しりとりデスゲーム
「無理だ……、ダメよ、よくもこんなところに閉じ込めたわね!」
ネジが飛んだような高いキンキン声で、でぶっちょの女がそう叫んでいた。
高い声を聞いて、手近な距離にいた人々が嫌な顔をする。ルール無視で叫ぶ女に、睨みながら男が言った。
「大したことないじゃないか、過酷な地獄じゃあるまいし。死んだら終わり、理屈は簡単だろう?」
「うるさいうるさい! いっつもお前は格好つけて、てんで何も考えてない!」
イライラする女、中指で男を指す。
すぐに男が言い返す。
「すっからかんなお前に、煮付けを食わせてやったのを忘れたか?」
「かなり前のことでしょう! 海より遠い過去のこと!」
と言って、低年齢の子供を殴る女。
泣いた子供は女の仲間。まるで仲間意識はないけれど。
「どうなってるのー。呑気に言い合ってないで、出ようよ」
「酔ってるのか? 簡単に出られれば、馬鹿な言い合いなんてしないさ」
さっきの男が子供を静かにさせる。
ルールのわからぬ子供はおどおどしながら黙り込んだ。
「ダメね、寝ても覚めても牢の中。可能なら死にたいそんな気持ちよ」
「よく言うぜ。絶対に死にたくないくせに」
「人間みんなそうでしょう」
うるさい男と女の言い合い。
異国の民を見るような目で周囲がそれを見つめていた。集ろうとする者はない。
「生きてる意味があるのかねえ」
襟巻きを首に巻き付け、血色の悪い老婆が漏らす。
「すぐに死ぬからいいけどさ。去る。ルールのわからぬデスゲーム、無理ってもんさ馬鹿野郎」
「うじ虫みたいに臭いババア、諦めちゃダメよ。夜に助け舟が来るかも知れない」
幾人もの人間が死んだこの小さな牢獄。
苦しい地獄のようなデスゲーム、無理難題を突きつける。ルールは不明、意味不明。
「いらないよこんな命。散った方がマシ」
「静かにしてくれ。連絡してみるよ」
「余計に無意味。見たらわかるわ、わけもないこと。遠くへ電話は繋がらないの」
「ノコギリあったら死ねるのにね」
寝息のような静かな声。
襟巻きで死ねなかった老女が呻く。苦しげに立ち上がり、理解できない言葉を呟く。
「ククク、ククク」
苦しいことなどないんだろう。うるさい子供が笑ってる。
ルールのわからぬデスゲーム、無理難題を投げかける。
ルールがわからず死ぬ人々、時が経つうち自殺する者。
残り人数何人だ。大体十人くらいかな。
なかなか終わらないまま、待てども待てども続くのか。
悲しい涙声、延々と響く男と女の口論の声。
永遠に出られないのだろうか……。
完結はしない。
いつまでもいつまでも。
「もしも死んだら。楽だな、泣くのは。早く死にたい。いいな、なかなか」
かなり病んだ男、こう呟く。
臭い。異臭がする。
ルールわからないまま、また人死んだ。
だから残っているのは子供だけ。
蹴った。たくさん子供を蹴った。確か、かなり蹴ったと思う。
うるさいからな。なかなかしぶとかった女もいつの間にか死んでるし。
しかし変だ。「大好き」って言って死んだんだ。抱いていた男が愛を告げ、下品な笑みでそれに応える時だったし。
死んだ。ダメだった。確かに子供死んだ。
「だよな」
泣くことなく、苦しげに呻く男。
これから一人で自殺する。ルールのわからぬデスゲーム、無理矢理にでも終わらそう。
「うっ」
繋がれたロープに首をかけ、蹴る寸前に気づいたこと。
とんだ簡単なことだ。だからどうして気づかなかったのか、かなり不思議で。
でも、もはや意味なし。死んだのだから。楽々、苦しまずに、人間の男は死んだのだ。
誰もいなくなった……か。
〜完〜
今回はしりとりです。
わけのわからぬ牢獄に閉じ込められ、デスゲームを受けることになった人々。
とんだ無理ゲーで、ルールは何かわかりません。でも実はそのルールは『しりとり』。しりとりができなかった人間は死んでいくのでした。
もちろんこの小説自体、しりとりでできています。
セリフや地の文の切れ目だけではなく、句読点を挟むごとにしりとりを繰り返しています。
かなりこれはきつかった……。想像以上にきつかった……。
楽しんでいただければ幸いです。