表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

第七話 一生後悔しそうなので申し上げます



 後日婚約者殿が面会に来た際、彼女について聖女が評していたことを伝えてやった。

 これまでの彼女なら、誰かから「すごいね」だの「大好き」だのと言われれば、はにかみながらも喜ぶ場面だ。ところが、どこか苦しそうにじっと何かを考えている。


「……聖女様は本当に、素敵な方ですわね……。それで……、自分でも救いようのない馬鹿だな、と思いますが、一生後悔しそうなので申し上げますと」


 しばらく後、令嬢は俯いたままくぐもった声で言った。


「聖女様のこと、ずいぶんとお気に召しておいででしょう?」

「お気に召す、とは?」

「離れがたく思っておいででは?」


 私は驚いた。そして、自分が驚いたことに、驚いた。


 私は、驚いている。何ということだ。


 彼女は小さくため息をついた。


「殿下、驚いておいでなのですね」

「……どうやら、そのようだ」

「何に、……ですの?」

「……自分が驚いたことに……。それと、」

「……」


 何故か彼女はぎゅっと目を閉じた。


「私は、聖女と離れがたいと思っていたのか」

「殿下」

「確かに聖女が留まれば、良いことだらけだが、しかし」

「殿下」


 彼女は私を見ずに言った。


「どうか、そのお気持ちと向き合って下さいませ。わたくしはこれで」


 礼をとると、そのまま退出しようとする。


「待て、どういう事だ」


 彼女は未だ私を見ない。


「殿下。以前一度だけ、わたくしの気持ちを説明することを、お断りしたことがございましたね」


 そんなこともあった。婚約が決まった日だ。ポロポロと泣き出したので、どうしたのかと言うと、どうか何も聞かないでくれと言われ、その通りにした。

 後日聞くと、あの時の気持ちは説明できないと言われたが、本当に何も聞かないでいてくれたおかげで、色々と覚悟ができたとも言っていた。


「あの日と同じことを申し上げます。どうか何も聞かないで」


 素早く礼をとると、背を向け出ていってしまった。


 残された私は、唖然としていた。そして、自分が唖然としたことにまた、唖然とした。






 聞くなと言われれば、それを押して尋ねるわけにはいかないことはわかっていた。


 だが、翌日には、まるで何事もなかったかのように振る舞う彼女を見ると、どういうことなのか、なぜ何も尋ねてはいけないのかを問い詰めたいという「気持ち」が込み上げてくるのを自覚し、これに抗うのは私にとって、相当の努力を必要とした。


 私の感情が芽生え、どんどんと強くなっていく。それに気付くと、次々に気持ちが色々と湧いてくるのがわかったが、それは私にとってむしろ苦痛の伴う現象だった。


 これを制御する世の人々に感嘆する。自分の気持ちを持て余し、私は、生まれて初めて途方に暮れた。


 切実に彼女の説明が聞きたい。



 


次回

読めるの??

ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ