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青の女王  作者: 月影


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動乱12

 サラは、レインへと送り込む魔法は止めることなく、視線だけ迫りくる振り上げられた刃へ向けた。

 それをぼんやりと見つめる。

 このまま命を捨てて、楽になってしまいたい。そんな欲求に落ちてしまいそうになる。

 この世をされば、亡き父と母の元へいける。もうこれ以上、私は生きることに苦しまなくて済む。民へ災いをもたらすことも、憎まれることもなくなる。

 

『サラが本当にこの国の未来を。今生きている人々の心の平穏を願っているのならば、死んで楽になる道ではなく、生きてすべてを受け入れ、苦しむ道を突き進め』

 刃の切先が鋭く光った。

 行くべき道を示してくれたアレスの強い眼差しが蘇った。

 私がここで死んでしまったら、アレスがくれた道も突き進めなくなる。

 私は約束した。不幸の連鎖をとめ誰も血を逃すことのない、平和な未来を作り上げると。

 生きることを諦めることは許されない。苦しくとも、何が何でも生きなければならない。

 ここで、絶対に死ねない。

 強くそう思った時、火傷しそうなほどの熱が胸に集中した。

 突如胸のペンダントが青い光を集め始め、青く鋭い閃光が放たれた。

 目を開けていられないほどの眩い光。

 ニックがその光を全身受けると、操り人形の糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。サラに向けられていた剣が唐突に床に落ちる。

 いったい何が起きたのか。サラも、理解できなかった。

 ただ、手をかざしていた先にいたレインの体。なだらかに回復していたレインの傷が、一瞬で癒えていた。

 驚きをもって、それを見つめるサラ。一方、胸にあるペンダントの光は、止まない。

 まるで、サラのすべての力を引き出すかのように、更に強い光を放っている。

 サラの心臓の奥が熱くなる。全身から力が漲る感覚。まるで自分の体ではないかのような浮遊感。

 何もかも飲み込んでしまいそうな強い青い光が、サラを包み込んでいた。

 

――――――――――

 

 アイザックは、跡形もなく消えていた。

 まるで、この世に元々存在さえしていなかったかと思わせるほど、何も残っていない。

 周囲を見回す。広場もほとんど原型をとどめていたなかった。美しく舗装されていた石畳は、抉れて土がむき出しになっている。


 アレスは、足元を見る。自分とロジャーがいる場所だけ、元の形を残していた。

 それを呆然と見つめる。

 足も、指先も、肩も、心臓もすべてが冷え切っていた。全部の感覚も消えている。頭の中まで。

 

「愚かな、犬死にだ」

 嘲笑い、吐き捨てる声が、頭の中心に貫通する。

 途端、全身焼けこげるような赤黒い炎がアレスを食い尽くしていた。

 怒りさえも、消えていく。ロジャーの横にいたはずのアレスが突如消えた。


 ロジャーがその姿を目線で探している最中、アレスの剣はミリオンの腕を掠めていた。

 ミリオンから、更なる笑みが零れる。

「ほう。これはいい」

 アレスの剣先は、ミリオンの心臓へ吸い込まれるように放たれた。あと一歩のところで、ミリオンの剣で弾れる。

 ミリオンから余裕が消え、赤みかかった瞳がアレスを見据えていた。

 ミリオンの口の端は、再び歪に上がっていく。

 アレスは、はじかれた剣の方向をその顔へ修正し突き出すが、ミリオンは素早く横へ避けた。が、アレスは、剣の外れた軌道を利用して、真下へ振り下ろした。ミリオンの右肩に命中し、ざっくりと抉れる手ごたえがあった。

 ミリオンの怯んだ呻き声が聞こえた。

 

 隙だらけになったミリオンに最後の一撃を加えようと、アレスは両足に力を籠め重心を低くする。

 地面についた切っ先を上げ、素早く突き出そうと握った柄に力を込めた。

 刹那。

 ミリオンの血で濡れた右手が、アレスの左胸に当たっていた。

 一瞬、刺されたと思ったが、痛みはない。ミリオンの右手には何も握られていない。素手だ。

 意味不明の動作。所詮最後の悪あがきだ。

 アレスは構わず、まっすぐミリオンを仕留めようとしたとき。

 唐突に、左胸が疼いた。途端、そこから力が奪われていくように、剣を持っていた手から力が抜け、震えだす。

 突如訪れた異変。歯を食いしばり、何とか力を取り戻そうとするが、適わない。

 体もどんどん硬直していく。アレスは、原因の先へ視線だけ移動させた。

 左胸のポケット。中に入っているのは、ナリーからもらったハンカチだけだ。それが、ミリオンのかざされた右手と呼応するように、赤い光を放っている。

 何が起きているのか疑問に思ったとき、視界の端で、青い光が見えてハッとする。

 放たれているのは、レインの家。煙突を通って一直線に伸びる青い光が、空を突き抜けている。

 あの光は、サラだ。

 

 そう認識したと同時に、アレスの意識は赤い光にのまれ沈んでいた。

 

 

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