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プロローグ
ミーンミンミンミン……
蝉が鳴く。
この世界に生きた証を残すように。
あるいは、命の短さを嘆くように。
ミーンミンミンミン……
昔、幼稚園の先生に、どうして蝉はこんなに大きな声で鳴くのと聞いたことがある。
その時先生は、ちょっと考えて、こう答えてくれた。
「蝉はね、長い間土の中に眠っていて、やっと出てこられたーって、喜びのあまり叫んじゃうんじゃないかな。きっと、だからこんなに大きな声で鳴くんだよ」
今なら、それが求愛行動の一種だということも、蝉が一生のほとんどを土の中で過ごすということも知っている。
でも、時折、蝉の声がひどく悲しげに聞こえることがある。
それはきっと僕の気のせいで、彼らは多分、何も考えず、ただ力の限り鳴いている。
それでも、ふと考えてしまう。
彼らは、一週間という命の短さを、この世界に訴えているんじゃないか、と。