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第十話 どういうことだ!

こんばんは、物語もだいぶ終盤へと入ってきました。あと少しお付き合い頂けると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!



「一緒に帰る!?どう言う事だ!」


 婚約者殿と共に現れた聖女は思い詰めた顔をしていた。私が大声を出したせいか、体をびくりと震わせた。


「すまない、大声を出して。驚いてしまった。説明してもらえるか?」


「そんなことダメだって言ったの。でもやり遂げてみせるって言ってて……。できるかどうかもわからないし、危ない真似をしてほしくないの。だから、あの人を止めてほしくて……」


 そう言って泣き出した聖女を宥めながら、令嬢は話し出した。


「歴代聖女様の手記の中に、可愛がっていたペットを連れ帰られた方がおられましたの。それで、魔術師長様は自分も行けるのではと送還現象の研究を始めたそうで……」

「何を馬鹿な事を。そんな事ができるはずもない。そもそもできたとしても、そんなことは絶対に許可しない。あいつはここに必要なんだ」

「聖女様もご承知ですので、一緒にいたいというご自分のお気持ちを抑え込んででも、こうしてご相談にみえているのですよ。無謀に思うのはわたくしも同じです」


 私は椅子にどさりと腰を下ろした。立ち上がっていたことすら気付いていなかった。


「そんな……、ことを。無茶苦茶だ」


「ごめん、なさい、アタシ……、恋愛なんかしてる場合じゃないとか、非日常の吊り橋効果だとか、ダメだと思ってるから気になっちゃうんだとか、自分を騙そうとしたけど、このまま、あの人の好意にも気がつかないフリして帰ろうとしたけど、あの人、アタシに、プ、プロポーズして……。もう自分にもあの人にも嘘つけなくて、アタシも告白しちゃったんだけど、でも!プロポーズは断った。帰らないといけないって。ごめんなさいって。そしたら、あの人が、アタシと一緒に帰るって!そんなのムリなのに……。ごめんなさい……」


 私は頭を抱えた。


「事情は分かった。だが酷なようだが、あなたにはここに残るか、一人で帰るかのどちらかしかない。勝手に召喚した挙句のひどい言い草だと承知している。だが、あいつを、私の弟を、連れていかないでくれ」

「分かってる。分かってる。だから、アタシも止めるけど、二人からも止めてほしいんだ。どうか、お願いします」


 聖女が涙を流しながら頭を下げた。令嬢まで泣いている。


「魔術師長様の性格からして、怒鳴りつけたり押さえ込んだりしようとすれば逆効果でしょう。まずは真摯に話し合うことをお薦めしますわ」


 私は頷き、聖女を振り返った。


「聖女殿。酷と分かっているがお願いする。こちらに残る事を考えてみてはもらえないだろうか。弟が馬鹿なことを言い出したのも、あなたといたいからだ。私もなんとかあいつを説得してみるが、選択肢として残しておいてほしい。悩ませることになるが、伏してお願いしたい。すまない」


 聖女が顔を歪ませた。唇を噛んで下を向いたまま黙っている。


「あなたには辛いことばかりになってしまった。こんなことになるとは……」

「違うよ、辛いことばかりじゃないよ。誰かを好きになるのって、かなり、相当、イイもんだよ。アタシ、楽しかったよ」

「そういう、ものだろうか……」


 今はとてもそうとは思えない。無謀の原動力となる愚かなこととしか思えなかった。

  聖女がしゃくりあげながらも懸命に笑顔になろうとしている。「ああ、かわいそうに」と思った自分を押し殺した。






 私は早速、まずは弟をあちこちへと派遣して各地方の魔素不足の解消に忙殺させた。また後進の育成と称して年若い見習いたちの指導にもあたらせた。これには少なくとも数年はかかるだろう。

 聖女にも教師をつけ、希望していた歴史を学ばせた。また魔素の蓄積と新しい道具の開発に尽力させた。二人が顔を合わせることができないほど忙しくしていれば、おかしな計画を進めることもできないだろう。そうしているうちに、聖女は帰還する。もちろん、一人でだ。


「ムダに有能なんだから……」


 聖女は苦笑いしていた。


 弟は何か言いたげな様子をしていたが、私はあえて触れなかった。聖女がいる間にできる限り魔素を蓄積し分配しなければならないからという私の主張はもっともなのだから、彼も口をつぐんで従っているのだろう。

 私としては、二人でこちらに残ると言う可能性もまだあきらめたわけではなかった。彼らの「準備」とやらが間に合わず、百日を越しても聖女がこちらで暮らす。少しでも長くこちらに。そんな望みをひそかに持っていた。


 百日目が近付いていた。



次回

そんなことをするのは一人しかいない

ありがとうございました。また来週!

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