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あるところ

作者: 武田道子
掲載日:2020/11/18

あるところ





落葉樹林が脱ぎ捨てた衣は旅立ちの印だったのか

今脱ぎ捨てた衣はあの美しい装いを微塵も

残すことなく何の変哲もなく汚れて

雨に足に踏みにじられ けれども誰かが約束をしてくれた

春に生まれ変わることを 魔法が叶うことを祈りながら

長い暗いとてつもなく寂しい悪夢から目が醒めることを

拳を丸めて 肩で息をして惨めさを噛み締め 

深々と迫ってくる寒さを衣を捨てた体が受けとめる




一年に一度の試練に慣れることはなく

惨めな気持ちは最後の美しささえも無残に踏みにじる

生きることはやさしいことだとは誰も言ってはいないけれど

私のどこかで甘える気持ちが募るのは 絶えることが辛いから

目を閉じることさえも不安で 

自分が自分でいられないことが理不尽なのは

他の何事にも目を向けることができない心の狭さを

あからさまに突きつけられるようで




肩に積もる暗い夕方に 白銀の月の光が哀しいのは

やるせない思いを振り切ることができないから

暖かな灯りを探してさまよう心を

葉を落とした枯れ木のような街灯の光が鋭く凍らせる

とぼとぼと歩くこの道はどこへ誘うのか

冷たい脚光をあびて

降り積もる秋の重さが肩に食い入る




エピローグ



落葉樹はゴツゴツとした大枝としなやかに絡み合う小枝を

水たまりの中に見ている

衰えた姿が薄暗い水の中で哀れに歪んで見えるけれど

それが過ぎて行く季節(とき)には欠かせないことだと

知っていることが悲しみをいくらか和らげてくれる

あるところ そこで春を待つ

水たまりの上を三日月も漕ぎ出す


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