テントの中で
辺りが真っ暗になって私とルーファとフィオの三人で焚き火を囲む……正確には私にくっついている状態だ。
今日の夕食は日持ちする干し肉と簡単に作れるスープのみだった。(スープはルーファとフィオが作ってくれた。私は役立たずでした。はい)
外なんだから当然と言えば当然なんだろうけど……あっちの世界で野宿なんてした事の無い私は、ワープの能力で夜になる度にあの街の宿に泊まれば良くない? という考えに私は至ってしまっていた。ただ、あの宿の人にお礼まで言って来たのにまた行くのはなんか気まずい。あああぁ、もっと早く思いついてれば快適で美味しいご飯も食べられたのに! 次の街に移動する時はそうしよ。そのためにはフィオに私のワープの力のことを言わなきゃならないわけだけど……ルーファがいてくれるし大丈夫。
「ユアさん、そろそろ寝ますか?」
「うん……見張りとかは」
「大丈夫です。私はエルフですからもし何かが近づいてきたらすぐに分かりますし、魔物避けの魔道具も買ってありますから」
「私もいる。耳いい」
魔道具……ロマンが詰まってそうな言葉が聞こえてきたけど眠い。私はルーファが立ててくれたテントに入り布団を被り眠ろうとするがルーファとフィオも私に抱きつく形で隣に横になっている。正直狭い。元々ルーファと二人の予定だったし仕方ないんだけど、さすがにフィオだけ仲間はずれは可哀想だし、それに夜になって寒いから暖かくてちょうどいい。狭いことぐらい我慢出来る。
というかルーファは魔道具だったりこのテントだったりどこに持ってたんだろう……んー、眠くて頭が回んない.....まぁいいや。
「ルーファ、おやすみ。フィオもおやすみ」
私はルーファの耳を触りながらそう言う。
「あっ、ユ、ユアさん。眠れなくなっちゃいますから……」
「ずるい」
何か聞こえた気がするが、私は人肌が心地よく、もう既に意識は夢の中だった。
私はテントの隙間から差し込む光により目を覚ます。
朝ということもあり寒いのだが左腕の方だけ妙に暖かかった。理由は簡単でフィオが私に抱きついているからだ。
右腕にルーファは居ないのかと残念に思う私だったが、外から音がするのでルーファが朝食の準備をしてくれてるんだと思う。一応マップで確認するがピンクの点だったので、ルーファで間違いない。私の恋人優しすぎない? 更に好きになっちゃうんだけど……それに比べて私ルーファに情けないとこしか見せてなくない? ……と、取り敢えずお金を返すところから始めないとね……うん。頑張ろ。
寒くて全然布団ちゃんから出られないでいるとふとフィオの狐耳が目に入った。
「……フィオ?」
私は小声でフィオが起きてないかを確かめる。特に反応がないので起きてないんだとおもう。
ちょっとだけ、ちょっとだけだから。そう思いながら私はフィオの耳にそっと手を伸ばし、もふもふのフィオの耳に触れた。
控えめに言ってすごい気持ちいい。ルーファの耳を触ってる時も気持ちいいんだけど、それとは違う気持ちよさだ。
気がつく頃には私は無意識の内にフィオの耳をもふもふしながらフィオを抱きしめていた。
そんなことをすればフィオも違和感で目を覚ましてしまうわけで……
「ん……おはよう」
「お、お、おはよう」
私は咄嗟に耳から手を離した。
「触っててもいい。気持ちよかった」
「い、いや、それは……わざとじゃないっていいますか……」
私は必死に誤魔化そうとするがそれは無駄に終わる。
「ユア私が起きてるか確かめてた。寝てると思ったからこっそり触ってた」
「えっ……お、起きてたの?」
「ユアの声で起きた。昨日言った。耳いい」
た、確かにそんなこと言ってた気がするけど! 昨日は眠くて頭が回ってなかったから……もっと頑張って聞いておけばよかった。
「フ、フィオ。ごめんなさい」
「責めてない。でも、謝りたいならもっと触る」
う、謝りたいし、仕方ない。うん。仕方ない。全くもって狐耳をもっともふもふしたいとかではない。
「んぅ」
フィオが気持ちよさそうに声を漏らす。さっきは寝たフリをするために我慢してたみたいだ。
「ユア、寒い?」
「え? うん。朝だしね」
「ん」
フィオが私に抱きついてくる。正直今更だ。昨日寝る時も近かったし。それに私はフィオの耳を触ってて両手が塞がっている。抵抗できない。
「どう?」
「暖かいよ。ありがとね」
「私も暖かい。ユア、気持ちいい。好き」
突然そんなことを言われて一瞬体がびくっ、となってしまう。フィオにも、バレただろうから恥ずかしいな。
「答え、まだいい」
「……分かった」
私はずるいと思う。フィオのことは好きだけどなんだかんだ言って先延ばしにしようとしてる。覚悟がないから。フィオも多分それが何となくわかっててそう言ってくれたんだと思う。
「ユアさん、フィオさん。出来ましたよ」
そう言ってルーファがテントの中に顔をのぞかせてくる。ルーファは気にした様子がなかったけど、私としては浮気現場を目撃された気分だ。