8月11日―PM9:00
晩御飯を食べ、風呂に入ると、どっと疲れが出たのか、桃が眠そうに目をこすり始めた。
僕らはどこで寝ようかという話になって、祖父は、「二階にはクーラーがあるから、お前たちは上で寝たらいいさ」と布団を運び始めた。自分は冷房はいらないし、いつも通り1階で寝ると言う。
「一部屋に四人じゃ少し狭いかもしれないが、親子一緒のほうがいいだろう?」
「いやでも、お義父さんだけ1階に一人というのも寂しいですし、俺は下で寝ましょうか」
父の提案に、祖父は「寂しいといっても、いつもと変わらんさ」とからりと笑った。
「僕が下で寝る」
まとまりかけた会話に、僕は少々無理やり割り込んだ。
「「「え?」」」
祖父と父と母が見事にハモる。三人のきょとんとした顔が、ほぼ同時に僕に向いてとてもシュールだ。ちなみに桃は眠すぎて頭が働いていないのか、どうでもいいから早くしてくれと言わんばかりだ。三人から一拍遅れながらも、半目で「まだ?」と言いたげな、じとっとした視線を僕に向けてくる。
四人分の視線を浴びながら僕は喋り出す。
「一部屋に四人は厳しいんじゃない?布団運ぶのも大変だし。でも、桃は父さんと母さんと一緒がいいだろうし、クーラーもあったほうがいいと思う。僕はこの気温なら下で寝ても平気」
祖父と父と母は、ゆっくりと顔を見合わせ、また僕を見る。
「まあ、お前がいいなら……」
父が三人を代表するようにそう言い、僕はこっくりと頷いた。
「むしろ下がいい。父さん、いびきうるさいし」
「……」
僕の余計なひと言によって父はひっそりと傷ついたが、皆は「じゃあそうするか」という体で動き始める。
桃はさっさと二階に上がり、「ママ、早く寝よー。クーラーつけるやつどこ?」と、自分本位だが実に主体的に動いていた。
僕は、雨のせいで少しひんやりとした畳の上に、二人分の布団を敷き、歯を磨いて寝間着に着替え始めた。