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第三話 若返る訳じゃない

本日もどうぞよろしくお願いします。



「百日間だけ、こっちにいようと思ってる」


 十日が経つ頃、聖女が言い出した。


「猫のこともあるし、テレビもエアコンもつけっぱなしだし、向こうを離れた五分後くらいに戻りたいけど若返れるわけじゃないって言われてさ。五分しか経ってないのに身体は百日分老けてるってのもアレだけど、それ以上はちょっとなー。こっちに愛着わいても困るし……」

 

 相変わらず彼女の物言いは難解だ。しかし彼女は、こちらの理解は考慮の外だ。話の脈略も無く話題もあちこちに飛ぶ。全て理解しようとするとそれだけで大変な労力を割かねばならない。私は一旦、理解を中止した。


「ほとんど意味が分からなかったが、百日間は留まっていただけることは理解した。大変ありがたい申し出と感謝する。神殿は承知のことか?」

「感謝、ねぇ。全く伝わってこないな。いや、あの魔法使いのイケメンお兄さんには伝えたよ。今後のことをみんなで打ち合わせしたいって」


 お兄さん。魔術師長のことか。


「承知した。日程が決まり次第知らせよう。ところで、あなたが来た際に所持していた物についてだが」

「え?ああ。持ち物のことか。部屋で猫と遊んでて動画撮ってたから、スマホと、猫のおもちゃと、あと腕時計してたな。服と、ネックレスと、ピアスと。そんなもんじゃないかな?部屋にあるよ」


 意味がほとんどわからない。が、傍に置いて話を進める。


「使い方を紹介してほしい」

「充電とっくにないから、スマホはもう使えないよ」

「……分かる範囲で、是非。興味津々の者が大勢いるのだ」


 その筆頭は魔術師長だ。


「言葉が通じない人もいるんじゃない?」


 そうだった。


「ある程度わかる者達に絞る。必要なら私が通訳を務めよう。その点は心配せずに是非お願いしたい」


 聖女はいいよ、と軽く答え、肩をすくめた。


「手に持ってた物とか、ポケットに入れてた物は一緒に来ちゃったんだねえ。どうせなら近くにあったカバンが欲しかったよ、あん中なら色々あったのに。どういう仕組みか、理解不能だよ」


 それは、召喚術だからだ。だが説明を諦め、そうか、とだけ答えると、彼女は私をじっと見つめ、ため息をついて首を横に振った。どういう意味の仕草だろうか。全く意味不明だ。彼女を理解するのには高い壁があると魔術師長は言っていたが、壁じゃない、山だ。登山だ。


 とりあえず、所持品の説明をしてくれることだけは理解できた。前途多難だ。







「言葉がわかりにくかったら、説明するので、質問してね。

 これはスマホって物で、大人は大抵、一人一台ずつ持ってるよ。遠くの人と話したり、色々な情報を教えてくれる、とっても便利で、無いと困る物なの。でも、電気っていう、動力源っていうか、エネルギーがないと動かなくて、今、これは全部使い切っちゃったので動かして見せてあげられないんだ」


 結局言葉の壁は高く、聖女の説明を聞くことになったのは私と婚約者殿と魔術師長の三人だけだった。魔術師長は大変熱心で、書取り用紙まで持参で参加していた。婚約者殿も目を輝かせて前のめりだ。

 説明のやり取りが続く。だがやはり理解は捗々しくなかった。


 事態が予想だにしない方向へ動いたのは、その次のことだ。


「とりあえず次に、これは腕時計って言って、時刻を知るためのもので、こっちではあんまり今何時かって重要じゃないみたいだから必要ないかもしれないけど、でも、これ機械式って言って、ゼンマイっていう仕掛けで動くから、それは役に立つかも。

 あ、これも、猫のおもちゃなんだけど、ゼンマイ仕掛けで、こっちの方が作りが単純だからわかりやすいかも……、って、どうしたの?」


 彼女が服に付いた収納から取り出した物に、二人は息を飲み体をこわばらせた。おもちゃとやらが、忌むべき『アレ』に似ているためだ。聖女は驚いた様子でこちらを見回している。魔術師長は眉を寄せ、婚約者の令嬢は顔を青くしているが気丈に表情は保っていた。


「……あのね、それは何?」


 魔術師長が声をかけた。


「家でペットの猫が追いかけて遊ぶためのおもちゃだよ。どうしたの?何かあるの?」

「実はね。それ、僕たちが恐れているあるモノによく似ているんだ。見ただけで気絶する人がいるくらい、忌み嫌われているんだよ」

「そうなの!?ごめんなさい。すぐ片付けるね……。怖がらせるつもりはなかったんだ」


 聖女が玩具を隠すと、婚約者殿は息を深くついた。わずかだが震えている。アレは不幸や厄災を運ぶと信じられている生物で、悪魔とか厄災とかアレ、ソレなどど呼ばれている。他の令嬢ならこんな間近で見せられたら卒倒ものだ。彼女の努力と忍耐を思った。


「いや、謝らないで。持ち物を見せてもらいたがったのは、こっちなんだし。でも、あんまり人に見せない方がいいかな。僕はその仕掛けっていうものが知りたいけどね。

 日を改めて改めて仕掛けを教えてもらいたいんだけど、それでよろしいですか、殿下」


 私に向き直って言う魔術師長に、少し考えたが頷いて見せた。妥当な線だろう。

 聖女は令嬢にしきりに謝っていた。令嬢は顔色は悪かったが微笑んでみせていた。



次回

アンタ、サイテーだ



ありがとうございました!

また明日!

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