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青の女王  作者: 月影


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動乱9

 ナリーと共に、二階の部屋で息を潜めながら、聞き耳を立てる。

 詳細を聞くことはできなかったが「ニック」という名前だけが聞き取れる。それにいち早くナリーが反応し、小声でサラへ説明を加えていた。

「ニックはレインおばさんの息子で、きっと帰ってきたんだよ」

 ナリーは声を弾ませていたが、サラの胸には不安しかなかった。

 ニックはレインの息子。それは間違いないのだろうが、何年も行方不明だった息子が、このタイミングで突然帰ってくるなんて、意図的すぎる。ならば、いくらレインが母親であろうが関係ない。レインが危ない。

 脳内で激しい警告音が鳴った時、その通りだといわんばかりの、ニックの叫び声が家中を貫いた。


「女王! 出てこい! 今すぐ、お前の魔法で助けなければ、この女は死ぬだけだぞ!」

 迷うという選択肢さえもなかった。サラは階段を駆け下りる。目の前の状況に愕然としながらレインを見る。

 床に倒れているレインは、微動だにしない。背筋に、冷たい汗が走っていく。

 サラは、そのまま駆け寄ろうと踏み出そうとしたところに、阻止するようにニックが仁王立ちし、阻んでいた。手にしているナイフは、血に飢えているかのように濡れている。

 怒りが、サラの全身を駆け巡った。ニックの漆黒の瞳を睨み付けながら理解する。

 こいつは幼少期宮殿に連れてこられ、洗脳教育をされている。宮殿は秘密裏に、孤児や親と一緒にいない子供を見つけては、拉致してきて選別していた。使えると判断されたものは、そのまま宮殿内に囲い込み、教育を施される。それが、いったいどのような教育なのか、サラのところまで詳細な情報は入ってこなかったが、特徴だけは知っている。

 抑揚のない話し方。薄い感情。部屋の明かりを受けても反射することなく光を吸い込んでしまいそう漆黒の瞳。精神的に幼稚な言い回しだ。すべてが一致していた。抜け出せないほど深く浸ってしまった者は、感情に訴えても、何も響かない。殺すという欲求だけを残された残された廃人だ。


「やっと出てきたか。まったく、最初から出てきてくれていれば、こんなことになってなかったんだよ」

 その言葉にはっとする。

 自分をおびき出すためだけに、実の母親へこんな仕打ちをしたことに愕然とする。怒りが体内でうねるように疼いた。

「そこをどいて! 今すぐ、助けさせて!」

「こいつが死のうが、僕にとっては、どうだっていいことだよ。そんなことより、宮殿に戻ってよ。これ以上、抵抗されると苛々して、女王まで殺しちゃいそうだよ」

 その欲求を何とか抑えようとした唇を噛みながら、サラに近づき、その腕を掴もうとする。

 サラは、意識が薄れ始めているレインを見やる。魔法で傷を塞ぐことはできても、血が足りなければ、心臓は耐え切れず止まってしまう。そうなってしまえば、もう助けることはできない。

 一刻を争う状況だ。こんなやつに、時間をかけている暇はない。

 

 サラは、身構え、魔法を発動させために神経研ぎ澄ませる。

 攻撃魔法。幼少期試したことはあったが、一度たりとも、成功したことはなかったし、成功させようとも思わなかった。

 父からも、誰かを傷つける魔法はお前にとって必要のない力だと、言われていて、頭の片隅にも構成しようとは思ったことはない。

 だが、今は。

 誰かを守るために、必要な力だ。サラは、全神経を集中させていく。すると、サラの意思に呼応するように、首にかけられたペンダントが熱を帯びるを感じた。その瞬間、手のひらの中央に赤い光と熱が集中していた。

 できる。確信を得て、両手をニックへ向けようとした。

 そのとき、後から降りてきたナリーが、サラの横を駆け抜けた。頭の中で描いていた緻密な構成が霧散する。頭の中の構成を瞬時に切り替える。

 

「ふざけるなぁー!」

 真っ赤な顔をして叫んだナリーが、ニックへと突進していく。

「ガキは嫌いだ」

 ニックは血で汚れている短剣を床に落とした。倒れているレインの方へと転がっていく短剣の金属音をなぞる様に、腰にあった大剣を引き抜きいて、不敵に笑っていた。構わずナリーは叫びながら、突き進んでいく。


 ニックの剣は、迷いなくナリーの頭上目掛けて、寸分の狂いもなく、振り下ろされた。サラは、咄嗟に手を伸ばす。

 狙いを定めた切っ先はカキンと硬い音を鳴らして、弾かれていた。ナリーの全身が淡い光に覆われていた。

 ナリーが作ってくれたわずかな時間。無駄にしないために、サラはレインの元へと走った。

 

 ニックは、自分の欲望が満たされることのない硬い感触に、全身の血が煮えたぎらせる。

 キッと殺意を余すことなく鋭利な視線の先は、サラだけに向けられる。

 一方のサラはレインの方へ、跪いて、手を翳し、青く淡い光を放ち始める。ニックの真っ黒な瞳は、その光を吸収し、更なる漆黒の炎が燃え上がる。

 光に守られているために、ちょこまかと短剣を振り回してくるナリーにの腹へ向かって、怒りのままに蹴りを入れた。ダメージは受けないが、蹴りの威力でナリーは階段の方まで吹き飛ばす。纏わりついていた邪魔者が消える。

 ニックの足先は、サラだけへ向けられる。

 

 サラは、一心にレインへ魔法をかけ始める。レインの呼吸はすでに浅く、心拍も弱い。

 傷が深く、生命を維持するために必要な血は、ぎりぎりの状態だ。一瞬たりとも、この手を止めるわけにはいかない。

 必要な時間は、数分。

 だが、そんな悠長に待ってくれるはずもないニックは、圧倒的な速さで、サラの真横へ。

 大剣は振り上げられ、サラへ向かって勢いよく振り下ろされた。

「お姉さん!」

 ナリーの悲鳴が木霊した。

  

 

 


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