新聞配達のアルバイト
「終わった」
夏。もうすぐ日が昇ろうとしている頃、やっとアルバイトの新聞配達が終わった。
朝だというのに暑い。
日中の大学がきつくなるな、と思いながらも自転車を事務所に走らせた。
このアルバイトを始めてまだ新人。
つい最近先輩から独り立ちして一人で各家を周っているが、時間はギリギリ。
遅れなかっただけマシだな、と思いつつも自転車を漕ぐスピードを速めた。
事務所まであと少し。
朝帰りの会社員が前を横切りる。俺は赤信号で自転車を止めた。
遅れたら怒鳴られるんだよな、とげんなりしつつも青に変わるのを待つ。
社長はこういうのに煩いんだ。
もし他の社員に見つかってチクられると遅れるよりも怒られる。
現に、ちょっと前怒られている先輩を見たし。
ここは我慢どころ、と思いつつも信号が変わったのを感じた。
「? 」
ペダルに足をかけようとするとそれに気が付く。
いつの間にか籠にかけてあるシートがはがれている。
ペダルから足を降ろし、「だるいな」と思いながらも、シートを戻す。
その時、まだ一つ新聞が残っていることに気が付いた。
「げっ! マジか! 」
驚くも、もう遅い。引き返すにも間に合わない。
けど俺は全部回ったはずだ。チェックシートを見て確かめる。やっぱり全部回っている。
どういうことだ? と思っていると「ピコン」と信号が変わる音が聞こえた。
「仕方ない。社長に謝って一緒に行ってもらうか」
重たい気分のまま、俺は事務所に帰った。
★
事務所に帰ると予想通りこっぴどく怒られた。
これ以上怒らせることのは、と思いつつもすぐに余った新聞の事を社長に伝える。
すると社長は瞳を大きく開いて声のトーンを落とした。
息を大きく吐き落ち着いた声で放った言葉は意外だった。
「……そうか。お前も助けられたんだな」
聞くと、前社長の時代にアルバイトの人が信号無視で死亡事故があったらしい。
新聞も残り一つという所での事故だったため、その時からこの事務所では特に信号無視や交通違反をきつく取り締まっているとの事。
彼か彼女かわからないが、その人は配達員が信号待ちの時、事故を起こしそうな人の籠に新聞を入れて同じ人を出さないように注意喚起しているらしい。
「そんな律義なことが……」
「それで何度も助かった人がいるからな」
当時社員だった社長もその人に助けられたことがあるらしい。
なるほどと思いつつ、「次からは気を付けるように」と言われて俺は学校へ向かった。
★
大学の帰り、事故をした。
運ばれていく中聞こえたのはけたたましい笑い声だった。
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