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第四話 アンタ、サイテーだ

こんばんは!

今回、後半部分に、ちょっと口論になる場面が出てきます。

多分飛ばしても意味は通じる、と思います。

どうぞよろしくお願いします!



 あの後、アレに似た玩具のことは聖女と私たち三人の間のみにとどめておくことにした。周囲にいい影響があるとも思えないからだ。


 偶然侍女たちに見つかったりすると厄介だと、彼女はそれを魔術師長に預けることにしたらしい。魔術師長はあの形状をものともせずに大喜びで預かったと聞いた。


 彼は聖女の元に日参し、玩具を分解したり組み立てたりして、仕組みを理解しているらしい。私たちの日常の道具類に組み込むことができれば、より少ない魔素で多くのものを動かすことができるようになるだろうと意気込んでいる。


 一つ気になるとすれば、かの玩具が動く時、かなり大きな音がする、と聖女が言っていることだ。私たちには全く聞こえない。私には聴覚の違いのほうが大きな問題と思える。


 聴覚の違いは、身体のつくりの違い。そして物の見方や価値観、立場の相違にも繋がる。忌むべきアレに似た玩具を平然と晒していたように。かの者と私たちは、異質なのだ。大切な客ではあるが相容れない。理解の及ばないものだ。


 聖女には、出来る限り快適に過ごしていただく。そして百日後に速やかにお帰りいただく。これ以上のことは、私には出来ないだろう。





 

「確かにアタシはさあ、こう順序よく筋道立てて話すのは下手だよ、でもさ、そうあからさまに、もう分かんなくてもいいやっていう態度はどうなの?頑張る気もないのがミエミエなんだけど」


 聖女が強い口調で言い出した。共にいた婚約者殿が口をはさもうとするが、その前に更に言い募る。


「あなたたちが怖がるアレを見せちゃったのは悪かったと思ってる。知らなかったんだ。知ったからにはちゃんとするよ。病気や災害の象徴なんだってことも理解した。でもそれって、知らなきゃ配慮できないでしょ?意味、わかる?」


 彼女の言い方に、そしてその内容が全く理解不能なことに、何だか頭に血が集まる様な感覚がした。これは一体、どういう現象だろうか。


「……正直、あなたがあの玩具について配慮してくれていることはわかったが、それ以外はよくわからない」


 聖女は令嬢の顔を振り返る。彼女は口を開きかけたが、そのまま俯いた後、小さく申し訳ありません、と呟いた。聖女はため息をついた。


「……そうか。仕方ない。わからないのを怒っても疲れるだけだもんね。

 あのね、つまり、よく知らないとか、わからないのは仕方ないよ、でも、わかんないまんまには、しないでほしいんだ。ここまでは、わかる?」

 

 わかった。彼女は私が彼女を理解することを後回しにしていたことに気付いていたのだ。百日経てばいなくなる人物の理解に、労力を注ぎ込む気はなかった。そのことを言っているのだろう。


 魔術師長が「聖女様はこちらの意図を分かっておいででした」やら「率直で聡い方ですね」などど言っていたことを思い出した。あいつはよくわかっている。おそらく私が知り得ない多くのことがわかっているのだろう。


 腹の温度が上がるような、なんとも言えない感覚が湧き上がってきた。聖女はさらに言い募った。


「特にアタシが不安に思ったり、腹が立ったりすることは、よくわかんないまんまスルーしないでほしい。あなた、アタシが言ってること、よくわからんけどもういいって、そのまんまにするでしょ?それはハラ立つの」


 なんとも大胆な物言いだ。不遜で、難解だ。しかも怒っているらしい。さらにあの頭に血が集まるような感覚が強くなる。腹の温度も上がるようだ。考えがまとまらないうちに、私は話し出していた。


「そうだな、問題が山積していて後回しにしていたことは確かだ。何故なら、あなたの話は難解なのだ。脈絡はないし、意図が読めない。理解の及ばない単語も平気で多用する。例えば先ほどのスルーという言葉だな。

 確かにお互い分からないのは仕方ない。その分、説明は分かりやすくお願いする。そもそもの考え方が全く異なるあなたの言うことを、私が理解するには相当の時間が必要となる。この逼迫した状況の中、優先順位が下がるのは致し方ないところなのだ」


 私の言葉に令嬢が息を呑んだ。


「なにそれ、サイテー!アンタ、サイテーだ!違う世界から拉致しといて、わたしたち違うんだから、互いによく分からんのも仕方ない、そのせいで嫌な思いしてもガマンしろって言ってるんだよ!最悪なこと言ってる自覚ある?!」


「聖女様」

「聖女殿」


 令嬢を遮って、私は話し出した。


「自覚とやらがあるかと聞かれれば、無い。最悪とは何故か、腹が立つとはどう言う感覚なのか、私には分からない。

 今の私にできることは、あなたが快適に過ごせるよう環境を整えることぐらいだ。他人を理解するのは私には困難なのだ。それを幼い頃から残念だと言われ続けたが、残念という気持ちもわからない。

 努力はこれからもできる限りすると約束するが、即座に変化は不可能だ。その上で私の言動が不快であれば、私は距離を取ろう」


 聖女は立ち上がると怒鳴った。


「その言い方もハラ立つのよ!なんかアタシが悪いみたいじゃない!迷惑をかけられてるのはこっちなのに!!」


 そのまま背を向けると出て行った。

 令嬢は困惑して私たちを見比べていたが、素早く礼をとると聖女の後を追った。私は引き留めなかった。何故だかずいぶんと疲労を感じた。体は疲れてはいないはずなのに。




次回

ありがとう、伺います

ありがとうございました!

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