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第一章

     5.


 そこには、小さいオッサンが立っていた。俺の半分くらいの背丈、焼けた皮膚にたくさんのしわを刻み付けた顔。茶色のとんがりぼうしに、よれよれのシャツ、緑色のベスト、赤いズボン。  真っ黒な石を積んだ手押し車を押す手を止め、白目が黄色く濁った眼で俺をにらみつけていた。

おとぎ話に出てくる悪い小人みたいだった。

「泥棒か!?」

音楽を早送りしたときみたいな甲高い声で、その人が言った。ぶっ、と、吹き出しそうになるのを慌てて飲みこむ。


 おとぎ話の小人の恰好に音声早送りの声。でも……めっちゃ怒ってる。

 怖くはないはずなのに、胸の底がぞわっとした。嫌な予感、ってやつだ。


 後ずさったら、横からなにかを感じた。視線を向けると、ほとんど同じ顔、同じ背丈のオッサン達が魚のうろこみたいに並んで、同じ顔で俺をにらみつけていた。


 キモっ!


 全身に冷たい汗が吹き出した

 目でとっさに逃げ道を探した。来た道はふさがれている。右手の横庭につながる道には大量のオッサンさんたち。残るは、左側の横庭。

「すいません! 勝手にラズベリーを食べてしまって」

 最初に見つけたオッサンに頭を下げた。

「俺、向かいに住んでる原田 大悟です」

 オッサンが顔をしかめた。にいっと笑い、

「ハラダダイゴ」

 苗字と名前、一続きで繰り返し、

「おれは、スティーブだ」

 言ったかと思うと思い切りにらんできた。そして、

「おとなしくしろ!」

 と、いきなりとびかかってきた。気が付いたら、体が動いていた。顔面にパンチをお見舞いしたら……げえっ! 当たってねえ!


 全身に冷や汗が浮いた。


 なのにその太い指が俺の体に触れる直前、スティーブの体が吹っ飛んで、大量のオッサンたちの中に落ちた。


 ……え? どーゆーこと⁉


 俺の戸惑いとは別のところで、大量の音声早送りの声が上がった。

 めっちゃ怒ってる。

 そのまま横庭に向かった。「わーっ」という音声早送りの声が後ろに迫った。ちらっと見たら、オッサンたちがつるはしやシャベルをふりかざして追いかけてきた。

「こいつは、おれのもんだ!」

 誰かが叫ぶと、

「俺がいただく!」

「お前らには譲らねえ!」

 次々に声が上がった。背筋に鳥肌が立つ。


 こいつら、何言ってんだ⁉

 お、おれのもんとか、いただくって……譲らねえ、とか、なんだよ! 


 イケナイ想像が俺の脳裏をよぎった。


 ……俺、男だぞ! いや、今の時代、そーゆーのはかんけーねえのか!


 家の壁がとぎれて、裏庭に出た。一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなった。というのも、そこは、別世界のようだった。乾いた黒い土には、草木の一本も生えていない。サッカーができそうなくらい広い庭のあちこちに、さっきのオッサンみたいな人たちがしゃがみこんで地面をいじっている。

「そいつを捕まえろ!」

 地面をいじっていた人たちが一斉に手を止めてこっちを見た。その人たちの視線を追う。振り返ると、スティーブが地面を蹴ったところだった。

 この人たちにとびかかられ、服をはぎ取られ……その後に繰り広げられるであろう最悪のあれとかこれとかを想像してしまい、全身に鳥肌が立った。


 あ、あんたらなんかに貞操を奪われてたまるかあっ!


 体をずらしてよけ……ようと思ったけど、ダメみてえだ! 俺はもう、おしまいだあああっ!

思わず目をつぶった。



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