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第十一話 そんなことをするのは一人しかいない

こんばんは!今週もどうぞよろしくお願いします。



 聖女の持ち物のひとつに腕時計という物がある。時を知るためという不思議なカラクリは、動かすとわずかながら魔素を集める働きがあることが判明した。確かにこれも「異物」だ。そして動作していることで、魔素を集める働きが生まれるらしい。

 小さなリューズというネジの部分を回すと動き出す。なにやら往復運動するものが中にあり、眺めていて飽きない。なんとかこの時計を譲ってもらえないか聖女に交渉した。かなり高価な品物らしく、なかなか承諾してもらえなかったが、最終的には笑顔で譲ってくれた。

 王城の一角に、王家の限られた者しか入ることができない部屋があるが、ここに祭壇を作り時計を置いた。

 一日に一度、ネジを巻くという作業をして、ゆっくりと集まる魔素を感じながら時計を眺めるというのが私の日課となった。





 城内の様子がおかしい。何やら大声や足音が聞こえる。


「なんだ?」


 居合わせた婚約者殿と顔を見合わせていると、ノックの音もそこそこに侍従が飛び込んできた。


「殿下!聖女様が、何者かに連れ去られたようです!」

「なんだと!」


 そんなことをするのは、一人しかいない。




 聖女の足取りは、図書室の奥でふっつりと消えている。彼女の持ち物が床に散乱していた。城内から聖女を連れ去るとは大胆な。

 第二妃も、やはり何処にもいない。かの人の侍女を捕えさせるよう手配した。


「兄上!」


 弟が私の執務室へ飛び込んできた。派遣先から文字通り飛んで来たのだろう。旅装のままだ。私は彼が口を開く前に言い出した。


「第二妃だろう。必ず聖女といるはずだ。彼女が危ない」

「なんで……」

「それは後で締め上げてやる。今は聖女の居場所だ。特定出来るか」


 彼は顎を引くと身を翻した。彼に任せておけば、場所の特定は難しくないだろう。だが、どうやって聖女を取り戻すか。


 私は陛下と会って対応について半ば強引に承認を頂いた。陛下はこれまで、第二妃の行動を片目を瞑って見ておられた。自分の第二妃の扱い方について、陛下は多少なりとも後ろめたく思われていたのだろう。最初からその約束だったとはいえ、正妃がいない王が男児を産んだ妃をいつまでも第二妃に留めているのだから。だが事ここに至り、そうも言っていられない。

 第二妃の離宮、別荘、実家など行きそうな場所は全て次々と押さえ中を捜索させ、見張らせる。道路を遮断し、道ゆく乗車は全て中を改めさせる。宿という宿を改めさせる。そして大々的に第二妃による聖女の拉致を喧伝した。


 これで、いかに第二妃とはいえ、聖女を害したりはできないだろう。聖女が自然の摂理に反して命を落とせば、異物のゆがみが不自然に消失し、それは全国民に伝わる。この国でどれほど聖女が慕われているか、聖女に危害を加えたりすればどうなるか、わからないわけではあるまい。

 だが聖女に命の危険は及ばなくとも、何をしでかすかは分からない。早急に救出しなければならなかった。


 やがて二人の居場所が割れた。包囲させて突入の準備に当たらせていると、魔術師長が部屋に飛び込んできた。


「兄上、僕に行かせて」 

「いや、いくらお前でも危険だ」

「僕は行くよ。僕のせいだとわかってる。ここで彼女に何かあれば僕は自分を一生許せない」


 私はため息をついた。


「分かった、行け。だが気をつけろ、お前の母親は優れた魔術師だ」

「知ってる」


 外套を翻して走り去る彼の背中を見ながら、こいつなら大丈夫だろうと確信していた。ただ、やりすぎるなよ、と強く祈った。それがあいつのためだ。




次回 犯人は私だそうだ


ありがとうございました。

あと少しです。どうぞお付き合い下さい。

それでは、また明日!

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