第3話「親ガチャで例えるとSRくらいかな」
「久しぶりの投稿やね」
「いきなりメタ発言は嫌われるわ。まだ3話よ」
バイト帰りの紗希は帰宅してすぐ、炬燵においてあるパソコンに手をかける。紗希に限れば、バイト帰りにすぐに課題をしなければならないほど、窮屈に生きている人間でもない。ただ、パソコンのメールに届いているはずの企業のインターン選考の結果を確認したかっただけだった。
紗弥はそんな紗希の様子を見て呆れていた。なぜなら、紗希ほどの人間であれば、書類選考でまず落選するとは考えられないからだ。
結論、紗希は希望していた企業のインターン選考に通過したのだった。
「『親ガチャ』って言葉あるやんか?」
「世の中にはあるみたいね」
少しだけ機嫌の良い紗希は台所に立った。その様子を紗弥はアイスを食べながら眺める。「よくこんな寒いのに食べるわね」との紗希の言葉を無視して紗弥は続ける。
「うちの親って親ガチャ当たりなんかな」
「考えたこともなかったわね」
紗弥は「ふーん」と言ってアイスを食べ続ける。会話に続きを持たせたのは紗弥ではなく、紗希だった。
「逆に、紗弥はどう思うの」
「……」
「紗弥??」
紗弥は真剣な表情で考え込んでしまった。が、頭の回転の速い紗弥はすぐに表情を明るくしたかと思うと、少し低い声で述べ始めた。
「SRの中では一番コストが低くて効果も弱いもの。でもあまりにコスパが良いからみんなデッキに何枚か入れておきたいけど、結局デッキを圧迫するくらいなら最初から使わないって選択も十分ありのタイプ……かな」
「私、カードゲームあまり知らないんだけど……」
「紗希って、何かやりたいと思ったときにお父さんとお母さんからいろんなもの与えられてきたと思うんよ。何か習い事をしたいって言ってもすぐさせてくれたし、勉強したいって言ったら塾にも連れていくし、やりたくないって言ったことは無理強いもさせてこないじゃない」
「それはそうね。すごく感謝してるわ」
「受験で失敗してた時もそうだったやん。浪人するか私学にするかで悩んでた時も、どっちを選んでも大丈夫だよって言ってたやんか」
「そうね、それで結局そのまま進学したんだけど」
「うちにも、その自由はあったかなと思ってな」
「どういうこと?」
「これはウチが思ってることであって、お父さんとお母さんに直接聞いたことがあるわけじゃないんやねどな。あまりにも、紗希が成功しすぎたと思ってるんよ」
「……」
紗希は黙々と料理を進める。紗弥の口は止まらない。
「紗希はなんでもやりたいことはやらせてくれてたけど、ウチはそうでもなかった。紗希が成功したから、紗希とおんなじことをやらせようとしてた。したくない勉強もしたし、やりたかった習い事もできなかった。『成功した姉を見習ってあなたもそうしなさい』ってことだったと思うんよね」
「紗弥ってそんなこと考えてたのね」
「別に、それが嫌だったわけじゃないんよ。紗希のことは大好きだし、紗希と同じように頑張れるなら私も頑張りたいもん。でも、心のどこかには不平等感がぬぐえなかったのよね」
紗弥はそう言って上を向く。紗希はじっと紗弥を見つめた。二人は目を合わせられない。
「……私から、二人に何か言っておくこととかある?」
「まったくない!実際、紗希が私のことを引き取って……いわば私のことを親が放任して紗希に任せてくれてるってのがすんごくうれしい。私こっちに来てから紗希とは別の道を歩いているみたいだけど、でも結局紗希のことを尊敬してるし、大好きだもん」
「……」
紗希は依然として拍子抜けしている。
「親ガチャって言葉ってどこか『虐待』とか『親としての役目』とかそういう言葉と引っ付いて回りがちだけど、本当の意味での親ガチャは、親と子供の関係性なんじゃないかなって思う。あまりに過保護すぎても外れだし、無関心すぎても勿論ダメ、暴力は論外だけどね。そういう意味では、紗希はどう考えてたのかなって確かめてみたくなった」
「なるほどね」
しばし、沈黙が流れる。
「――—私は紗希が羨ましい。でも、紗希のことが大好き。今までありがとう。これからもよろしくね」
「こっちこそ、いつも生活に華があるのは紗弥のおかげよ。ありがとう」
それを聞くと、紗弥はまた炬燵の方に戻っていった。
「姉ガチャはSSRだけどね!!」
居室から、キッチンに向かって紗弥の声が響いた。




