「ありがとう」と受け取った。
それから、最後に花火を買った。
桃が帰ってきてからやるぶんと、今日じいちゃんと僕とでやるぶん。
僕は、帰る車の中、助手席で大きな花火を抱えていた。