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03

それから結婚生活は順調過ぎるくらい順調だった。

王都に莫大な居を構えるヘルグレーン公爵家の次期公爵の妻であるイルヴァは、お茶会に夜会にと忙しい毎日を過ごした。

現公爵であるお義父様の補佐であるアンドレ様はとても忙しく、今日もお義父様と一緒に登城している。

屋敷に居る時も大量にある執務に掛り切りになるアンドレ様なのに、屋敷に居る時だからと休憩時間に私を呼び一緒に過ごす時間を作ってくれた。


アンドレ様は使用人にも優しく尊敬されており、その妻である私にも使用人は好意的だ。

侯爵家の家族の使用人の様な特別な絆はないが、使用人との距離感は本当はこういうものだというのも理解している為、不満などない。


それにアンドレ様は「イルヴァも一人でここに嫁いできたけれど、やはり心細いだろう?実家の侯爵家から使用人を二名程連れてきたらいいよ。侯爵が許してくれるなら。何人でもって思うけど、それは侯爵家から非難されそうだからね。名前を教えてくれたら僕から頼んでおくよ。」


そんな会話があって、名前を伝えた三日後にすぐに私の世話担当だった二人が来てくれた。

侍女二人はすぐに私専属になり、侯爵家に居た頃と変わらない安らぎの生活を手に入れた。

この時、アンドレ様が侯爵家の侍女を連れてくる事を薦めてくれなかったら、私が気づくまで・・・耳に入るまで時間が掛かっただろう。

もしかしたら、年単位の長い時間をアンドレ様に求められない不安にストレスを感じながら、跡継ぎの子供を要求する義父母に責められプレッシャーを感じながらいたかもしれない。

もしかしたら、私が気がつかないままアンドレ様は改心され、私との関係を深めてくれたかもしれない。



全ては『かもしれない』なのだが。



それでも、この時の私は、こんなに素晴らしいアンドレ様なのに、婚約者候補とかいなかったのかしら。


私には勿体ないくらいの人だ、好意はたくさん向けられていたに違いない。


そんな旦那様に望まれて婚姻出来た私は幸せ者だと、旦那様に感謝していた。








結婚から半年経った頃、アンドレ様の忙しさはさらに加速し、屋敷に帰る時間が深夜を回ることなどが増えた。

遅く帰ってくる時に起こすと悪いからと別部屋で就寝されるようになって一ヶ月。

執務の合間の休憩時間を共に過ごす時も、何となく心ここにあらずという様にぼんやりとしていたりする。


少し顔色も悪い様子が心配で「無理をされていませんか?少し仮眠を・・・。」と提案してみるも、

「今日中に終わらせないといけない仕事があるから、忙しさが落ち着いたら、まとまった休みを取って今度はゆっくりするから」と言って、休みを取らず頑張る姿に妻としてハラハラした。

私の旦那様は頑張り過ぎるわ。

妻として私がもっとしっかりケアしてあげなければ。




それからも仕事が落ち着くことはなく、公爵補佐とはこんなにも忙しいものなのだろうか?お義父様はまだ現役でいらっしゃるし、まだ家督を譲る話も出ていないはず・・・

小さな違和感を感じながら、一人だけの夫婦の寝室で眠る日々。


朝食を一緒に取ろうにも、アンドレ様はもう登城された後だったりとすれ違いも増えていった。

早くゆっくりされる様願いながらも、日々は過ぎていった。



寂しくても我慢して待ち続けた私が心配していたあの時既に、とっくに仕事は落ち着いていたのだ。

アンドレ様はおっしゃらなかった。


忙しいで全て許されるとすら思っていたのかもしれない。


あのぼんやりとしていた時期すら、仕事ではなく浮気相手の事でも考えていたのかもしれない。





その違和感から更に1ヶ月経ち、未だに身体を重ねていない夫婦の私達。

婚姻から七ヶ月が経つというのに、仲が深まるどころか、距離が開いたような現状に、落ち込む私。


侯爵家から連れてきた専属侍女が、唇を噛み締めながら深刻な表情で「恐れながら・・・。」と、話しかけてきた。




「イルヴァ様、私はイルヴァ様のことを不敬だと承知の上で、実の妹の様に思っております。そんな大切な妹が、今幸せならば、それでいいと思っていくつかの不審の種も呑み込み我慢して参りました。要らぬ火種など撒くまいと。二週間前の事です。イルヴァ様の旦那様にお願いした条件を反故にする様な噂が耳に入りまして・・・ウソであればいい、ただの噂であればいいと・・・。

祈る様な日々を過ごしながらも、最近の旦那様のご様子から、情報屋に調査を依頼しました。噂の内容からも旦那様の連日の深夜の帰宅からも・・・限りなく真実ではないかと。調査も証拠を集めるだけのことになりそうだと。」


一息に言ってから、はーーっと深呼吸する専属侍女。


「な・・・なんて言ったの今・・・条件を反故って『浮気は絶対にしない』の反故かしら。」


一瞬、この幸せな日々の中で騙され続けたいと弱気になった。


だけれど‥この侍女は私が幼い頃から仕えてくれた家族の様な存在だ。

私の「浮気は絶対にしない。」の思いも、理解してくれている。


悪戯に心配を煽ろうとする様なタイプではなく、真実を見極めて行動を起こす侍女なのだ。

噂だけで住むなら私の耳になど絶対に入れない様徹底するだろう。


情報屋に調査も証拠固めだと言う。

限りなく黒だと判断したから、私に打ち明けたのだろう。


私の反応を窺いながら待つ間も、唇を噛み締め、拳を握りしめている。

うっすらと涙目の瞳で黙って待っている。

私の次の言葉を待っているのだろう。



「分かったわ。結果が聞きたいわ。話を続けてちょうだい。」



結婚の申し込みをしてきた時のアンドレ様の言葉が蘇る。

あんなに熱心に同意してくれたのに。


裏切られたと悔しい気持ちより、失望の気持ちの方が強かった。





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