表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の女王  作者: 月影


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/37

レジスタンス2


「アイザック、いい加減抑えろ」

 どこからともなく現れたファミルの嗄れた声にも、アイザックは噛みついていた。

「ファミルじいさんもアレス達の肩を持つのか!」

 吠え続けるアイザックをため息で受け流すと、不満を撒き散らしながら外へ出ていってしまう。一方のファミルは気を取り直し、サラへと向き直ると一転、懐かしむような笑みを浮かべていた。

「姫、お久しぶりです」

 たった一言放たれた瞬間、サラの瞳に分厚い水の幕が張られていく。耐えきれず、ポロリと落ちる流れに押し出されるようにファミルの元へ駆け寄っていた。アレスとナリーは、サラの行動に釘付けになる。ファミルの手を取り、骨で角ばった手の甲を擦るサラの瞳は、これまでの苦悩の色は消え、目を細めていた。


「ミュラー……無事でよかった」

「その名は、宮殿を出たと同時に捨てました。今は、ファミルと名乗っています」 

 アレスは、洞窟で聞いた名で呼ばれたファミルに愕然とする。

 まさか、ファミルがその人だとは微塵も思わず、驚愕していると、その場にいるメンバーも二人が旧知の仲だという事実に同じような反応をみせていた。ナリーもきょとんとした瞳を何度も瞬かせている。

「あの時は、助けていただきありがとうございました。私がこうしていられるのは、姫のお陰です。しかし、ずっと後悔しておりました。まだ幼かったあなたを一人、残してしまったことを」

「何を言っているのです。あなたのせいでは、ありません」

「ですが、あなたの心はもう飲み込まれ、元には戻らないと思い込み、信じきれず刺客を送ってしまった。恩を仇で返すような真似をして、大変申し訳無かった」

 項垂れるファミルに、サラは大きく首を振る。

 

「私はどうすることもできず、苦しい状態だった。自分で自分を終わりにすることもできず、ただいいなりになるしかできないもどかしさに、耐えきれなかった。苦しくて、目標もゴールも何も見えない暗闇の中、アレスが現れ光が見えた気がしました。そして、図らずもここへ導かれ、あなたにまた会うことがですから」

 そういうサラは昔を取り戻したように心から溢れたような笑顔をみせていた。

「ファミルが宮殿出身だとは思いもしなかった」

 アレスが呟きは、思いの外大きく響いたようで、ファミルが何度も小さく頷く。

 

「わしが宮殿に勤めていた頃さ。ジャンと出会ったのは」

「どうして、二人はレジスタンスをたちあげたのですか?」

 アレスの問いに、ファミルは永い年月の苦労を表すように白く濁り始めている視線を遠くへやって記憶を遡る。

「ジャンが宮殿を離れる時、王から頼まれたのだよ。宮殿を監視する組織を作ってくれと」

「わざわざ、反乱分子となる組織を王自らですか?」

「どこか、予感していたのだろう。このような事態になることを。目の前に強大な力を得るものがあれば、それを得たいと、手を伸ばそうとするものは必ず出てくるからな」

 それが、ミリオンだった。大きな溜め息をつく。

 

「あのイヤリングは、強い魔法の力を持って生まれた王家の血筋のものが暴走したときに抑えるための、いわば首輪のようなもの。

 サラのような弱い魔法の使い手にそれを使用すれば、自我を失う。それを知ったミリオンは金の腕輪で得た魔法でどうにかできないかと企んだ。そして、サラの失った意識を掴んで操る方法を編み出した。結果、生まれたのが赤の女王だ」

 サラがながい睫を伏せる。色濃く現れた影は、これまでのくらい記憶がそこにすべて凝縮されているかのような濃さだった。

「ファミル、あのイヤリングと金の腕輪。破壊することはできないのですか?」

 先の戦闘を思い返しながら問う。腕輪の魔法に対して、こちらの歩が悪すぎる。あの時、サラの助けがあって何とかなったが、自分だけでは手も足も出なかっただろう。

「宮殿の文献を読み漁ったことがある。これまでにも同じようなことを考えた先人がいたようだが、金の腕輪とイヤリングは、何をしても壊れなかった。だが、その二つを一つにするれば、双方とも力を失わせるのとができる」

「どういうことですか?」 

「静寂の宝玉というものがあれば、二つを一つにする力を持っていて、その三つが揃えられれば、すべて消え去るとあった」

「それは、昔きいたことがあります。二ヶ国間平和条約を結ぶに当たり、サルミア国に奉納されたと」

 サラが即答し、今にも出発しようとする勢いだが、ファミルは皺を一層濃くさせて、首を横へ振っていた。

 

「我が国がサルミア王国に対して不穏な動きがあることは、伝わっているはずだ。だとすれば、耳を傾けてくれるとは、思わん方がいいだろう。なにせ宝玉は、サルミア国にとって最後の砦だからな」

「どういう意味ですか?」

「昔、二ヶ国間平和条約を結ぶにあたり、三つの秘宝を互いに持ち合わせるという条件の元、合意に至った。我が国は、王族の魔法がある。暴走しないための手立てとして、イヤリングと金の腕輪をグラン王国に。一方のサルミア国は、宝玉を管理することになった。宝玉は、魔法を無効化する力と、破滅の力の両極端の力を併せ持っている。魔法という力のないサルミア国にとって、その宝玉が最大の防御壁であり、我が国への抑止力だ。それを、今のこのきな臭い状況でみすみす渡すと思うか? 無防備になるだけだ。せめて、こちらから腕輪とイヤリングを差し出さねば話にならん」

 結局、ミリオンから奪わない限りそれは叶わないということだ。そう付け足すと、ファミルは、全身で溜め息をつくと、自然と重苦しい空気が落ちてくる。

 それをかき乱すように、勢いよくドアが開け放たれていた。

「大変だ!」

「何事だ」

「宮殿広場で号外が出ました」

 肩で息をして真っ青な顔をしているメンバーが手にもったチラシをファミルへと差し出す。アレスとサラも、覗き込んだ。視界に飛び込んできた文字は、死の宣告。


『明日の正午。女王暗殺未遂の罪で、犯罪人ロジャーの死刑執行を宮殿広場にて執り行う』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ