第七話 一生後悔しそうなので申し上げます
後日婚約者殿が面会に来た際、彼女について聖女が評していたことを伝えてやった。
これまでの彼女なら、誰かから「すごいね」だの「大好き」だのと言われれば、はにかみながらも喜ぶ場面だ。ところが、どこか苦しそうにじっと何かを考えている。
「……聖女様は本当に、素敵な方ですわね……。それで……、自分でも救いようのない馬鹿だな、と思いますが、一生後悔しそうなので申し上げますと」
しばらく後、令嬢は俯いたままくぐもった声で言った。
「聖女様のこと、ずいぶんとお気に召しておいででしょう?」
「お気に召す、とは?」
「離れがたく思っておいででは?」
私は驚いた。そして、自分が驚いたことに、驚いた。
私は、驚いている。何ということだ。
彼女は小さくため息をついた。
「殿下、驚いておいでなのですね」
「……どうやら、そのようだ」
「何に、……ですの?」
「……自分が驚いたことに……。それと、」
「……」
何故か彼女はぎゅっと目を閉じた。
「私は、聖女と離れがたいと思っていたのか」
「殿下」
「確かに聖女が留まれば、良いことだらけだが、しかし」
「殿下」
彼女は私を見ずに言った。
「どうか、そのお気持ちと向き合って下さいませ。わたくしはこれで」
礼をとると、そのまま退出しようとする。
「待て、どういう事だ」
彼女は未だ私を見ない。
「殿下。以前一度だけ、わたくしの気持ちを説明することを、お断りしたことがございましたね」
そんなこともあった。婚約が決まった日だ。ポロポロと泣き出したので、どうしたのかと言うと、どうか何も聞かないでくれと言われ、その通りにした。
後日聞くと、あの時の気持ちは説明できないと言われたが、本当に何も聞かないでいてくれたおかげで、色々と覚悟ができたとも言っていた。
「あの日と同じことを申し上げます。どうか何も聞かないで」
素早く礼をとると、背を向け出ていってしまった。
残された私は、唖然としていた。そして、自分が唖然としたことにまた、唖然とした。
聞くなと言われれば、それを押して尋ねるわけにはいかないことはわかっていた。
だが、翌日には、まるで何事もなかったかのように振る舞う彼女を見ると、どういうことなのか、なぜ何も尋ねてはいけないのかを問い詰めたいという「気持ち」が込み上げてくるのを自覚し、これに抗うのは私にとって、相当の努力を必要とした。
私の感情が芽生え、どんどんと強くなっていく。それに気付くと、次々に気持ちが色々と湧いてくるのがわかったが、それは私にとってむしろ苦痛の伴う現象だった。
これを制御する世の人々に感嘆する。自分の気持ちを持て余し、私は、生まれて初めて途方に暮れた。
切実に彼女の説明が聞きたい。
次回
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