クラゲで口を拭くサーファー
高校以来の友人である加藤から話があると呼び出されたのは、大安の休日の事だった。
「すまんな、休みの日に」
「なんだ急に改まって……まさか金を貸せとか言わないよな?」
「ハハ……」
入る時に渡された消毒スプレーで手を拭き、そっと腰をかけた。
「実は……結婚しようかと思ってるんだ」
そうか。ついに加藤にも春が来たか。
消毒スプレーで手を殺菌し、俺は「そうか」と相槌を打ちながら出されたコーヒーに口をつけた。
「紹介するよ」
隣の部屋のドアが開いた。
見るからに親子のような年の離れ方をしている女性が、俺に会釈をした。
「初めまして。由香です」
「あ、初めまして……加藤のアレの荒川です」
「アレ言うなし」
「な、馴れ初めは?」
「この人、海で溺れてる私を助けてくれたんです」
これだからサーファーは……。
奴の浅黒い肌を見て、俺はかつてサーファーへと誘った事を軽く後悔した。
「でも──」
フフッと彼女が笑った。加藤の方を見て。
俺はメッカの方角に向かって、手を消毒した。
「私を助けた後すぐに、手を離してあたふたとしてたんです。そして何故か近くを浮いていたクラゲで手と口を拭いたんです」
「海パンに入れてた消毒スプレーが流されてさ」
「何だか面白い人だなって」
……え? それだけ?
「すぐに仲良くなっちゃってねー」
「ねー」
なんかイラッとしたので、二人に向かって消毒スプレーを放った。
次の休み、俺は海に来ていた。
偶然溺れた水着ギャルを救出する為だ。
奴を見習って、海パンを二重にして消毒スプレーを仕込んである。が、スプレーを小さいやつにするのを失念していた為、ミッションクリアまで海から揚がることは出来ない。
「だ、誰か──!」
偶然にも、水着ギャルが!
俺は渾身のクロールで、ギャルの下へと馳せ参じた。
「大丈夫ですか⁉」
「ええ、なんとか……!」
と、慌てて女性から手を離す。
だが海パンに仕込んだ消毒スプレーは偶然にも遙か向こうへと流されていた。ならば後は運命のクラゲを掴むだけだ。
──ガシッ!
「──いでッ!」
掴んだのはウニだった。流石にコイツでは口は拭けない。
「……食べます?」
「結構です」
ギャルはクロールで逃げた。仕方ないのでウニを海パンへ。後で美味しく頂くとしよう。
「君ィ! その海パンのイガイガは何だね!?」
おおっと真面目ポリス。
やることは一つしか無い。
「えーっと……あっ! 誰か溺れます!」
「なにぃっ──って居ないでは……あ、君! 待ちたまえ!!」