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朝食も懸念通りに「あーん」をさせられた。

する方もされる方もたくさん。

胸がいっぱいで食欲は無かったが、アンドレに勧められるまま色んな物をちょっとずつ食べる。


フルーツを口に運んであげた時のアンドレは幸せそうに嬉しそうに微笑んでいた。

イルヴァの口にフルーツを運ぶ時は、我慢出来ないとキスをくれた。


もう一回と何度もねだられる口づけで、呼吸が乱れたイルヴァの背を宥める様に撫でながら


「幸せだ。イルヴァ…」


と囁いたアンドレ。


――――心臓が持ちません…アンドレ様。


イルヴァは、キスで赤く腫れた唇を手で押さえながら頷いた。






イルヴァを見つめるアンドレの瞳、アンドレを見つめるイルヴァの瞳。

どちらにも相手へのせつない程の愛が溢れている。


使用人達は、愛し合う二人がまた見れた事に一安心し、新婚の糖度が高めの二人を優しく見守った。



婚姻式の後の幸せな空気が舞い戻って来たヘルグレーン公爵家である。



二人は仲睦まじく手を繋ぎ、公爵の執務室まで並んで歩いた。


指と指を絡め、片時も離れたくないとしっかりと繋がれた手。


どちらからとなく見つめ合い、少しずつ顔が近付きキス……


「ゴホン。」


家令の咳払いで我に帰る。を繰り返していた。


プリメラには公爵に報告後に説明する事にしていた。

昨日からずっとアンドレと供に居るイルヴァは、中々プリメラに詳細を話す時間が無かったのだ。


昨日からずっと気を揉んでいたプリメラ。


朝食を済ませ、夫婦の寝室から仲睦まじく出て来た二人を見て、大体の事は察した。


どのような話し合いがなされたにせよ、お嬢様の幸せが1番なのだから。





――――コンコン。


「アンドレです。」



「入りたまえ。」


アンドレが執務室に入室し、そのすぐ後をイルヴァが続く。


執務机から顔を上げ、二人を認めると公爵はホッと大きく息を吐く。


二人の晴れ晴れとした顔と、お互いを見つめる瞳。

仲が修復出来ただけではなく、愛が通じ合った顔だと一目で分かった。


「もう大丈夫なのだな。」


「はい。ご心配をおかけしました。イルヴァを愛しています。イルヴァも愛してくれています。」


「イルヴァさん、アンドレから聞いたと思うが…。申し訳なかった。」


公爵が頭を下げようとするので、慌てて止める。


「いえ!下げないで下さい!状況をアンドレ様から全て聞きました。皇太子様の箝口令の事も。

お義父様も、アンドレ様も、仕方の無かった事だと、今は分かっています。

私も、感情的になり過ぎて、公爵家に嫁いだ者としてあるまじき振る舞いをしたと反省しています。

申し訳ありませんでした。」


公爵に下げられる前に、慌ててイルヴァが頭を下げる。


アンドレとの契約の事は二人の間の事で、公爵には一切関係がない。

そして、あの精神状態では仕方の無かった事とはいえ、随分感情的に行動したという自覚がある。


「私は愚息が貴方への気遣いを欠いて居た事を謝罪したいのだ。

箝口令が敷かれていたとはいえ、私が貴方を気遣ってあげるべきであったと後悔しているのだよ。」



公爵の気遣いに思わず涙目になるイルヴァ。


アンドレが辛そうに目を伏せた。


「次は無い。そうだな?アンドレ。」


「はい。ご心配おかけしました。二度とこの様な事は繰り返しません。」


強い眼差しでアンドレは誓った。


「堅物堅物と心配していたが、イルヴァさんのお陰で愚息に変化があって、嬉しいよ。」


公爵は朗らかに笑う。


その笑い声はとても嬉しそうで、イルヴァの胸は喜びに弾んだ。



夫の家族に大切にされている事がこんなに嬉しいものだなんて。



アンドレはイルヴァが幸せいっぱいの表情で目を輝かせているのを見守っている。


その視線は蕩ける様に甘い。


公爵はそれを優しい眼差しで確認する。


息子が心配の余り6人もの婚約候補を選定した妻。


その息子が真に愛する者を見つけた事で、妻との約束を果たせた様な達成感を感じる。


実際に約束をしていた訳ではなかったが、妻が亡くなってからそんなつもりになっていた。



幸せな夫婦を前に、スッと冷静な表情になった公爵は、ギラリと目を光らせた。



「そろそろ、目障りなものを片付けねばな……」


二人の耳には届かない程の小さな声で呟いた。


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