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青の女王  作者: 月影


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動乱10

 大きな身体なのに、素早い。

 アズリアルは、アレス目掛けて一気に突っ込んできた。

 ロジャーを横へ突き出して、アレスは空高く舞い上がる。アズリアルは、地面を蹴って大砲のように飛び上がって、あっという間にアレスに追いついて鎌を振り下ろしていた。

 速い。短く息を吐いて、体を仰け反らせぎりぎりで躱す。髪が空中に舞う。

 次の動作に入るスピードも、一般兵とは比べ物にならなかった。すぐに刃が迫っていた。アレスは背負っていた剣を引き抜いて、鎌を正面から受け止めて凌ぐが、アズリアルのパワー押されてで地面へ弾き飛ばされていた。

 地面を見据えてぎりぎりで受け身をとり、何とか体へのダメージは最小限に留める。地面から顔を上げた視界に入ってきたのは、兵士の切っ先が、ロジャーをどんどん追い詰めている場面だった。

「ロジャー!」

 叫びそちらへ走り込もうとしたが、空から落ちてきたアズリアルに遮られる。完全に意識がロジャーに行ってしまっていたせいで、アズリアルの攻撃も避けきれなかった。

 ズバッと左腕に鋭い痛みが走る。

「よそ見をするな。お前の相手は俺だ」

 舌打ちして、何とか頭を働かせる。

 この状況を打破するためには、どうしたらいい? 瞬時に思考を高速回転させる。アズリアルは、また鎌を振りかぶっていた。振りかぶったアズリアルの一瞬の隙。身体を低くして、瞬時に腹部へと入り込む。

「何!?」

 アズリアルの驚きの声と共に、アレスは剣を振り切った。が、屈強な筋肉のせいで、刃がまともに入らない。少し傷がついた程度で、すぐに弾かれてしまう。

 スピードを上げて威力を高めなければ、この分厚い皮膚を割くことは無理だ。頭上からはアズリアルの鋭い瞳がアレスを捉えている。

 鎌を持っていない方の手が、アレスに迫る。ちっと舌打ちして、そこから逃れようとした。だが、すでに遅い。

 右足が、拘束されていた。しまった。そう思った時には、逆さづりに持ち上げられる。

「大したことなかったな」

 粘っこい唾を垂らしながら、ニヤリと口角を上げる。掴まれた右足を空高く持ち上げられる。地面に思い切り身体を叩きつけようと、振りかぶった。体が引き上げられ、アズリアルの目線と自分の目線が合う。目の前に勝利を確信した笑顔があった。

 

 それこそ、最大の隙だ。

 

 アレスは、手にしていた剣をアズリアルの両目に向かって、引き切った。

「うぉぉー!」

 地面の底からあふれてくるような激しい断末魔。拘束されていた右足が自由を得る。顔を抑えているアズリアルは、隙だらけだった。そのまま一気に片をつけようと動こうとしたところで、「くそ!」と、悲鳴が上がっていた。その方向を見やる。

 ロジャーが、血だらけになっている。

 ロジャーの方向へ飛ぼうとしたが、どこからか矢が射られてきて、阻まれる。矢が飛んできた方向を睨み付ける。

 民家の屋根から、宮殿の後方支援部隊が届いているようだった。遠い距離。掃討する時間はない。そのままロジャーのところに飛び込んだとしても、こちらもただでは済まない。

 だが。それでも。

 アレスは、ただロジャーだけを見据えて、地面を蹴った。

 屋根の上の兵士たちが、狙いを定めていることだろうということは、気配でわかる。すぐにでも、矢は飛んでくるはずだ。

 しかし、予想と反して矢が飛んでくることはなかった。

 ロジャーを取り囲んでいる兵士に突っ込む。円を描くように身体を回転させて、一気に兵をなぎ倒す。

 劣勢だった風向きが一気に変わり、兵士たちは、アレスの存在に、慄き立ち竦んでいた。

 アレスは、ロジャーを抱える。ふと屋根を見やると、アイザックが暴れまわっているのが見えた。

 ふと胸に熱いものが込み上げるが、今はそんな場合ではない。退却に道筋をつける。兵士は、アレスに対して恐れをなしているが、決死の覚悟で襲い掛かろうとしていた。アレスも身構える。その時。

 

「やめろ! 無駄死にする必要はない!」

 

 その声で、兵士たちの動きがぴたりと止まる。叫んだ兵士は、アレスが屋根上で潜んでいた時、投げ飛ばした男だった。

 足を引き摺りながら兵士たちを諫めていた。

「逃げれば、罵られるかもしれない。罰も受けるだろう。だが、生きてさえいれば、きっと希望はある」

 男がアレスを一直線に見返している。

「この国の未来を変えることも、できるだろう」

 力強くも切ない響きが、兵士たちの気持ちを揺らがせていた。

 未来。この国は、一体どこへ向かっているのか。戦いたくなんかない。死にたくない。ただ平和さえあれば、それでいいはずだ。それなのに、自分たちは何をしているのだろう。誰かを守るために、戦っている。それは、誰に対して守っているのか。わからない。

 前を向いていた兵士たちが、やるせないとばかりに視線を下げていた。

「そうだ。この国の未来を変えるのは、自分自身だ」

 アレスが、低い声で言い放つ。兵士たちが夢から覚めたように目を見開き、顔を上げた。その瞬間だった。 

 白い閃光が、目の前を切り裂いき、粉々にしていた。


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