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青の女王  作者: 月影
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女王4

 女王は、立ち上がりアレスの前で両手を広げ、静かに口にする。


「あなたも、私のせいで苦しめられてきたんですよね? 私など想像もできない辛い思いを、これまでにたくさんしてきたのでしょう。本当に、申し訳ありません。いくら謝罪しても、取返しはきっとつかない」

 そうですよね? 確認するように、青い瞳を揺らして、確認してくる。それをアレスはただ、どう受け止めればいいのか迷いながらただそれを見返していた。

 そんなアレスの目の奥から、アレスの記憶を見透かすように双眸を歪めていく。

 

「私の身勝手な発言で、亡くなっていった人たちもたくさんいたでしょう。このまま私がこの世界に存在すれば、本当に戦争が起きてし、もっと犠牲者が増えていく。悲しみは今以上に、膨れ上がる。更なる不幸を生まないために、私は消えるべきなんです」

 その目は相変わらず強く、もうあの気弱な涙消えて、瞳は青く乾ききっていた。

 ただ、最初に殴られた時できたもなのか、頬が赤く痛々しいほど腫れている。そんなこと、意に返さず堂々と命を差し出してくる。

 アレスは、思う。

 この日を何度夢見てきたことか。これほどの好機をどれほど。この日のために、生きてきたといっても過言ではない。父と母の無念を晴らすために。

 それなのに、どうして躊躇する必要がある。この期に及んで、どうして。

 ポケットの中のナイフを握り握りしめる手が、頭にくるほど汗ばんでいた。

 この迷いを握りつぶすように、外に出ている左手の拳を握りアレスは問う。

 

「あなたにそこまでの覚悟があるのならば、今こそさっきの男の思惑通りに動かず、反旗を翻そうとは考えなかったのですか」

「私は、ミリオンの前では抗うことができないのです」

 自分を責め立てるような憤りで強く噛んだ女王の唇に血が滲んでいた。

「どういう意味ですか?」

「演説の時、必ずつける赤いイヤリングは、ご存じでしょう? あれは、ミリオンによる呪いの魔法が込められているのです。あのイヤリング私の視界に入った瞬間、私の中で流れる魔力の血と呼応して、魔法が発動する。そして、私の体はその時点で、自分自身では制御できなくなる。意識はそのままなのに、勝手に言葉を紡がれて身体が動いていく。どんなに抗おうとしても、術を破ることができない。だから、お願い! 私を殺して!」

 鋭く言い放つ女王の声が、アレスは暗殺者としての顔に引き戻す。


 ならば、もうこれ以上質問を続ける意味も、生かす意味もない。この迷いも、すべてこの手の中のナイフに込めればいい。

 この存在を消すことを心待ちにしていたのは、俺だけじゃない。レジスタンスの仲間たちだって、同じだ。死んでいった人々も。目の前の女王を恨み、死んでいった。その感覚だけに集中しろ。

 アレスは、ふっと息を吐いてポケットの中のナイフを引き抜く。

 女王の青い瞳も、受け入れるように瞼の奥へと消えていく。

 その瞬間、アレスは女王が手を広げ続けている体の中心へ、ナイフを突き出した。


 

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