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第八話 読めるの??

こんばんは、今週もどうぞよろしくお願いします!



「ずいぶんと詩的な表現だなあ」


 聖女が手記を書き始めた。ただの日記だと言っていたが、どのようなことを書いているのかは「重要機密」なのだそうだ。

 しかし彼女が書き連ねているのを肩越しに覗き込んだ魔術師長がのんびりとした声をかけると、聖女は音を立てる勢いで顔を上げた。


「よ、読めるのっ?!これ、向こうの言葉なんだけど!」

「『夕暮れの空の色は同じなのに、夜の星は知っている星座がひとつもない。異世界なのだと改めて知る』、いいね、文才あるよ」


 聖女は真っ赤になって両手で顔を隠した。


「イヤーーー!やめてーー!誰も読めないと思ってたのに!」


 魔術師長は困ったような、笑いをこらえるような顔をした。


「僕の『相互理解』、文字にも及ぶんだ。文字まで読めるのは僕だけだから大丈夫」

「大丈夫じゃない!ダメーー見ないでぇ!読まないで!」


 魔術師長は彼女が綴った手記を取り上げると高くかざし彼女には届かないようにした。彼女は慌てて取り返そうとする。その慌てぶりに、魔術師長はついに声をあげて笑い出した。


 こいつの笑い声を聞いたのはいつ以来だったかな、と考えてみるが、思い出せない。


「お前たち、執務の邪魔をするならよそでやれ、ちっとも進まん」


 息があがった二人がいつまでも笑い転げているので、私は書類から顔を上げると言った。

 すると何故か、二人は顔を見合わせた。


「……うん、そうだね、うるさくしてごめんなさい。アタシ、もう戻るね」


 聖女はチラッと魔術師長を意味ありげに見ると出ていった。魔術師長は彼女を見送り、何故か一人残った。


「確かめたいことがあるのですが」

「今か?」

「それと喫緊の問題が一つ」

「聞こう」


 魔術師長は頷くと座り直した。


「まずは喫緊の方から。第二妃ですが、殿下に感情が芽生えてきていることを耳にした模様です」

「そうか。自分でも感情が揺らいでいると思うが、それをかの方が知ることで何か問題でも?」

「殿下が感情を持てば、自分に対して悪感情を抱くのではないかと疑っています」


 私はすぐには返答出来なかった。これが呆れるという感覚か。


「第二妃がお前や私にしたことを考えれば、良い感情を持つ方が難しいだろう。お前の母親を悪くは言いたくないが、悪感情ならすでに持っているさ。手遅れだ」

 

 私は書類を閉じて片付けた。こいつの話の方が重要だ。


「第二妃とは血縁ではありますが、我が身は既に王族から辞しています。臣下としてお仕えしている以上の関係はありません」

「だがそれでは、そっくりそのまま私にも当てはまってしまう」

「……殿下には魔術師長として重用していただいています。血縁よりも固い絆かと」

「お前が、陰口を叩く者たちを実力で黙らせてきたのは承知している、お前が魔術師長であることを、私も血縁より重くみているが、二人の時にもその立場でいられてはいつまで経ってもその口調だ。聖女殿には、にいちゃんとでも呼んでもらえと言われている」

「に‥っ!?」


 魔術師長は驚愕の表情だがそのうち笑い出した。


「あの子には敵いませんね。にいちゃんはあんまりなので、あ、兄上と呼ばせていただきます。言葉も……、くずしてもいいかな?」

 

 弟の顔が赤らんでいる。なんだか私の顔まで熱を持ちそうだ。


「いいな。それでいこう。で、第二妃だが」

「第二妃は、あ、兄上が、」

「呼びにくそうだな」


 私の言葉に彼はますます赤くなった。


「すぐ慣れます、慣れるよ。第二妃は兄上が悪感情から、自分を排除しようとするのではと恐れているらしいんだ」


 一瞬、意味が分からず言葉が出なかった。


「……なんとまあ。それはつまり、私が私人としての悪感情から、第二妃を公人として排除しようとすると思っているということになる。そのくらいの公私の別もわきまえないと思ったのか。舐められたものだな」


 弟は肩をすくめた。


「あの人は自分がそうだから、他人も当然そうだと思っている。賢妃なんて呼ばれてるけど、僕に言わせると狡賢いだけだ。今度は兄上や僕に対して、どんなことを企んでいるのやら。用心しておいたほうがいいと思ったんだ」

「なるほど、了解した。早速手を打とう」


 私は人を呼んでニ、三指示した後、飲み物を運ばせた。


「さて、話はそれだけではなさそうだな。むしろ本題か。確かめたいこととは?」


 弟はすぐには答えず、運ばれた酒を手に取ると一気に呷った。




次回

聞かれたら嫌だなと思っていたけど

ありがとうございます、また明日!

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