表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/17

8月13日―AM8:00

 翌朝、僕がもそもそと起き出すと、じいちゃんは既に起きていて、台所からトントンという小気味いい音がしていた。


 寝間着のまま、目をこすりながら台所に顔を出すと、じいちゃんが「お、理玖。起きたか」と笑顔で振り返った。

 まな板の上には胡瓜が乗っていて、コンロの上では鍋がポコポコと音を立てている。

 僕はじいちゃんが料理をしている姿に面食らってしまって、呆けたような顔で「あ、うん」と間の抜けた返事をした。


 着替えて歯磨きをして、また台所に戻ると、「お、ちょうどいい。できたぞ」とじいちゃんが機嫌よく笑った。

 僕はやっぱりその姿に戸惑って、また「あ、うん」と曖昧に頷いた。


 じいちゃんに言われて炊飯器からご飯をよそって、箸を並べ、席につく。

 胡瓜の糠漬けと炒り卵、味噌汁を前に、僕は手を合わせ、おそるおそる口に入れた。


「美味しい……」

「そりゃ良かった」

 ぱりぱりと胡瓜の糠漬けをかじりながら、にこにこしているじいちゃんが、僕にはまだ信じがたかった。


 朝食の片づけが終わると、じいちゃんは庭に出て、ホースを引っ張り出し、庭木に水をやり始めた。

 僕が縁側に突っ立ってその様子を眺めていると、じいちゃんが気づいて「やってみるか?」と笑った。

 僕は頷き、サンダルをつっかけてじいちゃんと一緒にホースを握り、庭全体にばしゃばしゃと水をかける。

 支柱に絡みつくように咲いた朝顔が、水しぶきを浴びてきらきらと光った。


 プランターに植わった胡瓜に水をかけながら、じいちゃんに「これって、今朝の」と目顔で尋ねると、じいちゃんは笑って頷いた。

 葉と葉の間から青々とした胡瓜が覗く。じいちゃんはポケットからハサミを取り出し、ほいと僕に寄越した。

 きょとんとする僕に、じいちゃんは、にっと笑って胡瓜を顎でしゃくる。


「それ、とっていいぞ」

「えっ」


 僕はハサミを受けとり、おそるおそる茎に刃を入れる。

 僕の手に収まった採れたての胡瓜は、少し不格好だが、鮮やかな緑色をしていて、日の光に艶々と輝いていた。


 最後に、鉢植えにはじょうろで丁寧に水をやる。

 すべて終わった頃には、僕の素足やズボンまで水に濡れていて、じいちゃんと顔を見合わせて苦笑した。


 その後は、じいちゃんが運転する軽トラに乗って、買い物に行った。

 着いたのはスーパーではなく、小さな商店街だった。

 僕が驚いているのをよそに、じいちゃんは八百屋で野菜を買い、鮮魚店で魚を買った。

 馴染みの菓子屋に寄るとおばちゃんがおまけをくれて、僕は戸惑いながら「ありがとう」と受け取った。


 それから、最後に花火を買った。

 桃が帰ってきてからやるぶんと、今日じいちゃんと僕とでやるぶん。

 僕は、帰る車の中、助手席で大きな花火を抱えていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ