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青の女王  作者: 月影
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動乱4

 不審に思われない程度の速度で、ナリーの足跡を追っていく。できることならば、広場にたどり着く前にナリーと接触したい。だが、そううまくは、物事運んではくれないのは世の常だ。

 結局、ナリーの姿を見つけることはできず、あと数メートルで執行場所である広場に辿り着いてしまう。道中ところどころ、宮殿兵がいたが、その比ではないくらいの数の兵士が広場にいることは間違いなかった。

 広場で行われる死刑執行される場所を守るように円形状に兵士たちが立ち並ぶ。彼らが立ち並んでいる内側は、ぽっかりと空いていて、無機質な広場の真ん中に、粗末な三段ほどある木製の階段が設置されているのが見えた。白色の石畳の広場に、異質すぎる不気味な処刑台。そのことに異を唱えず熱狂している人々の心理にも、恐怖を抱きながらも、それを無理矢理踏みつぶし、サラは背筋を伸ばして広場へと歩いて行った。

 こうして、公開処刑されるのはこれまでの歴史上なかったことだが、宮殿内ではひっそりと刑は執行されていることは、サラの耳に時折聞こえてきていた。死刑執行方法は、斬首刑。それが堂々と民衆の眼前で行われようとしている。


「早くやれー!」

「裏切者!」

「宮殿万歳!」


 兵士が怒号と、高揚でひしめき合う人々の間に割って入り、異分子が紛れていないかと目を光らせている。

 サラは、キャップを目深に被り直し、熱狂の渦に飲まれるように身をひそめ息を殺す。じっとりと、手に汗を握りながら、広場の中心へ注目している振りをするために、周りと同じような熱視線を前方の広場へと向ける。その視界の左上端に、一瞬だけチラリと揺れた屋根の奥。例え、他の人達の視界に入ったとしても、鳥のようにしか見えなかっただろう。だが、サラは直感する。アレスに間違いない。

 その直後だった。小さな身体が、視界の左下に入った。視線だけ動かして確認する。間違いなくナリーだった。

 よかった。無事だった。ほうっと胸を撫でおろし、足をそちらへ向けようとしたところに、兵士一名がサラの真横を通り過ぎる。目標物を見つけたように、真っすぐ向かっていく兵の先は、ナリー。

 

 サラは、咄嗟に動いてた。

 小走りに走って、兵士を追い抜く。その時、兵士の視線がこちらに向かってきた。それを払いのけながら、サラがナリーの前へ躍り出る。驚いたナリーの瞳が丸々と見開かれていた。サラがこの場に現れたこと以上に、髪が短くなったことの方の驚きの方が大きいようだ。目線が、ギザギザの毛先に奪われている。それを丸ごとサラが抱きしめて覆い、兵の視線から守るようにナリーをぎゅっと抱きしめた。


「ナリー、一人でどこかに行ってはいけません。心配したんですからね」

「……お姉さん」

 ナリーの呟きが、漏れる。本当は、自分が母親として名乗りたかったところだが、ナリーの呟きが兵士の耳に届いてしまったのだろう。サラの背中から野獣のようなバリバリとした声が、絡みついてきた。

 

「お前たち、孤児だな」

 兵士に背を向けていてもわかるほど、ガタガタのサラの毛先。ナリーの膝に穴が開いたズボン。そこから、判断したのだろう。断定したように言い切る。まずい。このままでは、連れていかれる可能性が高い。サラはゴクリと唾をのみ込みながら、咄嗟に答える。

「いえ、母も一緒です」

「どこだ」

 ドスっと、サラの心臓を貫かれたような太い声が突き刺さる。目が勝手に泳ぎ出し、顔が強張る。表情が隠せていることだけが幸いだが、これ以上の逃げ場はない。

「いないのならば、俺についてこい。でなければ、無理やりでも連行する」

 サラの息の根を止めるような強い口調。同時に、こちらへ更に、近づいてくる足音がする。じっとりと、背中に冷たい汗が滑り落ちる。

 どうしたらいい? アレスから託された短剣で応戦して、逃げ出す? いや、そんなことをしても、私では逃げ切れるはずがないし、私の正体も隠し切れなくなる。何の策も思いつかない自分自身が情けない。サラはナリーを更に固く抱きしめることしかできなかった。その時、サラの正面に、突然現れた。


「その子たちは、私の子供だよ。さっきこの人ごみのせいで、はぐれて、ずっと探してたんだ。忙しいときに申し訳ないね、手を煩わせて」

 よく通る声の持ち主の女性は、心から申し訳ないというように、兵士に向かって頭を下げていた。

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