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青の女王  作者: 月影


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素顔3

 アレスの優しさを振り払いたくて「こんな時に呑気に寝ていられない」と言い返したかったのに、サラの体は素直に悲鳴をあげていた。これまでの緊張という麻酔が解けたのか、急速に身体の節々が痛み始めて、じっとりと額に汗が浮かび始めていく。

 サラは魔法を発するに合わない身体だ。使いすぎれば、壊れる。いつか、父からそう言われたことを思い出す。

 魔法の反動。指先、足先、冷えて震える。こんな身体壊れたって、どうということはないと思う。むしろ、誰かのために使える命であったと喜びさえ覚える。

 だけど。サラの異変を感じ取ったのか、アレスの気遣われる視線を向けられた気配がした。これ以上アレスに迷惑をかけるわけにもいかない。体内に散らばっている熱を体の中心にかき集めようと膝をきつく抱えて、身体を丸める。

 「大丈夫か」と言われる前に、サラは顔を上げて薄く笑って口を動かした。


「久しぶりに、魔法を使ったせいです。気にしないでください」

 サラは、吐く息で痛みと冷えを和らがせる。更に気を紛らわせるために、その先を続けた。

「私がいた部屋は結界が張られていて、魔力の血は封じられ、数年ぶりだったので。そもそも私の魔法の力は、何かを破壊するとかそういった力はないので、そんなことをしても逃げられなかったのですが」

 サラが発した言葉の先から、先の戦闘に対する疑問が浮かんだらしいアレスは少し間を置いて口を開いた。

「魔法というものは、王族以外に使えるものなのか?」

 アレスの端正な顔の真ん中に、うっすらと溝が出来上がる。ミリオンのことを言っていることは、容易に想像がついた。


「ミリオンですね? あの人がしていた金色の腕輪。宮殿に代々伝わるもので、身に着ければ、魔力がない人間でも魔法が使えるのです。悪用されれば、危険なので、保管場所は、王家に代々引き継がれていました。私が十歳を超えれば、そうなる予定でしたが、その前に父、母は亡くなってしまいました」

「当時、大きくニュースになっていたな。平和条約を更に深め、恒久的な平和を維持するために互いの武器を捨てる条約を結ぼうと、相手国――サルミア王国へ向かっている最中の落石事故で亡くなった」

 偶然過ぎる事故。今思えば殺されたのだろうということは、サラ自身にも簡単に想像できた。

 平和を心から望んでいた父。恒久的平和条約を結ぶにあたり、王は演説を行い『すべての武器。力。すべてを捨てよ』と述べた。それに対する反発は、すさまじかった。後にサラが調べた資料には、そう書かれていた。

 

「当時、私も小さく両親が亡くなったことに対するショックの方が大きかったのですが、周囲はサルミア王国の暗殺集団が行ったと怒り、すぐにでも相手国へ攻め込もうと息巻いていました」

「その筆頭は、ミリオンか」

「はい。でも、当時の父の側近としていてくれたミュラーが尽力して、衝突は免れました。その頃のミリオンは、まだ腕輪も手に入れておらず、剣の腕もミュラーの方が上。何とか抑え込めていたのです。でも、ミリオンは血眼になって金の腕輪見つけてしまった」

「ミュラーは、殺されたか」

「私は、魔法で攻撃するような能力がない。でも、その分守る方は、長けている。小さいながらも何とか、ミリオンの魔法からミュラーを守り、宮殿から逃げられた……と思います。その頃の宮殿は、ミュラーを慕う者がほとんどを占めていたので、逃げる手助けをしたはずです。その後、どうなったか、知る術はありませんが」

 

 そこまで話したところで、サラが視線を落とす。

 その日を境に、かろうじて保たれていた人間として扱われていた環境ががらりと変わったのだ。ミリオンに盾をついた私は、当然人としての尊厳を与えられるはずもなかった。息さえしていればよく、死ぬことは許されない。あの部屋に閉じ込められ、出られるのは赤いイヤリングを渡された時だけ。その瞬間、自分が自分でなくなり、演説する自分。幼すぎる私は、その言葉の意味もまるで、わかっていなかった。ただ、早く終われと、思っていた。その後に、ほんの少しだけ与えられる演説を終えた後の自由の方が、よっぽど重要だった。その頃の私は、その時間が生きる意味になっていた。けれど、成長するにつれてその意味が分かった途端、絶望した。私は、なんと酷いことを言っているのだろうと。

 いつもあの部屋で感じていた、身を焦がすような自分自身への怒りが舞い戻ってくる。


 それを押し込めるようとしたら、洞窟の外から、カサカサと草をかき分ける足音が響いてきた。サラの意識もその音に引き上げられ顔を上げられる。気付けばアレスは入り口付近に立って、警戒態勢に入っていた。手にはナイフがある。動くなと、目で制される。

 サラは動かそうとしていた身体を止めて、息を潜めることに専念する。一直線に、足音が近づいてくるようだ。


 アレスは神経を研ぎ澄ませる。

 足音は、一直線にこちらへ向かってくるが、足取りはどこか覚束ない上に、大人のような重みがない。まさか。アレスは、ナイフを腰にしまい外へ飛び出した。

 アレスの視界の中心に、月明かりを背にした小さく黒い人影。その風下にいるアレスへ届いてきた匂いは、肉が焼けるような焦げ臭いと血の匂い。

「アレス……兄ちゃん」

 か細い声がアレスに届く前で、前のめりに崩れ落ちていく。アレスは、素早く受け止め叫んだ。

「ナリー!」



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